ワークスタイル変革は“イノベーションの武器”、成功の秘訣はワークスタイル変革セミナーリポート(前編)(1/3 ページ)

ワークスタイル変革の目的は、多彩な人材の維持・獲得を目指し、イノベーションの創出につなげること――。そんな“イノベーションの武器”としてのワークスタイル変革を起こすために必要なのは何なのか。

» 2017年04月04日 11時00分 公開
[吉田力ITmedia]
Photo “イノベーションにつながるワークスタイル改革”を支援するベンダーが講演を行った

 ワークスタイル変革の目的は、多彩な人材の維持・獲得を目指し、イノベーションの創出につなげること――。今、先進企業のあいだで、こんな機運が高まっている。

 これまでワークスタイル変革といえば、コスト削減や福利厚生といった側面から語られることが多かったが、それは変革の1要素にすぎず、もっと全社の全部門を巻き込んだワークスタイル変革に取り組んで企業の成長につなげようと考える企業が増えているのだ。

 こうした、“イノベーションの武器”としてのワークスタイル変革のポイントとなるのは、「ITを駆使し、制度を整え、企業風土を見直す」こと。変革の意味を正しく理解し、この3つのポイントを押さえてワークスタイル変革を進めるために、企業はどんな準備をすればいいのか――。

 3月22日、ITmedia エンタープライズとITmedia ビジネスオンラインの共催で行われたセミナー、「勝ち組企業に学ぶ 『“イノベーションの武器”としてのワークスタイル変革』」では、ワークスタイル変革を支援するベンダー各社が、自社の変革の取り組みや事例、ITソリューションについて説明した。

サーバーワークスが実践する働き方変革、3つのポイント

Photo サーバーワークスの代表取締役を務める大石良氏

 「AWS専業」のシステムインテグレーターであるサーバーワークス。同社は現在、国内に500社以上の顧客を持ち、年間市場規模1兆4000億円ともいわれるAWS市場で全世界50社しかないプレミアコンサルティングパートナーの1社に認定されている。

 同社の代表取締役を務める大石良氏は、まず、「私達の周囲では2つの劇的な変化が起きている」と指摘する。

 「今後30年間で約3000万人とも予測される生産人口の激減、配車サービスのUber、民泊のAirbnb、動画配信のNetflixなど、ITによる既存産業の破壊だ。前者により若年層、後者によりエンジニアの価値が相対的に高まり、優秀な若手エンジニアの確保・育成が全ての企業の経営課題となる」(大石氏)

Photo 私たちを取り巻く環境は激変しており、ITを活用した新たなビジネスモデルが既存のビジネスを脅かしている
Photo 変化に強い企業になるためにサーバーワークスはワークスタイル改革に本腰を入れたという

 そのために同社が掲げるのが「クラウドで、世界を、もっと、はたらきやすく」というビジョンだ。これを具現化した同社のオフィスは、私語厳禁の集中エリア、勉強会なども行うコミュニケーションエリア、教え・学ぶコラボレーションエリアなどが設けられ、仕事の内容に応じて自由に場所を選べるフリーアドレスとなっているという。

 さらに、自分の好みのPCを使えるBYOD制度や、事前申請すればどこで仕事をしてもいい制度など、時間や場所にとらわれない「クラウドワークスタイル」が自然発生的に生まれた。「月に2〜3回しか出社しない管理職もいるが、成果を上げているから問題ない」と大石氏。結果として、AWS事業が年率50%で成長に応じて社員数も増える一方、退職者は年々減っているという。

クラウドだけではなく「もう一つの要素」で働きやすい環境を実現

 同社にこのような変革をもたらした要因は何か。ハードウェアの導入が前提の「オンプレ型調達」では、規模の拡大を想定したハードウェアや人員の調達力が重要だった。それに対し、1人のエンジニアが1000台のサーバを管理できるクラウド調達では、最適なサービスの組み合わせを素早く的確に行えるノウハウの重要度が飛躍的に高い。ワークスタイルの変革は、「こういう環境変化への対応の結果にすぎない」と大石氏は語る。

 一方、クラウド時代だからこそ、重要視されるのが「セキュリティ」。同社が選んだのはSalesforce、G Suite、Office365、boxなど「クラウドの組み合わせによるセキュリティ強化」だ。

 これらに加え、人事情報や会計情報部門では端末にデータを残さないシンクライアントサービス。「Amazon WorkSpaces」を採用するなど、合計30以上のクラウドサービスを日常的に利用。ID管理用のクラウド型SSO「OneLogin」とMFA認証により、ISMS取得に際しては「オンプレよりも高いセキュリティ」との評価を得ているという。

 しかし、クラウドの組み合わせだけでは「働きやすい環境」は実現できない。もう一つの要素が、先述したフリーアドレスオフィスに代表される「ファシリティ」だ。ファシリティ改革にあたっては、畳の和室、カフェスタイル席、ソファ席、昼寝スペース、など、クリエイティビティを発揮しやすいように整備した。

 オフィスのフリーアドレス化やリモートワーク化で生じた「誰がどこにいるか分からない」という課題も、メールの代わりに「企業版LINE」ともいわれるSlackを導入することで解消されつつあるという。

 続けて大石氏は、変革を有効に機能させる要素として「文化」を挙げ、その一環としての人事制度の重要性に触れた。リモートワークやオフィスでの昼寝を認めるには、「勤務態度ではなく成果を見る」ことを形骸化させず、正しく実評価に反映させる。同時に、クラウドワークは事前申請を徹底し「今日は寝坊をしたから自宅で仕事します」は認めない。このような仕組みを通して相互の信頼関係を醸成していくことが重要だという。

 最後に大石氏は、企業が成果を出すための仕組みについてピラミッドに例えた。「土台として『ビジョン』と『文化』があって、その上に『ファシリティ』『制度』『IT(クラウド)』が積み重なり、そういう会社に『優秀な人材』が参加して初めていちばん上に『すばらしい成果』が生まれる。このファシリティ・制度・ITのところがトップダウンでもIT部門主導でも、結果としてピラミッドになればいい成果が生まれてくる」と締めくくった。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