2015年新春インタビュー

ITのはやり言葉に踊らされず、現場メリットを重視する弥生らしさを最大化――弥生・岡本浩一郎社長2015年 新春インタビュー特集

中小企業や個人事業主を対象とした会計ソフトで圧倒的なシェアを持つ弥生。従来のパッケージソフトに加え、クラウドサービスを展開する同社の戦略を聞いた。

» 2015年01月19日 07時30分 公開
[岡田大助,ITmedia]

――弥生のビジネスにとって、2014年はどのような1年でしたか?

岡本浩一郎社長 岡本浩一郎社長

岡本氏: 2014年は、記録と記憶に残る年でした。4月には消費税率の8%への引き上げとWindows XPのサポート終了という大きなトピックがありました。そして11月にはオリックスグループ入りを発表しました。本当にビッグイベントが多い年でしたね。

 また、新しいサービスとして、1月にクラウドサービス「やよいの白色申告オンライン」、7月には取引データの自動取り込みと自動仕訳を行う「YAYOI SMART CONNECT」、10月には「やよいの青色申告オンライン」と立て続けにリリースしました。

――その中から、特に成果を挙げたものを1つ選ぶとしたら何でしょうか?

岡本氏: 消費税の引き上げですね。実に17年ぶりのことでしたから、当社もそうでしたが、多くの中小企業にとって大きなチャレンジとなりました。当社のユーザーが無事に消費増税を乗り越えるためのお手伝いをできたことが一番大きな成果です。

 今、弥生は単なる業務ソフトメーカーからユーザー企業が直面する課題や悩みを解消する“事業コンシェルジュ”として進化しようとしています。これは単純に新しい税制に対応したソフトを提供すればいいということではありません。情報の提供も含めてタイムリーに提供することが大切だと考え、2014年版は例年よりもリリースを1カ月前倒ししました。

 また、すべてのユーザーがすぐにバージョンアップできて、業務ができるかといえば、そうとも限りません。問題なく移行できるユーザーもいれば、サポートが必要なユーザーもいる。事前にカスタマーセンターの増床など支援体制を整えていましたが、3月末から4月頭という例年であれば確定申告も終わりほっと一息つける時期に前年の1.8倍となる記録的な数字のお問い合わせが寄せられました。

 最終的には2014年度の問い合わせ総件数は125万件にも達し、これも前年の1.43倍です。余りにも多くのお問い合わせがあって対応が行き届かないケースもありましたが、及第点には達したと思います。

――オリックスグループ入りによって、弥生のビジネスに変化はありますか?

岡本氏: 基本的な経営方針に変化はありません。ここ数年、弥生の業績は好調でした。2014年度は消費増税とWindows XPサポート終了に起因する特需もあり売上は161.7億円に達しました。前年から50.4億円増、成長率でいうと45.3%です。しかし、会計事務所などの事業パートナーからは「株主だけが懸念材料」という指摘を受けていたのも事実です。この不安はオリックスのグループ会社になることよって払しょくされるでしょう。

 また、事業コンシェルジュという将来像がより明確にもなりました。弥生がやろうと思っていたビジネスプランのうち具体的な方策が見えていなかったものがいくつかありましたが、オリックスとのシナジーによって道筋が見えてきました。

 一般的なビジネスプロセスを簡略化すると、見積り、発注、会計処理という流れになります。弥生単独でそれぞれの部分に製品を投入しサポートしてきましたが、一連の流れとして見た場合にはまだまだ十分なお手伝いはできていません。例えば決済といったお金が絡む部分などはオリックスグループ入りによって現実的になるでしょう。

 まとめると、弥生はこれまで通り、健全に成長していきます。オリックスグループ入りは足場を固めることができ、さらなる発展が見えてきたという2つの意味で良かったと思います。

――クラウドサービスについてお尋ねします。手ごたえはどうですか?

岡本氏: 一連のサービスをほぼ予定通りリリースできました。開発スケジュール的には相当にしんどい1年でしたが(笑)。ユーザー数は期待を爆発的に上回る数字とはいえませんが、現実的なラインで推移しています。当社のサービスはニーズありきで、ユーザー数を稼げばいいというたぐいのものではありません。お客さまが支払う対価に見合うサービスを提供し、有償ユーザーを着実に増やしていきたいと思います。

――「青色申告オンライン」や「白色申告オンライン」、またそれ以前から提供しているクラウドデータストレージ「弥生ドライブ」などはMicrosoft Azure上で動いていますが、これを選んだ理由は何でしょうか?

岡本氏: マイクロソフトとのパートナーシップは今後も続くでしょうし、弥生のクラウドサービスを説明するうえで日本国内のデータセンターにあって、バックアップ体制がどうなっているのかという文脈でMicrosoft Azureの話をしていますが、必ずしもこれでなければいけないということはありません。

 大切なのは、クラウドを使うと何ができるようになって、ユーザーにどのような価値を提供できるのかを見極めること。例えば、先ほど話にでましたカスタマーセンターでは業務システムを2014年に刷新しましたが、これにはSalesforceのService Cloudを採用しています。他社のプラットフォームもニュートラルに比較した結果「Salesforceが最適だね」となっただけであって、どのプラットフォームでなければいけないといった話ではありません。

――クラウドによって実現する価値が重要であって、クラウドでなければいけないということではない?

岡本氏: そうです。例えば「弥生会計」や「やよいの青色申告」といったパッケージソフトとクラウドを組み合わせたらどんなことができるようになるのかが重要です。実際にYAYOI SMART CONNECTを介して他社のクラウドサービスやスマホアプリとも連携できるようになりました。

 YAYOI SMART CONNECTは、クラウド家計簿の「Zaim」、お金管理サービスの「MoneyLook」、クラウド請求書の「misoca」や「MakeLeaps」、タブレット型POSレジの「スマレジ」や「Airレジ」、スマホから取引入力ができる「biznote for やよいの白色申告オンライン」、そして「Twitter」と連携しました。

 2015年も連携先は増えていきます。ただし、連携数を競うのではなくユーザーへのメリットを重視しています。業務の流れの最初から最後まで、弥生とその連携先を使うことで効率化できるものです。ここにオリックスの何かが入る可能性もあります。

――最後に2015年のビジョンを教えてください

岡本氏: 消費税率の引き上げも延期となり、2015年はよくも悪くも2014年のような大きなイベントがありません。腰を据え、やるべきことをコツコツと積み上げ直す年だと位置付けています。2014年はスピードを優先する中で、使い勝手へのこだわりや「弥生らしいね」といわれる部分が少しおろそかになってしまったかもしれません。もっとできるはずです。どんどん改善していきたい。

 弥生はITソリューションのプロバイダーですが、同時にユーザー企業でもあります。テクノロジーのはやり言葉やうたい文句に踊らされることなく、ユーザー企業が達成すべきものは何なのかを真剣に考え、実際に業務上のメリットを感じてもらえるソリューションを提供していきます。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