ヤクルトの売り上げを大幅に伸ばしたデータアナリティクスの秘密Computer Weekly

ヤクルトのオランダ法人は、データアナリティクスを活用して20%の売上増を実現した。分析の結果、購買者の行動や嗜好も明らかとなり、夏に売り上げが低下した原因も判明した。

» 2015年12月16日 10時00分 公開
[Bill GoodwinComputer Weekly]
Computer Weekly

 プロバイオティクス(人体の健康を増進する細菌)飲料のメーカーである日本のヤクルト本社(以下、ヤクルト)は、アナリティクスとデータ可視化を行う洗練されたツールを利用して顧客の習慣的購買行動を把握し、オランダでの売り上げを15〜20%も伸ばした。

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 同のオランダ法人は公開されているデータと非公開のデータを幅広く集めて分析し、オランダのスーパーマーケットにおける同社商品の売れ方を特定した。そして、ヤクルトオランダ法人の売り上げは、ただ1つの商品に支えられていることが分かった。その商品「ヤクルト」は発酵させた牛乳にバクテリアを加えたもので、健康志向が強いコンシューマーが好んで購入していた。この乳飲料は1930年代に日本で開発され、現在は33カ国で販売されている。販売を担当するのは、これまた同社独自の「ヤクルトレディ」だ。アジア地域では各家庭への配達、西欧ではスーパーマーケット店頭での販売という形式を取っている。

 2015年度の全世界のヤクルトの売り上げは30億ドルを計上しているが、ライバル企業である仏Groupe Danoneも2004年からプロバイオティクス飲料を発売しており、ヤクルトは激しい競争に直面している。しかしライバルに市場シェアを奪われるどころか、競合商品の登場以来、両社ともに売り上げを伸ばし続けていることが分かり、ヤクルトはその理由を詳しく分析したいと考えていた。

 「どうやら競合他社とのシナジー効果が表れているらしい」と本誌Computer Weeklyに語るのは、ヤクルトオランダ法人でマーケットアナリストを務めるエグバート・ヤン・フィアカント氏だ。

直感的なスプレッドシート

 分析を開始するまで、ヤクルトは市場の変化を決定する要因は何なのか、情報を全く把握していなかった。データは社内に分散しており、従業員が個人的に作成したスプレッドシートだけに格納されている場合も珍しくなかった。

 ヤクルトはこんな状況を変えるため調査活動に割り当てる予算を倍増し、マーケットアナリストを迎え入れて、市場のダイナミクスに対する理解を深めることに注力した。

 こうして同社に入社したフィアカント氏には、ビジネスインテリジェンス(BI)ソフトウェアである「IBM Cognos」、統計ソフトとして広く普及している「IBM SPSS Statistics」、独SAPのアナリティクスパッケージ「BusinessObjects」などの利用経験があった。

 同氏はある日、スウェーデンの新興企業(当時)、Spotfireの営業担当者からアナリティクスパッケージを提案された。複雑なプログラミングを行わなくても分析結果をグラフ形式で表示できる機能が気に入って、すぐに導入したくなったという。「直感的な分かりやすいUIだったので、自分が以前から慣れ親しんでいた環境を取り戻した気分になった」と、フィアカント氏は当時を振り返る。

 「前もって戦略を考える必要はない。分析処理は高速で実行できるから、いきなり画面に向かってやってみればいい。米Microsoftの『Excel』に比べると、処理速度は500倍も速い。グラフの作成には数秒しかかからない」(フィアカント氏)

クラウドに移行するまで待った

 フィアカント氏は、「Spotfire」がクラウドサービスに移行するまで待つことを決断し、満を持して自社幹部に対するビジネスケースのデモを実施した。同氏が提示したのはビジネスケースというよりもシステムのデモであり、同社の経営陣はその場で質問し、フィアカント氏は操作を実演して回答して見せた。

 同氏はそのときの様子を、オランダにもたくさんある日本の鉄板焼きレストランに例えて、「客の目の前で調理する、日本人のコックになった気分だった」と語る。

 経営陣に「ソフトウェアの導入コストはわずか数千ポンド」と、ほとんどタダ同然であると説明したことも後押しになったのか、同社は程なくSpotfire導入の契約を交わした。

