モバイルワークが変わる! 次世代ホットスポット「NGH」徹底解説Computer Weekly

現在の公衆無線LAN(ホットスポット)は、接続が面倒なだけでなくセキュリティ面でも不安がある。この問題を解決するのが、次世代ホットスポットであるNGHだ。

» 2014年02月19日 10時00分 公開
[Jennifer Scott,ITmedia]
Computer Weekly

 日常的に外出先で仕事をする機会が多い人なら、出先に公共のWi-Fiスポットがあると分かってほっとしたことがあるだろう。しかし安心するのもつかの間、次の瞬間にユーザーは毎回うんざりすることになる。「契約条件に同意する」ボタンをクリックするところから始まって、一連のサインオン操作、つまりメールアドレス、郵便番号、ユーザー名、パスワードなどをいちいち入力する、あの面倒な操作が必要な場合が多いからだ。ユーザーがいら立ちを募らせ、やがて諦めの境地に至るプロセスだ。

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 だが技術の進化によって、不満を感じる必要はもうなくなった。人知れず激務に耐えた人々の努力のおかげで、こんなサインインプロセスを回避できる、次世代のWi-Fiホットスポット(NGH)が登場した。

 NGHでは、ユーザーが利用権限を取得済みのWi-Fiゾーンに移動すると、ユーザーの端末が自動的にネットワークに接続される。ユーザー名やパスワードの入力は不要だ。NGHには、ユーザーが複数のネットワークに対して権限を持っている場合、ログイン先を切り替える機能もある。しかも、切り替えのたびにサインオンを繰り返す必要もない。

次世代ホットスポット誕生

 NGHは、IT業界がWi-Fi接続の標準化の必要性に迫られたところから生まれた。

 ほとんどのWi-Fiプロバイダーはそれぞれ異なる技術を採用しているので、オンライン状態を継続するのは煩雑なプロセスだった。こんな状況から、標準となるプラットフォームの需要が生まれたと話すのは、米Boingo Wirelessで広報担当の副社長を務めるクリスチャン・ガニング氏だ。GSMA(携帯端末業者の団体)、Wi-Fi Alliance(ハードウェア製造業者の団体)、Wireless Broadband Alliance(WBA:Wi-Fiネットワークサービスプロバイダーの団体)が提携し、ユーザーが面倒な操作を繰り返さなくても携帯電話回線からWi-Fiネットワークの利用に切り替えられる方法を検討した。

自動サインアップを実現するテクノロジー

 NGHの主眼点は、Passpointという仕様である。Passpointは、端末がIEEE 802.1Xおよび802.11u機能をサポートしていることを業界が保証するものだ。IEEE 802.1Xは、ネットワークへのセキュアな認証に関する規格だ。IEEE 802.11uは、ネットワークの特定と認証のプロセスをシームレスに実現するための規格だ。

 ガニング氏によると802.11uは、ユーザーがネットワークに接続しなくても、Passpoint対応のスマートフォンとPasspoint対応のアクセスポイント(AP)の間で込み入った対話を実行するように規定している。「スマートフォンはパケットを送出して、何が起こるか様子を見る。このプロセスはビーコンと呼ばれるものだ。以前の端末が実行していた処理は、ネットワーク名、ハードウェア、他のプロトコルなど、特定の『モノ』の探索だった。802.11uの場合、ビーコンで発信しているデータの内容は、以前とは全く違う。ビーコンで発信しているデータの一例として、ローミングのアクセスのしやすさがある。これは、サポートしている全てのドメインのリストだけでなく、アクセスポイントが有効かどうかの情報も含む」とガニング氏は語る。

 業務パッケージや家庭用ブロードバンドパッケージの一部としてWi-Fiローミングがバンドルされている場合、端末はその端末情報とユーザーアカウント情報を結合した、小さい構成ファイルを端末上に作成する。端末がNGHのAPのサポート範囲に入ると、そのたびに端末は無線でAPにデータを発信する。端末が権限を持つドメインをAPがサポートしていれば、認証フェーズに進むことができる。

Wi-Fiのセキュリティと速度

 さらに、端末が認証情報を送信すると、ローミングパートナーまたはサービスプロバイダーがホームドメインに対する認証を代行する。そしてIPアドレスが割り当てられ、WPA2で暗号化した接続が作成される。ここまでの全ての処理が、ユーザーからの入力なしに進められる。

 NGHが、セキュリティを抜本的に変える進化だといわれる理由はここにある。WPA2暗号化の場合、セキュリティおよび接続は、企業の社内環境と同等である。つまり、大企業の社内環境レベルの高度なセキュリティが設定されたホットスポットであり、公共のWi-Fiホットスポットのセキュリティよりもはるかにレベルが高い。

