もし亡くなったら――いま熱いデジタル遺品(後編)萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(1/3 ページ)

これから注目される「デジタル遺品」について前回は、広義の「遺産」で多くの人が直面するであろう問題点を解説した。今回は本論の「デジタル遺品」の定義から始めよう。

» 2015年10月30日 08時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]

 実は前回の冒頭の文章でわざと以下のように記した。

自分や身近な人が亡くなった時における大切な写真やメール、インターネットサービスなどのデータだ。このデジタル遺品について解説しよう

 その理由は、多くの人が「デジタル遺品」という言葉を聞くと、このようにイメージされる。これは誤りではないが不十分だし、核心的な部分でもない。このようにイメージしてしまう根底には、本来の「遺品」は現金や株券、証券などアナログなものであり、ここに本人にとっては価値のあるデジタルな部分が「デジタル遺品」として加わるというように考えるためだ。

いまやあらゆるモノが実際には“デジタル情報”として存在している

 しかし、現実にはほとんどの遺産・遺品が“デジタル”になっている。個人的に価値のある写真やデータ以外にも、第三者目線で価値があると考えるものでそれがデジタルになっていれば、すなわちデジタル遺品というわけだ。PC、タブレット、スマホ、USBメモリ、SDカード、デジカメ、外付けHDD、CD、DVD、ブルーレイディスクなど、ありとあらゆるデバイスに存在しているデジタル情報を意味する。

 例えば、株券では既に新規発行株がデジタル化されている。普通預金なら通帳のない金融機関も存在する(欧米ではそれが普通)。ネットバンキング、現物株の売買、金などの先物取引、FX、各種商品相場の先物、債券先物、債券先物オプションなども、今では証券会社の店舗などに出向いて売買するというケースはほとんどない。これらにおける重要な取引の“痕跡”のほどんとはデジタル情報としてPCやスマホに存在している。

 こうなったのは、単純にアナログがデジタルになっただけだろうか。そう思っている方は確かに多いが、その結果によってどうなったのだろうか。以下の変化が挙げられるだろう。

  • 実際のお金の運用が配偶者や家族には全く目には見えなくなった
  • PCやスマホ内部のデータが遺品になることで、秘密にしていたことも含めて本人の生前の動きが見えるようになった

 その人が急死してしまう(本人はそういう目に遭うとは思っていない)場合に、日ごろから配慮していなかったことで様々な問題が現実化する。

 例えば、その人のお金、もしくはお金に換金できる「遺産」は、その後に伴侶や子どもが安心して生活できるためのものであり、個人のものではない。万一の場合は、速やかにどこの銀行や証券会社、保険会社でどのような取引があり、死後にどうするのかといったことを考えないといけない。特に時間的な余裕のないFXや先物、ネットオークション(主に出展側が問題になるが)は、速やかに対応する必要があり、「情報の開示」をどうするのかについて用意しておく。

 また統計的には、結婚前の恋人の手紙や写真を大事にスキャンしてPCに保存している男性が、女性に比べて圧倒的に多いという。こっそりと不倫中のメールや旅行の写真、ベッド上の写真を大事に日付ごとのフォルダで保存している人もいる。ネットなどから入手した大量のヌード画像や動画、違法行為になるような趣味、興味に関するデータを保存している人も少なくないだろう。PCなどの機器の中には、こんな様々な「事実」が存在している。自分が急死した時にこれをどうすべきか。対策をしている人は極めて少ない。

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