SGIがSAPやOracleと協業して新市場に挑戦Weekly Memo

ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)分野で実績を持つSGIがSAPやOracleと協業し、エンタープライズ市場に本格参入する。キーワードは「インメモリ」だ。

» 2014年06月23日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

HPCとSAP HANAの統合製品を開発

 米Sillcon Graphics International(SGI)のシニアバイスプレジデントでCMO(最高マーケティング責任者)を務めるボブ・ブラハム氏が先週来日し、筆者の取材に応じて、エンタープライズ市場への本格参入を明らかにした。

米SGIのシニアバイスプレジデントでCMOを務めるボブ・ブラハム氏 米SGIのシニアバイスプレジデントでCMOを務めるボブ・ブラハム氏

 その戦略展開の目玉となるのが、エンタープライズ向けソフトウェアの両雄ともいえる独SAPおよび米Oracleとの協業である。SAPとの協業は既に公表しているSGIだが、Oracleとの協業を明らかにしたのは今回が初めてだ。果たしてどのような協業内容なのか。

 SGIはコンピュータグラフィックス(CG)技術のパイオニアとして、創業以来30年以上にわたって、インメモリベースのHPCをはじめ、ビジュアライゼーション(可視化)やメディア&アーカイブ、データセンターソリューションといった分野で、高い技術力を武器に事業を展開してきた。

 その技術は具体的に、気象や地震などの自然科学をはじめとする学術分野、ゲノム創薬やがん治療などのライフサイエンス分野、製造業の設計・開発などで利用されてきた。さらに最近では、電子商取引などビジネス領域にも採用されるようになってきた。

 そこで、SGIがエンタープライズ市場への本格参入に向けて注目したのが、SAPのインメモリデータベース「SAP HANA」だ。共にインメモリベースのHPCとHANAを組み合わせることによって、エンタープライズ市場でも特にハイパフォーマンスが要求されるビッグデータ活用のニーズに対応できると考えたからだ。

 一方、SAPもHANAのパワーを生かすHPCとの組み合わせは望むところで、数あるHPCの中でもSGI製品を高く評価し、両社は今年1月に統合アプライアンスの開発計画を発表。今月上旬に米国フロリダ州オーランドで開催されたSAPのイベント「SAPPHIRE NOW」でその試作版を公開した。

 ブラハム氏によると、統合アプライアンスは、共有メモリを搭載したスケールアップ型のシングルノードアーキテクチャを採用。6テラバイトを超える共有メモリを搭載した単一のインメモリシステムで、企業にとってERPなどのOLTP(オンライントランザクション処理)系にもデータウェアハウスなどのOLAP(オンライン分析処理)系にも利用できるものだという。

 同氏はさらに、「クラスタ型アプライアンスの制限と複雑性から解放され、さまざまな処理をリアルタイムで実行し、競合優位の素早いビジネス上の決定が可能となる」と強調した。製品版は今秋に市場投入する予定だ。

Oracle Database In-Memoryにも対応

 ブラハム氏がSAPに続いて語ったOracleとの協業は、「現在、SGIの研究所で動作検証を進めているところ」だという。きっかけになったのは、Oracleがこのほど発表したインメンモリデータベース機能「Oracle Database In-Memory」である。同社の主力データベース製品「Oracle Database 12c」をさらにパワーアップするインメモリ対応機能が出てきたことで、SGIにとってはSAP HANAと同様、同社のHPCと組み合わせれば、現在データベース製品として最も普及しているOracle Databaseのユーザーにも、ハイパフォーマンスが要求されるビッグデータ活用を訴求できるようになるわけだ。

 ブラハム氏は、「Oracle Databaseはバージョンアップ時にハードウェアも買い替えるケースが多い。動作検証を進めている研究所では、同じ条件の下で競合製品に比べて2.5倍以上の速度が出せるとの手応えをつかんでおり、価格性能比を一層高めて買い替え需要に対応していきたい」と意気込みを語る。

 ただ、同氏によると、研究所での動作検証段階というのは、両社の協業プロセスからするとまだ始まったばかりで、具体的な製品形態や製品投入の時期などについては未定だという。

 とはいえ、インメモリ技術が架け橋となってSAPおよびOracleとの協業を進めるSGIのエンタープライズ市場への本格参入は、同じくハイパフォーマンスが要求されるビッグデータ活用ニーズを取り込みたい競合他社にとって大いに気になるところだろう。

 ブラハム氏も「インメモリベースのHPCに長年取り組んできた当社にとって、エンタープライズ向けソフトウェアの代表格であるSAPとOracleがインメモリ技術を採用したことはまさに追い風で、エンタープライズ市場への本格参入に向けて非常に大きなチャンスだと考えている」と手ぐすねを引いている様子だ。

 ちなみに、SAPおよびOracleとの協業を実現させるために、ブラハム氏もSGIに入社後これまでおよそ1年半にわたってCMOとして東奔西走してきたとか。さらにビッグデータ活用はこれからが本番とみられるだけに、CMOとして今後一層忙しくなるのでは、と水を向けたところ、こんな答えが返ってきた。

 「それこそ臨むところだ。これまでいくつかのITベンダーで仕事をしてきたが、大手の場合だと果敢にチャレンジする機会が少なかった。確かな技術と製品を持ち、タイミングを図りながら新しい市場にチャレンジするのは、マーケッターにとってまさに醍醐味そのもの。私はその可能性を十分に感じてSGIに来た」

 こう語るブラハム氏の笑顔は、人を惹きつけるものがある。何より仕事を楽しんでいる様子が強く印象に残った。SGIが仕掛けた今回の大いなるチャレンジを、ブラハム氏の手腕とともに注目しておきたい。

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