 NGHにはもう1つ、通信速度に影響しないという利点もある。技術の進歩がめざましい領域は、アクセスの簡素化とセキュリティだ。Wi-Fiの回線速度の向上にはまだネットワークの課題が数多く残されているが、解決するのは時間の問題だろう。そこで、NGHで重視しているのは、アクセスするWi-Fiネットワーク間のシームレスな切り替えとセキュリティの向上だ。

 WBAはWi-Fiの技術革新を推進するために2003年に設立された団体で、具体的な施策を実践に移している。世界最大手のネットワーク企業、携帯電話事業者に加えて、それ以外の領域のハイテク企業もこの団体に加入している。米Google、米AT&T、Boingo Wireless、仏Orange、米Cisco、米Intel、英BT、中国のChina Mobile(中国移動通信)、韓国の大手通信事業者KTなどが加盟企業として名を連ねる。

ティッピングポイントに達するか

 しかし、NGHが効果を上げるには、通信機器のメーカー、携帯電話事業者、ネットワークサービス事業者の間の相互協力が不可欠だ。そこで実験が重視され、世界各地で実施されている。

 米国シカゴのオヘア空港で、世界的にも最大規模の実験が実施された。ガニング氏によると、この場所が選ばれた理由の1つは米国全土からの旅行者が集まる拠点だからだ。ここならば、各地のさまざまなプロバイダーの利用者に、新しいシステムのテストに参加してもらえる。またこの実験では、特定のターミナルやゲートだけでなく、空港全体を対象領域とした。これは、最も厳しい条件下でテストを実施するためだったと、ガニング氏は話す。

 実験には、通信事業者、サービスプロバイダー、機器メーカーが参加し、新しいWi-Fiの接続のしやすさ、接続が途切れないかどうか、ユーザーがそれまで接続していたAPから別のAPに接続し直すことができるかどうかなどのテストが行われている。実験は現在も続行中なので、Boingoもオヘア空港側も、実験の詳細を明かしたがらないが、業界としてNGHを大規模に展開する前に、特にユーザーエクスペリエンスについて解決を迫られている問題がいまだに幾つかあることが判明している。

 さらに、互換性のある端末の種類が少ないという課題がある。現時点では米AppleがPasspointを既にサポートしており、iOS 7が稼働している端末で利用できる。また、OS X MavericksもPasspointのサポートを実装した。韓国SamsungのGalaxy S4およびS3のユーザーも同様だ(ただしファームウェアのアップデートが必要)。これら以外でPasspointを採用している端末の例は少ない。

 八方ふさがりの「キャッチ=22的状況」(訳注)だ。端末のメーカーがPasspointを自社製品に組み込むことは考えにくい。また、Passpointをサポートしている通信事業者や機器メーカーも皆無に近い。裏を返せば、Passpointをサポートする端末が市場に出回らないかぎりは、サポートが拡大する見込みも少ない。だから、シカゴオヘア空港での実験は、このテクノロジーの効果を実証するための重要な取り組みだった。

訳注:ジョーゼフ・ヘラーの小説『キャッチ=22』(原題:CATCH-22)に由来する慣用句。作中に「狂気に陥った者は、自ら申請すれば除隊できる。ただし、自ら狂気を意識できる程度では狂気に陥っているとは認められない」という軍規があり、ここから「矛盾」「堂々巡り」を指す言葉として使われるようになった。

本格展開のタイミング

 こんな難局にあっても、2014年の後半にはPasspointの大規模な導入を開始し、2015年からはNGHの設置に本格的に取り組む展開はあり得ると、ガニング氏は考えている。これらのテクノロジーが、特にユーザーエクスペリエンスの面で改善されることが期待されるからだ。実際、WBAが実施した調査では、加盟企業の78%が2015年の年末までにNGHの展開を計画していることが分かった。また、WBAの別の調査では、2018年までにNGHは全世界のWi-Fiトラフィックの9%を占めるようになり、企業経営者にとっては1500億ドルの売り上げ増をもたらすということも明らかになっている。

 NGHに期待を寄せている人々にとっては、アップグレード作業は全く苦にならないだろう。現存するアクセスポイントが、設置してから1年未満であればPasspointテクノロジーは既に利用可能だからだ。ただし、構成のアップデート作業が必要な場合があるかもしれない。2〜4年前に設置されたアクセスポイントであれば、ファームウェアを更新するだけでNGHに切り替えられる。もっと古い機器は交換が必要だと、ガニング氏は説明する。

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