運航・客室乗務員向けの航空業界標準アプリは既に存在していたが、整備用の業界標準アプリはまだなく、「開発すれば運航整備の環境を劇的に変えられるのではないか」と考えた西山氏は開発に取り組むことを決意。業界標準のiOSアプリをIBMとAppleで共同開発するFCPという枠組みの中で、運行整備用アプリの開発が始まった。
アプリ開発で重視したのは、「現場主導のIT開発」。過去、それを怠って苦い経験をしたことから気を配ったという。「以前、開発したソフトウェアは、“開発優先”で現場の意見を尊重しなかったために、機能は優れていたが使ってもらえなかった。そんなことは、もうしてはならないと思ったのです」(西山氏)
JALエンジニアリングは、モバイルアプリの開発にあたって、主に3つのキーワードを意識していた。1つ目は、場所を選ばず情報にアクセスできる「スマート」。2つ目は操作に悩まされることのない「シンプル」。3つ目は他社とも協力しやすい「スタンダード」だ。
アプリにこうした機能を持たせるために設置したのが、「モバイルバックエンドサーバ」だ。従来は、整備に必要な「整備基幹システム」「フライト情報」「マニュアル送付用サーバ」などを確認するには、それぞれのシステムに個別にアクセスする必要があった。しかし、それらの全てをモバイルバックエンドサーバとアダプターでつないだことによって、整備士はiOS端末から社内LANを経由して、情報をスムーズに取得することが可能になったという。
こうして完成したのが、整備士用の「Inspect & Turn」と、バックオフィスのコントローラー用の「Assign Tech」という2つのアプリ。これを使うことで、整備士とバックオフィスのやりとりが簡易になったと西山氏は話す。
空港では同じ時間に20〜30便が離着陸を繰り返しており、バックオフィスはこれら全ての情報を管理し、整備士をアサインする必要がある。その際にAssign Techを利用すれば、発着便の情報がすぐ表示されるだけでなく、現在、出社している整備士のスキルを確認したうえで、適切なスタッフを選んで割り当てることが可能になる。
また、整備士用アプリのInspect & Turnには、Assign Techによって割り当てられた航空機の情報が表示されるようになっており、整備士が資料を探す手間を省いてくれる。整備中に撮影した写真や動画はバックオフィスと共有することも可能だ。
こうした新たなシステムによって、従来、必要だった整備士へのアサイン時の確認が不要になったほか、機体整備中の状況も可視化されるようになったという。
「バックオフィスからわざわざ、応援が必要かどうかを聞かなくても、飛行機の整備状況がリアルタイムで分かるようになりました。何事もない飛行機のことを気にしなくてよくなり、対応すべきところに集中できるようになったのです」(西山氏)
「モバイルソリューションはわれわれの職場環境に、非常にうまくマッチしました」――。西山氏は、こう振り返る。現場スタッフの声を聞きながら開発したアプリは、導入から1週間後には、みなが自然に使っていたという。「システムは“使う人が使いやすいように”開発すべきだと痛感しましたね」(西山氏)
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