産地の声が届く接客、大型チェーンでも 四十八漁場を変えたITの力(前編)SNSで社外を巻き込む(2/2 ページ)

» 2015年11月18日 08時00分 公開
[西山武志ITmedia]
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社内SNSでスタッフと生産者をダイレクトにつなぐ

Photo 新鮮な魚とおいしい日本酒が楽しめる四十八漁場

―― 四十八漁場では、社内SNSに食材を提供する漁師さんも投稿できる……という話を耳にしました。社外の人も社内SNSを使えるようにしているのは、珍しい事例ではないでしょうか。

鈴木氏 四十八漁場では社内SNSを活用して「産地共有ノート」と名付けたコミュニケーションの場を設けています。店舗のスタッフにとって食材は、大抵の場合「毎日どこかから勝手に送られてくるもの」であって、そこに届くまでのストーリーが見えないんですね。

 接客をするスタッフが食材の背景を知らなければ、お客さまに料理の魅力を伝えるのは難しい。生産者とスタッフの距離を縮めることで、スタッフの食材に対する理解を深められたらと思ってスタートしました。

―― 「産地共有ノート」は、どんな役割を担っているのでしょう。

鈴木氏 四十八漁場は市場を介さず、全国十数カ所の漁師さんと直接取引をしています。彼らにその日獲れた魚の情報を、社内SNS上に用意した産地共有ノートに書き込んでもらうんです。

 トークノートはアプリをインストールすれば個人のスマホでも簡単に使えるので、漁師さんたちには弊社の社員が使い方をレクチャーし、なるべく自分の言葉で魚の情報を書いてもらっています。

 とはいえ、漁師さんの中には、スマホを持っていない方や高齢の方もいらっしゃるので、本人が書けない場合は現地にいる駐在社員(バイヤー)が代筆することもあります。ただ、最近では50〜60代でもスマホを持っている漁師さんが多いんですよね。飲み屋のお姉さんとLINEでやりとりをするためにスマホを買って、意外と使いこなしているそうです(笑)

―― 使うモチベーションが明確にあると操作も覚えられるんですね、きっと(笑)

鈴木氏 産地共有ノートには、毎日どこかしらの漁師さんから、獲れたての魚の情報が写真付きで寄せられます。それに対して「いいね!」がたくさん付いたり、若いアルバイトスタッフが「その魚、届くのを楽しみに待ってます!」とコメントしたりするんです。

 漁師さんたちもそういった反応が来るのを喜んでいて、毎回たくさんの豆知識を盛り込んで長文を書いてくれる方もいるんです。慣れてきた漁師さんは「今日はいいねが少なかったな……」とぼやきながら、試行錯誤を繰り返してますよ(笑)

―― ここでもSNSの双方向性が生かされているんですね。産地共有ノートを始めたことで、接客の質に変化はありましたか。

鈴木氏 現場で接客の武器になっていますね。産地共有ノートによって、全スタッフが「どんな人がどんな思いで獲った、どういう魚なのか」が分かるようになったのは大きいと思います。

 魚の特徴を把握できるのもさることながら、生産者の個性を知ることで、お客さまに「この魚を獲った漁師さんはこんな人なんですよ!」といった“現場のリアル”を伝えられます。人間味のある情報は、きっとお客さまに響くはずです。

Photo メニューで紹介されている魚の情報をもっと知りたいときは、スタッフに聞けば詳しく教えてくれる

―― 生産者との交流を通じて食材に対する知識を深めていく中で、アルバイトスタッフたちのモチベーションや働き方に変化はありましたか?

鈴木氏 接客スキルは確実に向上しましたね。四十八漁場の店舗では魚の種類や産地など、扱う食材について覚えなければいけないことが多いんです。これを義務感から覚えるのではなく、生産者との対話を通じて楽しみながら覚えることでメニューが好きになり、お店のことをより好きになってくれる。お店を好きになれば接客の質が上がり、さらに意欲的に理解を深めてくれる……そんなプラスのサイクルができ上がっているんです。

 産地共有ノートには、“働くスタッフの満足度を上げる”という意図がありました。生産者とつながることで、食材に愛着が芽生え、働くことにやりがいや楽しさを感じてくれたらなと思っていたわけです。接客の質は、現場でお客さまと対話する彼らの満足度が上がれば、自然と上がるだろうと考えていました。この点は予想通りの展開になりましたね。


 後編では、現場に新しいツールを定着させるための工夫と、すぐには売上アップにつながらないツールの導入を推進するための周囲の巻き込み方について聞く。

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