データの活用で売り上げ増

 ヤクルトは現在もこのソフトウェアを運用している。Spotfireは現在、米国のハイテク企業TIBCO Softwareに買収されて同社の一部門となっている。TIBCOは最近、スーパーマーケットに対して、ヤクルトや他のプロバイオティクス商品の売り上げを伸ばした方法のデモを実施しているという。

 「当社の商品は、1つのカテゴリ内に100〜150点あり、その商品同士で店の1つの棚を奪い合っている。店舗での棚割(商品の配置)は、われわれの目下の課題だ。売り上げを最大限に伸ばす方法については、当社は店舗よりも知識が豊富だと自負しているから」とフィアカント氏は説明する。

 同社は今や、スーパーマーケットの店舗別に同社商品と競合商品の売り上げの比較や棚割1センチ当たりの商品の回転率を、1ページの書類に出力することができる。

 「データを何百ページも延々と出力する必要はなく、要約を1ページにまとめて出すことができる」と同氏は付け加える。

 ヤクルトのアナリストは小売店にヤクルトのデータへのアクセス権限を与えることができる。そのため、必要に応じてその場で情勢のトレンドや売り上げの分析を提示したり、棚割を変更した場合の効果を小売店に実験してもらったりすることも可能だ。

購買行動に対する知見

 ヤクルトがSpotfireを活用したことによる最大の成功例は、通常サイズのヤクルトの7本パックの隣に15本パックを並べると、どちらの商品の売り上げも伸びることをスーパーマーケットに証明したことだ。

 「15本パックを購入する客層は、7本パックの客層とは異なることを発見した」とフィアカント氏は説明する。

 分析によって、ヤクルトのヘビーユーザーは主に一人暮らしまたは二人暮らしの高齢者世帯であることが分かった。また統計から、女性客は少しずつ頻繁に購入するが、男性客は大量のパックをまとめ買いする傾向にあることも分かった。「これは意外な事実だった。データを追跡する中で偶然発見した」(フィアカント氏)

データハーベスティングの成果

 フィアカント氏のアナリストチームは多様なデータをSpotfireに入力して、トレンドを分析している。

 システムに入力するデータは、商業ブランドの追跡調査、小売店から受けた注文、気象データ、広告キャンペーン、Googleの検索エンジンから取得するデータ、ヤクルトの公式Webサイトの訪問者数、マスメディアに掲載されたヤクルト関連の記事の分析などだ。

 Spotfireで構築したシステムは、40個のデータフィールドを含むレコードを50万件、つまり2000万点のデータを保持している。

 「これだけの量のデータをExcelで処理したら何年もかかるだろう。しかしSpotfireは処理速度と視覚化の機能が素晴らしいので、自由に操作できるし、必要なデータだけ取り出すのも簡単だ」とフィアカント氏は胸を張る。

 また分析によってヤクルトは、夏の広告キャンペーンがオランダでは不発に終わり、売り上げが伸び悩んだ原因を特定した。

 「分析するまでは、広告の魅力が足りなかったか、2015年の夏は例年より気温が高く、暑すぎて乳飲料には手を伸ばす気になれない人が多かったかのどちらかだろうと推測していた」とフィアカント氏は説明する。ところが真の原因は、推測よりもはるかに単純だった。休暇で旅行に出掛ける人が多い時期に売り上げが落ちたが、その時期が過ぎると売り上げも回復したのだ。

携帯端末からもデータを閲覧

 フィアカント氏は、オランダ、ドイツ、ベルギー各国のマーケティング、セールス、広報の各部門向けにリポートを作成しているが、リポートのベースとなるデータは4週間ごとに更新する。

 次のステップとして同氏が目指しているのは、Spotfireで処理したデータを閲覧できる環境を拡大して、携帯電話やタブレットからも利用できるようにすることだ。

 そこでヤクルトは、TIBCOの「Jaspersoft」を評価している。このソフトは管理職向けのシンプルなダッシュボードを表示するもので、例えば売り上げが当期の目標をどの程度達成しているのかをすぐに確認できる。

 「Spotfireを導入しなければ、現在のように売り上げ20%増を達成するまで、もっと時間がかかっていただろう」とフィアカント氏はこの製品を評価している。

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