クラウド導入で運用管理の手間を軽減できるはずだったのに、かえって作業が増えてしまった――。オンプレと複数クラウドの混在環境が当たり前になりつつある今、複雑化する一方の運用管理をどうやって整理すればいいのか。IDC Japanの入谷氏に聞いた。
今、クラウドの導入に踏み切る企業が増えている。クラウドサービスが登場した当初、企業はコスト削減やBCP対策を目的に導入していたが、昨今では、IoTやAIなどの新技術を使ったサービスのプラットフォームとして利用するケースが増えており、それが市場の急成長を支えている。
調査会社IDC Japanが2016年8月に発表した「国内パブリッククラウドサービス市場予測」によると、2015年の国内パブリッククラウドサービス市場は2014年比で約40%増と急伸。2020年には、2015年比で2.7倍になると予測している。
しかし、こうしたクラウド市場の急伸が今、企業に新たな課題をもたらしている。それは、オンプレミスとクラウドが混在する環境下で複雑化する運用管理の問題だ。
これまでは、オンプレミスで構築したシステム基盤の運用管理をしていればよかったが、そこにクラウド事業者が提供するIaaS、PaaSで構築したシステム、さらにSaaSのアプリケーションが追加されると、それに比例して運用管理の負担が増えてしまうのだ。
多種多様なシステムが混在する環境下で運用管理を効率化するには、まず何から手をつければいいのか――。IDC Japan アナリストの入谷光浩氏に聞いた。
入谷氏によれば運用管理の問題は、企業がシステムのクラウド化に踏み切っても、従来システムの資産が残ってしまうケースが多いことに起因するという。
「全てパブリッククラウドにできればいいのですが、大手企業になればなるほど社内にさまざまなシステムがあるため、一気に移行するのは難しいのです。“基幹システムはオンプレミスの環境に残し、Webサービスにはパブリッククラウドを使い、パブリッククラウドには移行できないがクラウド化したいところはプライベートクラウドを使う”――といったように、今や企業内にさまざまなインフラが混在する形になっており、運用が複雑化しているのが現状です」(入谷氏)
IDC Japanの調査によると、運用管理の課題は「運用管理担当者のスキル不足」「運用管理の自動化ができていない」「システムの一元管理ができていない」という3つが上位に挙がるという。仮想化によるメリットはハードウェアのコスト削減がほとんど。むしろ、ハードウェアではシステムリソースが以前にも増して潤沢となったことから、仮想化されたシステムが無尽蔵に構築されてしまい、運用面では効率化されるどころか、むしろ逆に管理負荷が高まる一方だという。
「仮想化以前は、システムの可用性の観点からハードウェアの管理が重視されていました。しかし仮想化によってハードウェアのみならず、仮想的なシステムリソースの全体を管理する必要がでてきたのです。サーバ管理者がネットワークも監視するようになって現場の負荷が増えるとともに、管理者が学ぶべきスキルも増えているのですが、そのための時間は足りません。その結果、スキル不足に悩むことになるのです。スキルがなければ、自動化も一元管理も進みません。運用管理ツールの機能は、どんどん増えて便利になっているのですが、スキルがなければ使いこなせない。そのギャップは増す一方で、それが根本的な問題となっているのです」(入谷氏)
そもそもオンプレミス主体のシステム環境ですら、“サイロ化”といわれるほどに個別のシステムが乱立して十分な運用管理が難しい。そこに多種多様なクラウドが加わることから、もはや運用の見直しや統合管理の必要性が待ったなしの状況といえるわけだ。
システムの統合運用管理は、まだ手つかずの企業も多く、IDC Japanが複数のクラウドを使っている企業に調査したところ、「統合的に管理できている」と答えた企業は、IT企業ですら、5割にとどまるという。
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