トップ企業に聞く、ITと社会貢献

クラウドがあらゆる“格差”を埋める未来――日本オラクル・杉原社長2016年 新春インタビュー特集

POCO戦略を打ち出し、クラウド事業を推進しているオラクル。社長の杉原氏は、クラウドには、日本の競争力を阻害するさまざまな“格差”を解消する力があると語る。特に高齢化社会対策で効果を発揮する可能性があるようだ。

» 2016年03月07日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

新春インタビュー特集:「トップ企業に聞く、ITと社会貢献」

 自然破壊、超高齢化社会、経済格差、ダイバーシティ……現在、私たちの世界はさまざまな困難に直面しています。政界や経済界など、いろいろなプレイヤーがその解決に向けて動いていますが、近年はITベンダーも有力なプレイヤーになりつつあります。

 ITでどのように社会課題に向き合い、どう解決していくのか――。本特集では、有力ベンダー各社のキーマンに、その取り組みと思いを聞いていきます。

photo 日本オラクル 取締役 代表執行役社長兼CEOの杉原博茂氏

――近年、ITは人々の生活に欠かせない“社会インフラ”となり、社会問題の解決策として注目を浴びる機会も増えてきました。杉原社長自身は、どんな社会問題に注目していますか?

杉原社長: 私が今最も危惧しているのは“格差”の問題ですね。私がアメリカから日本に来たときに、東京に売上や人材全てが一極集中していると感じました。高齢化もそうですよね。都市と地方では大きく様相が異なります。

 大企業と中小企業にも差があるし、日本とグローバルでも差がある。グローバルの格差、都市と地域の格差、大企業と中小企業の格差、年齢格差――私としては、主にこの4つの格差があると思っています。これが日本の競争力を阻害していると思うんです。

 例えば米国では、ニューヨークだけに全てが集中しているわけではなく、州ごとに人口や経済なども分散してますよね。もちろん地理や政治、歴史的な要因もあるとは思いますが、格差がなくなるメリットは大きいです。首都圏と地方の格差がなくなれば、もっと安くて広いところに住めるし、長い時間をかけて通勤する必要もなくなる。いいことだらけです。しかし、そこに雇用や医療、行政などがついてこないから、一極集中になっていると思うんですよ。

――こうした問題を解決するために、オラクルはどのような取り組みをしているのでしょうか。

杉原社長: 日本オラクルは今事業戦略として、クラウドに注力する「The Power Of Cloud by Oracle」(POCO)戦略を進めていますが、クラウドにはこうした“格差”を解消する力があるのです。

 私自身は、ITは人が何かをやりたいときに使う道具だと思っています。しかし、買って所有して運用するというのは大変な労力とお金がいるもので、歴史的に見ても、格差の問題は解消されてこなかったのが現実です。それらをギュッとまとめて賃貸にするのが“クラウド”です。

 賃貸にすることで初期投資が低くなるため、お年寄りでも地方の人でも、中小企業でも日本国内の人でも使える。これまで手が出なかった、センサーデータを解析するといったインフラもすぐ手に入り、一夜でできるようになる。これが格差を解消する力を生むのです。

 情報システムで最も手間がかかるのは維持と運用です。だからみんな手が出ない。維持や運用をベンダーに任せて、地方の人たちでもすぐに使えるようにする仕組みを、たまたまクラウドと呼んでいるだけなんです。

 ただし、クラウドを活用するにも人材が必要になるので、弊社はOracle Academyという取り組みを行っています。もともとは大学や専門学校向けに年会費をいただいてソフトウェアを無償提供していましたが、その会員費を無償化し、さらに、Javaやデータベースといった技術の教材やトレーニングを無料で日本の中学や高校へ提供することにしたのです。もちろん首都圏限定ではなく、北海道から九州、沖縄まで、積極的に参加してほしいと呼びかけています。

――格差が解消されると、どのようなことが起こるのでしょう?

杉原社長:  高齢者の雇用などはよい例だと思います。弊社がクラウドで提供している人事のタレントマネジメントの仕組みを生かせます。例えば、私が65歳とか70歳に なったときに仕事を探すと、シルバー人材になるじゃないですか。皆さんだってそうです。

 現状ではシルバー人材が就ける仕事の選択肢は少ないと思います。定年するまで働いて、さまざまなスキルを持っているにもかかわらず、シルバー人材になったとたんに、駐輪場整理や路上喫煙の取り締まりぐらいしか選べない、みたいなケースだってある。

 そういった取り組みを縦割りでやってしまうと、地域によってどういった人材が必要とされているか分からないんです。横展開で情報を共有しようとしても、そんなお金は政府や地方自治体にないわけです。システムを作るだけで何千、何億の世界ですから。それをクラウド賃貸で、オラクルのシステムをすぐに使えるということになると、きっと地方自治体が活性化しますよね。

 格差が消えると何が起こるか。みなさんが65歳、70歳になって例えば信州に住みたいと思ったとき、光ファイバーの太いネットワークやサテライトディッシュ(衛星放送受信アンテナ)があれば、仕事は全部できるし、空気もいいし、育児もできる。それでいて、医療は全部DNAとか検査してもらいながら米国の大学病院から診断を受けたり――みたいなことができれば、意外にイケイケなお年寄りが増えるんじゃないかな。そういうことを実現できれば、と思うんです。

――それは夢がある世界ですね。

杉原社長: 日本全体を見れば、住めるところはたくさんある。ラフティングとかキャンプが好きな人は、山間部でもネットワークと電気があれば結構快適に住めるはずです。あとはクラウドサービスがあれば、インターネットで世界とつながる。

 音楽系アプリでも、何十億曲といった曲を定額で聴き放題とかあるじゃないですか。業務アプリケーションを同様のサービス提供形態で展開していきたいというのがオラクルの本当の狙いです。それはラリー・エリソンも言っている。僕としても、そういう哲学と志がある中で、給料をもらいながら、自分のために、老後のために少しでもいい社会を作りたいという思いです。

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――クラウドであらゆるものをシェアできるようにすることで、格差がなくなっていくということでしょうか。

杉原社長: そうですね。だから提供の仕方が大事になってくると思うんです。タレントマネジメントも予算管理も、ERPもデータベースも。いろいろなアプリケーションを賃貸していく。それが全部疎結合して世界とつながるわけです。利益を度外視すればこういうことは今の技術で結構できると思っていますよ。

 あとはこのムーブメントをどう大きくするかというところでしょうか。僕はクラウドを賃貸や所有かに例えていますけど、こういう説明をしないと経営者を始め、多くの人はさっぱり分からない。一体クラウドで何ができるのか。その力や効果をもっともっと分かりやすく、説明していくのがオラクルの使命です。われわれもまた、これまで30年間難しい表現でITを説明してきたと思っているので。

 “道具”というのは使ってもらってなんぼの世界じゃないですか。それを道具屋が偉そうなことを言っていたのが、今までの40年なんですよ。道具屋が偉そうなこと言ってちゃダメなんですよね。偉そうなこといって高く売りつけてたらダメ。今後はそれをどんどん変えていかないと、高齢化社会に対応できないでしょうね。

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