攻めのITに取り組む企業を選出したり、企業のIT投資についての調査を行うなど、経済産業省が「攻めのIT」を推進しようと活発に動いている。国として、今「攻めのIT」を推進するのはなぜなのか。経産省の担当者に聞いてみた。
“攻めのIT経営”に取り組んでいる企業は約2割――。
これは、経済産業省が「平成26年情報処理実態調査」の結果として2015年6月4日に公表したデータだ。
この調査は国内企業のIT活用の実態を把握するため毎年行われているものだが、今回の調査報告では特に“攻めのIT”に関するデータが強調されている。新たなビジネスチャンスをつかむIT活用を意味するこの言葉が使われるようになって久しいが、まだまだ消極的な日本企業のIT活用に、警鐘が鳴らされた格好だ。
経産省は5月にも東京証券取引所と共同で、ITによる改革に積極的に取り組む企業「攻めのIT経営銘柄」を発表している(関連記事)。国として、今「攻めのIT」を推進するのはなぜなのか、経済産業省 商務情報政策局の石川正樹審議官に聞いた。
「ITを戦略的に活用できない企業は“消えていく4割”にまわってしまう……そんな危機感を持っています」――国を挙げて“攻めのIT”を推進する背景について、石川氏はこう話す。
この“4割”とは、先日、米Cisco SystemsのチェンバースCEOが発して話題になった「10年後までに、今ある企業の4割は姿を消す」という言葉だ。ビッグデータやIoTなど、ITの発展とともに企業の競争環境が大きく変化している今、IT活用への姿勢が企業の生死を分けるというのだ。
過去の調査でも、企業のIT投資と生産性の間には、相応の相関関係が認められるという結果が出ている。しかし、IT投資において重要なのは金額以上にその内容、そして企業の経営戦略における位置付けだ。その点において、欧米に比べて日本企業は大きく改善の余地があるというのが、経産省の見立てである。
「日本の企業では、IT投資の多くがメンテナンスの経費として、経営層のチェックなしで淡々と支出されているケースが多いようです。役所で言えば、水道代や電気代と同じような扱いということですね。あらゆるデータやアンケートを見ても、経営課題におけるITの重要度は低く、それが過去10年くらい変わっていないのです」(石川氏)
JEITAとIDCの調査でもIT投資への意識の低さが見て取れる。日米を比較すると、日本では手作業で行っていた業務をITに置き換えるといった業務効率化やコストダウン的な用途、すなわち「守りのIT」への投資が主眼であるのに対し、米国では製品・サービスの開発強化やビジネスモデル変革といった「攻めのIT」への投資の割合が大きい(下図)。その背景には、経営層がITの重要性を認識しているかという点に違いがあるとみられる。
「日本では、『ITのことは自分の専門外だから担当者に任せる』という経営者が多い。IT部門も、CIOが情報システム管理の責任者のような位置付けで、会社の経営戦略について社長と密に話す機会がないケースが多いようです」(石川氏)
CIOという肩書が名ばかりの管理者になっていないか、役員や重役の中にIT担当/IT戦略担当がいるか。こうした点からも、企業がITを経営課題に挙げているかが分かると石川氏は言う。
「米国でITが企業戦略上で重要な位置付けにあるのは、経営者のスキルとしてITが必須のものとなっているからでしょう。今の日本でそうなっていないのは、経営者のキャリアパスなど国ごとの事情があるので仕方ありません。ですが、これからはITを社長レベルの問題として捉え、“攻めのIT”へと切り替えていく必要があります」(石川氏)
とはいえ、日本にも攻めのITに積極的に取り組んでいる企業はある。実態を調査する中で、経営会議の前半30分は必ずIT関連の話をする企業や、“社長候補”に必ずIT部門を経験させる企業など、ITを戦略的に活用するために、経営トップが中心になって動いている企業も少なくないことが分かったそうだ。
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