SIerが直面する2つの構造的危機ITソリューション塾

SIerは今、2つの構造的危機に直面している。1つは「生産年齢人口減少の危機」、もう1つは「スキル塩漬けの危機」だ。

» 2014年08月08日 10時22分 公開
[斎藤昌義(ネットコマース株式会社),ITmedia]

生産年齢人口減少の危機

 2010年に8000万人以上の生産年齢人口は、2030年に6700万人ほどになり、「生産年齢人口率」は63.8%(2010年)から58.1%(2030年)に下がる。つまり、人口の減少以上に、生産年齢人口が大幅に減るのである。(国内人口推移が、2030年の「働く」にどのような影響を及ぼすか)

生産年齢人口の減少 生産年齢人口の減少

 直近の5年間(2015年〜2020年)を見ても、7682万人から7341万人、341万人の生産年齢人口が減少する。この数字は、同時期の総人口の減少が、250万人の減少であることを考えると、それを上回る勢いで、生産年齢人口の減少が進むことになる。(参照:内閣府・平成25年版 高齢社会白書)

 この現実は、人を増やすことで、売り上げと利益を増やし、企業を成長させる「人数×単金×期間」の収益構造が、成り立たなくなることを示唆している。さらにこの事態に追い打ちをかけるであろうと心配しているのが、SIerにおけるエンジニアの満足度低下である。

 「3K」あるいは「7K」と言われて久しいこの業界にあって、エンジニアは、長い労働時間への負担と将来への不安を感じているようだ。

 「IT人材の7割以上が将来キャリアへの不安を持ち、特に新しい技術やスキルの習得、現在自ら持つ技術やスキルの普遍性について危惧している」(IT人材白書2012)

 このような状況が続くのであれば、生産年齢人口の減少以上に、この業界での人材不足が加速することが懸念される。

スキル塩漬けの危機

 「2020年までIT需要は衰えない」

テクノロジーの進化 テクノロジーの進化

 このような声を聞くことも少なくない。「みずほ」および「マイナンバー」の需要が減ってもオリンピックがあるからIT需要が減少することはないという見通しだ。私もこの論に反対するものではない。むしろ、IoT(Internet of Things)、モバイル、ビッグデータなど、新たなITの需要が今後とも長期継続的に拡大し続けるであろうと考えている。

 しかし、ここで注意すべきは、需要の拡大と求められるスキルの乖離が、需要はあっても仕事ができない事態を招くのではないかと危惧している。

 「みずほ」および「マイナンバー」に求められるスキルは、その手法もテクノロジーも、従来の延長でしかない。モバイルとWebアプリケーション、IoTとウェアラブル、ビッグデータとアナリティクス・AI(人工知能)は、今後大きな需要を創出すると考えられる。オリンピックの需要もこのようなテクノロジーを求められるのではないかと考えている。

 つまり、「みずほ」および「マイナンバー」の特需は、その背後で進むテクノロジーの急速な進歩に多くのエンジニアが関与するチャンスを奪い、スキルを従来のままに塩漬けにしてしまう危惧をはらんでいる。

 そうなると、たとえ今の特需がなくなり、オリンピック需要に置き換わっていったとしても、その需要に応えることができないといった事態に陥るのではないか。このギャップを短期間に埋めることは容易なことではないだろう。

 この構造的危機を見据えた取り組みが必要となるだろう。では、どうすれば良いのかは、次回整理してみようと思う。

 ※本記事は斎藤昌義氏のオルタナティブ ブログ「ITソリューション塾」からの転載です。

斎藤昌義

ネットコマース株式会社・代表取締役

日本IBMで営業として大手電気・電子製造業を担当後、起業。現在はITベンダーやSI事業者の新規事業立ち上げ、IT部門のIT戦略策定やベンダー選定の支援にかかわる。


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