SXSW 2017観戦記 魅惑の“アイデア家電”が勢ぞろい 初参戦Panasonicが見せた老舗の意地柴崎辰彦の「モノづくりコトづくりを考える」(1/2 ページ)

“IT界のパリコレ”ともいわれるイベント「SXSW 2017」で見聞きし、体験した刺激的なあれこれをレポート。今回は、Panasonicの「Game Changer Catapult」が提案する近未来の家電やサービスを紹介します。

» 2017年04月29日 09時00分 公開
[柴崎辰彦ITmedia]

この記事は柴崎辰彦氏のブログ「柴崎辰彦の「モノづくりコトづくりを考える」」より転載、編集しています。


 日本企業もさまざまな分野から参戦している「SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)」。世界80カ国以上からの参加者同士がネットワーキングを目的に“参戦”する、いま最も注目されるフェスティバルです。この観戦記では、SXSW 2017への日本企業の参戦の模様をレポートします。

 本格的な出展は2017年が初となるPanasonicは、2016年からスタートした「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャーカタパルト)」活動の一貫として、パナソニック アプライアンス社(いわゆる白物家電の事業部)のイノベーターたちが、社会問題や衣食住、IoT技術の活用などに関する課題を解決するための多種多様なアイデアを展示していました。ソニーと同様に市街地の一角にある建物の一階が「Panasonic House@SXSW」の会場でした。

Photo 市街地6thストリートの古いレンガ造りの建物の1階が「Panasonic House」

 大企業が社外とのコラボレーションに活路を見いだすオープンイノベーションや共創がブームとなる今日、Game Changer Catapultの取り組みは注目に値するものでした。筆者“個人”としては、前回紹介したSONYの「The WOW Factory」が楽しめましたが、“シゴト”としては、Panasonicのこの取り組みは見逃すわけにはいきませんでした。

 そもそもこのGame Changer Catapult自体、意味が分かる人にはグッとくるもの。デジタルビジネスは、まさにビジネスのゲームチェンジを可能にするものです。Uberの出現でサンフランシスコからタクシー会社が消滅したことは記憶に新しいでしょう。このゲームチェンジを大企業が仕掛けるカタパルト(発射台)は、彼らのイノベーションへの取り組みを世に問うアイデアの発射台というわけです。

 Game Changer Catapultのメッセージも、「新しい価値・体験をお届けするために、企業や組織のわくを越えて、アイデアの具現化を加速させます。Game Changer Catapultはアイデアの発射台」とうたっています

1. The Ferment

 みそやしょうゆをはじめ、日本には発酵食の文化が昔からあります。家電製品の中では、パンの調理器が発酵をテーマにしていますが、本格的な日本の発酵食に関する調理器はこれまでなかったのではないでしょうか。

 「The Ferment(発酵)」と名付けられた発酵食の調理キットは、生産者から届けられた新鮮な麹や食材を最適な温度設定と管理を可能にする専用機器と、誰でも簡単においしく発酵食を楽しむことができるスマートな発酵調理キットと、サービスが一体となった事業アイデア。

 発酵食がいま注目を集める中、このキットは、食材や好みに応じた細かな温度調節や専門家による正確な温度設定の管理を自動化・最適化するというもの。スマホのアプリケーションを通じて、食材の入手から発酵管理、調理提案までサポートし、「発酵のある暮らし」を提供します。

 生活者と食の専門家との間にパナソニックが立ち、発酵ライフをサポートするプラットフォームとして、食材の生産者やシェフ、そして利用者の感想も共有できるコミュニティーづくりも進めていくようです。

Photo The Fermentのブースでは、企画者の1人である浦さん(右下)が、自作の歌でThe Fermentを盛り上げていました

2. DeliSofter

 筆者は、毎朝85歳の実母の朝食介護をしています。総入れ歯の母は、味気のない“柔らか食(介護食)”に飽きてしまうことも多いようです。そんなお年寄りのための調理器として、この「DeliSofter(デリソフター)」の可能性は無限かもしれません。

 DeliSofterは、家庭で調理された食事を、見た目と味はそのままに、柔らかく軟化加工する専用調理器です。

 高齢者や、事故によりそしゃくする力や飲み込む力が弱くなり、嚥下障害や摂食障害に陥った方でも、流動食や専用の介護食を別途準備することなく、健常者と同じ食事を楽しむことが可能となります。従来は難しかった肉や魚などのタンパク質を多く含む料理も、独自の技術で軟化させることができるそうです。これは本当に素晴らしい! すぐに商品化してほしいものです。

 しかし、説明を聞く前に、まずその斬新なデザインに引かれました。まるでタイムマシン!?(笑) 持ち運びも可能なコンパクトな設計により、諦めていた“旅先での家族と一緒の食事”が楽しめるなど、利用の幅を広げる提案もしています。

 将来はハードウェアの販売のみならず、ユーザーと共同で専用レシピを開発するなど、継続的にユーザーとのきずなを深めていくコミュニティーづくりも想定。このあたりは、The Fermentと同じで、もはや“モノ”だけではダメで“コト”づくりの発想が重要であることを実感します。

Photo 日頃は草津工場で品質管理に従事する水野さんが、とても熱心に説明してくれた

3. Bento@YourOffice

 このデモを見たとき、「なるほど、後付けのIoTビジネスもあるな」と思いました。しかし、これは単なる機器ビジネスではありません。オフィスなどにある冷蔵庫を利用してランチ難民を救うサービスなのですが、「スマートロック」「スマートペイメント」「稼働モニタリング(在庫、温度、電源)」の技術によって外部のサービス事業者とのエコシステムによる事業化を想定しているということです。

 確かに、元“丸の内の住人”からすると、都心のオフィス街でのランチ難民問題は理解できます。これも単に後付けのIoT機器の“モノ”売りのビジネスではなく、他の事業者も巻き込んだ“コト”売りのビジネスを実現しようというところにチャレンジ精神を感じました。

Photo レゴで何のデモをしているのかと思ったらランチ難民を救うサービスでした

4. Sake Cooler

 ワインクーラーならぬSake Cooler。「なんだよ! 二番せんじかよ!?」と思いきや、日本酒を最適な温度で冷たく維持する基本機能に加え、ボトルを挿入するだけで蔵元の情報を表示し、相性のよい料理を提案する機能までも備えています。

 さらに利用者の好みがデータとして蓄積され、過去の日本酒のデータから利用者の好みを判別します。嗜好に合う他の日本酒も提案してくれるようです。

 このサービスも、日本全国の蔵元と日本酒愛飲者のきずなを深めるプラットフォームとして、将来は世界規模のコミュニティーを構築することを目指しているとのこと。

 筆者が気に入ったのは金箔(きんぱく)を張り巡らせた輪島塗職人の技が光る一品。これは工芸品としても手元に置きたくなるSake Coolerでした。

Photo 相性のよい料理をレコメンド(左)。その後方に見えるのは金箔バージョンのSake Cooler
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