誰が著作権者になるかはどうやって決まるのか?栗原潔の知財とITの交差点

ちょっと間が空いてしまったが、引き続き著作権制度の基本についてITプロフェッショナルとして知っておきたいポイントについて解説していこう。

» 2014年10月17日 08時00分 公開
[栗原潔,テックバイザージェイピー(TVJP)]

著作権はどのようにして生まれるか? 著作権は誰のものになるのか?

 前回説明したように、著作権は、土地の所有権にも似た強力な権利だ。そのような著作権はどのようにして生まれるのだろうか。

 その説明の前に、用語の定義として「著作者」と「著作権者」の違いについて説明しておこう。「著作者」とは著作物を実際に創作した人のことである。「著作権者」とはその時点で著作権を所有している人のことである。著作権は人から人へと譲渡することができるので、時の経過と共に著作権者が変わっていくこともある。

 「誰かが著作物を創作すると自動的に著作権が生まれ、その創作者が(著作者)が最初の著作権者になる」というのが大原則だ。特許、商標、意匠などの他の知財権では、特許庁に対して出願手続きを行ない、審査の結果、条件を満足していると査定された場合のみ権利が発生する。これに対して、著作権は創作した、という事実のみで権利が発生する。これを無方式主義という。

 例えば、ある作曲家が楽曲を自分で作曲すれば、その楽曲の著作権は何の手続きを行なわなくても自動的に発生し、著作者そして著作権者はその作曲者になる。その著作権を他人(例えば、JASRAC)に譲渡することもできる(その後は、著作者は作曲家、著作権者はJASRACということになる)。JASRACと契約したから著作権が発生したというわけではない点に注意してほしい。

 この「著作権が無方式主義で発生する」という点は、ベルヌ条約という世界のほとんどの国(例えば、北朝鮮も含む)が加盟している国際条約で決められている基本的ルールであり、法改正によっても、そう簡単にこの原則を変えられるものではない。

創作者=著作者=最初の著作権者というルールの例外

 上記で、著作物をクリエイトした人が著作者になり、かつ、(最初の時点での)著作権者になるという「大原則」について述べたが、これには重要な2つの例外がある。

 第一は、映画の著作物の場合である。映画の著作物については、映画製作者が著作権者になる。映画製作者とは経済的リスクを負担する人であり、劇場用映画であれば、映画会社や製作委員会などである。なお、著作者は監督、演出家等の実際に映画制作に創作的に寄与した(通常は複数の)人になる。

 ここで、映画の著作物とは別に劇場用映画に限った話ではなく、例えば、研修やPR用の映像作品も含まれるので、IT部門も関係ないとは言えない。映像作品を外注業者に制作してもらう場合には注意すべきポイントとなる。これについては、また回を改めて解説していこう。

 もうひとつの重要な例外は、職務著作である。これは、簡単に言ってしまえば、従業員が職務上クリエイトした著作物は著作者も最初の著作権者も雇用者である企業になるという規定である。職務著作となるためにはいくつかの条件があるが、実際上は、企業の従業員が業務上プログラムを作成すると、ほぼ全ての場合に職務著作に相当する。

 この場合の著作権は会社のものになり、著作者も会社になる。プログラムを作った従業員には著作権上は何の権利も得られない(もちろん、給与として著作物を作ったことによる対価は得られるが)。ここで、ちょっとややこしいのだが、映画の著作物の場合は、著作者は監督等、著作権者は映画会社等であるのに対して、職務著作の場合は著作者も著作権者も雇用主(会社)になる点に注意してほしい。

 もちろん、従業員が会社の業務とはまったく関係なしに開発した趣味のプログラムは、そもそも職務著作ではないので、従業員自身が著作者かつ著作権者ということになる。

 職務著作制度の存在理由のひとつは、権利の一元化である。例えば、広報担当者が業務上作った文書の著作権が書いた本人に帰属し、それを利用するためにいちいち本人の許可を得なければならない、というのでは業務遂行上から考えても非現実的だろう。会社が著作権を集約する規定は当然と言える。

ソフトウェア開発業務における注意点

 前述の通り、IT部門に属する従業員が仕事としてプログラム開発を行なった場合には、プログラマではなく会社が著作権を所有することになる。これは、派遣社員やアルバイトの場合も同様だ。

 では、外注の場合はどうかだろう。外注先(委任であるか請負であるかを問わない)の開発会社の社員が開発を行なった時は、職務発明の規定により発注元ではなく開発会社が著作者であり著作権者になる。創作者であるプログラマーの雇用主は開発会社であって、発注元ではないからである。もちろん、これは何も特別な契約がないデフォルト状態での話のことである。契約でオーバーライドすることは可能である。

 結果的に以下のような状態があり得る(下記は典型的なケースであり、実際にはさまざまな契約条件があり得る)。

(1)開発企業(外注先)がプログラムの著作権を持ち、発注元はプログラムを使わせてもらっているだけという状態(デフォルト状態)。

 この場合は、発注元が独自にバージョンアップを行なったり、そのプログラムを外販したりすると、外注先の著作権を侵害することになる。また、外注先がそのプログラムを他社に販売しても、発注元はそれに対して何もできない。

(2)契約により発注元が著作権を外注先から著作権を譲渡してもらった状態。

 この場合は、上記の逆であり、発注元は独自に改良・外販等を行なうことができる。逆に、外注先は勝手にプログラムの再利用や再販を行なうことはできなくなる。

(3)契約により発注元と外注先が著作権を共有している状態。

 この場合は、契約条件として定めてあれば、発注元も外注先も独自の改良・外販を行なうことができる。

 もちろん、著作権上どのような扱いを行なうかによって、その対価も変わってくる。例えば、対価を安く済ませるために、敢えて著作権の譲渡は行なわないという(1)という選択もあり得るだろう。

 口約束、暗黙の了解、思い込み等で著作権の帰属を明らかにしておかないと後になって重大な問題を引き起こすことになる。特に、発注側が上記の(2)の状態だと思い込んでいたのに、実際には(1)であった場合(つまり、有効な著作権譲渡契約が結ばれていない場合)は、大きなトラブルの種になる。

 「この著作物の著作者は誰か?」は、常に把握しておかなければならないポイントだ。


 次回も、ソフトウェア開発契約を理解するために必要な前提知識についての説明を続けていく予定だ。

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