有力企業のトップに聞く 2017年、ITは何を生み出せるか

働き方を含めたビジネスインフラの変革に注力――富士通・阪井常務2017年 新春インタビュー特集

ワークスタイル変革やデジタル変革といった数々の“変革”が叫ばれるが、それらは企業のビジネスインフラに直結する。世界16万人の社員が働き方変革を実践する富士通が、2017年に目指すものとは――。

» 2017年01月11日 10時00分 公開

新春インタビュー特集:「2017年、ITは何を生み出せるか?」

 「デジタル・ディスラプション」や「デジタル・トランスフォーメーション」という言葉に代表されるように、近年、デジタル化によって、既存のビジネスや社会の在り方が大きく変わろうとしています。

 ともすれば、危機感を煽るような捉え方になりがちですが、変化の後には必ず“創造”がある。その結果は、私たちにとって“よりよい”ものであるべきでしょう。2017年、ITは一体何を生み出せるのか――。本特集では、有力ベンダー各社のキーマンを中心に、その思いと取り組みを聞いていきます。

富士通 富士通 執行役員常務 グローバルマーケティング部門長の阪井洋之氏

―― 2016年の企業ITではさまざまな“変革”が話題になりました。特にワークスタイルは、政府が「1億総活躍時代」を提唱するなど、関心が高まっています。

阪井常務: ワークスタイル変革は、いま非常にニーズの高いテーマですね。少子高齢化に伴う労働人口の減少や、介護離職などの課題が既に顕在化していますが、お客様を含めて働き方を変える取り組みが注目されています。

 富士通ではMicrosoftのOffice 365や当社の業務アプリケーションを組み合わせたクラウドベースの「グローバルコミュニケーション基盤」への移行を進めています。これはグローバルで16万人の社員が利用する情報共有のインフラですが、遠隔地にいる社員同士のWeb会議は毎日多数実施されていますし、約3600のコミュニティサイトが既に活用されている状況です。

 組織の規模が大きくなればなるほど、情報共有は難しくなります。クラウド型へ移行していく過程で情報共有の仕方もどんどん進化しているという印象ですね。例えば、共有される情報は動画を活用するものが増えていますし、Boxのサービスを利用してデータを集約し、セキュリティレベルを高めつつ、ストレージの容量を削減するといった成果も出てきました。

 当然ながら、働き方を変えることはITシステムだけの話にとどまりません。富士通がお客様のワークスタイル変革を支援する際には、ITや総務、人事、営業現場といったさまざまな部門の担当者が参加するワークショップを通じて、具体的にどのような働き方を目指すのか、そのために何を優先してどのように進めていくのかを検討する「デザインシンキング」を取り入れています。働き方を変えるといっても、モバイルワークによって業務効率が高められればいいのか、あるいは会議が多い会社なら会議の仕方を変えられればいいのか、というように、お客様によって重点テーマが変わります。

 ワークショップでは、特に業務や会社のあり方を見出していくという議論の進め方を重視しています。仕事のやりかたから将来目指す姿を明確にし、そこにITをどう実装していくかを含めて富士通の経験を紹介しています。これまで約400社で実施していますが、参加者のさまざまなアイデアを集中的に議論することで、短い時間で合意形成ができることがメリットでしょう。またデバイスも進化していますから、コンシューマーとしての使い方に慣れているツールを、どう業務の中に取り入れるのかといった点でも富士通ならでは知見が期待されています。

―― 2016年はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といったキーワードが登場しました。

阪井常務:IoTやAIをワークスタイル変革に活用していく事例が出てきています。

 例えば、人材の確保が難しいコールセンターや物流では、AIを利用して省力化を図ることで、人手を増やさなくても仕事をこなせる仕組みを構築したいといったニーズがあります。富士通でもコールセンターでAIを利用しており、過去の問い合わせ内容と対応結果のデータから、お客様の要望にどう答えるのが良いかをアドバイスする、といった取り組みを進めています。物流に関しても、富士通は膨大な道路交通系のデータを保有していますので、状況に応じて最適な配送ルートや車両を割り当てるようなことができるでしょう。

 IoTの活用では、運転手の居眠りを防止する「FEELythm」を約60社に提供していますが、ウェアラブルセンサーで眠気の予兆を検知すると、運転手と運行管理者に音声や振動で通知して、休憩をうながすことができます。このようにAIやIoTを利用したワークスタイル変革では、業務の効率化や安全性の向上といった点で進化している状況です。

―― ご自身ではどのような変化を感じていますか。

富士通

阪井常務:例えば海外出張に出ると、以前なら情報が途絶えてしまいがちでしたが、現在はどこにいても同じように仕事ができますから、とても生産性が上がったと感じています。もちろん、どこでも働けるからといって長時間労働になっては問題ですから、富士通全体としても労働時間を減らしつつ、生産性を高めているところです。

 また、従来は過去の経験から将来を予想できる部分がそれなりにありましたが、現在はデジタル化の流れによって難しくなってきています。私はマーケティングを担当していますが、デジタル変革に関する問い合わせが多いのは、やはりマーケティング分野ですね。マーケティング分野は省力化と同時に、売上への貢献や顧客満足度にもつながるためでしょう。

 富士通のマーケティング部門でもデジタル化を進めており、さまざまな顧客接点から得られる情報をDMP(Data Management Platform)に集約しているところですが、お客様のニーズや期待がだいぶ予測できるようになってきました。次にどんな施策を実行するべきか、ということも見えてきますので、そこでは自動化(マーケティングオートメーション)を取り入れることにより、業務効率の改善と生産性の向上を図ることができるようになってきました。

―― 2017年の見通しをお聞かせください。

阪井常務:2016年はデジタル化の流れがもたらす変革に向けて、試行錯誤の時期にありました。2017年はそこから成功事例が次々に登場し、結果を出していくようになるでしょう。ROI(投資対効果)を高めていく段階に入ると思います。

 また、こうした変革をもたらすインフラはクラウドがベースであり、クラウド時代のビジネスインフラをどうITによって実現するのかというニーズが非常に高い状況です。多くの企業が既存の業務システムを含めてハイブリッドクラウドに移行しつつあります。富士通も社内システムを全面的にクラウドへ移行しているところであり、中長期的な視点でグランドデザインを描きながら、最適なビジネスインフラの実現とデジタル化の取り組みを進め行きます。

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