AIは早くやったやつが勝つ 10分の1の時短を実現したソフトバンクのWatson活用法

Watsonを積極的に活用しているソフトバンクが、「Watson Summit 2017」の基調講演で、自社内でのWatson活用事例を紹介した。特定の業務量が半分になったり、所要時間が10分の1になったりするケースも出ているという。

» 2017年05月11日 11時30分 公開
[園部修ITmedia]

 日本IBMが、WatsonとIBMクラウドの最新情報とさまざまな活用事例を紹介するイベント「Watson Summit 2017」を開催した。その基調講演に、日本でのWatson活用を積極的に推進するパートナーである、ソフトバンクの社長兼CEO、宮内謙氏が登壇。他社に先駆け、自らWatsonを活用し、事例を生み出す同社が、Watsonを導入して業務がどう変わっているのかを紹介した。

ソフトバンク 社長兼CEO 宮内謙氏 ソフトバンク 社長兼CEO 宮内謙氏

 「ソフトバンクでは、『一生懸命頑張る』とか『執念』とかではなく、徹底的にITやAIを活用した効率化を進めている」と宮内氏は言う。「システム部門だけでなく、現場の人間に、どこに無駄があるか、どこにムラがあるか、どこに重複した仕事があるかを洗い出してもらい、AIやIoTを活用するアイデアを出させている。自分が一番つらいポイントを、AIを使って改革できないか、考えてもらっている」

 こうした取り組みの中で出てきたのが、「ネットワークの監視にWatsonを活用する」というアイデアだ。ソフトバンクの携帯電話ネットワークは、24時間365日動き続ける必要があり、電気通信事業法の定めにより、1時間を超えて通信の品質が低下したり、止まったりした場合、総務大臣に重大事故として報告する義務もある。そのため常時監視を行っており、例え夜中であっても、異常が発生したら出動して直す必要がある。対象のノード(≒サーバの数)は2万台ほどあり、平均すると1カ月に11回前後、出動して修理などの対応をしていた。この11回のために、膨大なモニタリングデータを人間が目で見て、考えて、対処をしていた。

 この現場でWatsonを導入した結果、ネットワーク保守部隊の監視業務で、アラートの発生から対応までの時間が10分の1になった。

 何をしたかというと、監視システムから上がってくるアラート(警告)を、WatsonのNatural Language Classifier(自然言語分類)を使って順位付けし、対応するようにしたのだ。今まで24時間人間がやっていたことを、AIによって効率化したことで、追加動員件数も従来の半分になり、社員の満足度も大きく向上したという。

ネットワーク保守部隊で導入したWatson ネットワーク保守部隊は、WatsonのNLC(Natural Language Classifier/自然言語分類)を使ってアラームをスコアリングし、R&R(Retrieve & Rank/回答を見付け、適切なものを上位に提示)で原因や対応手順を短時間で確認できる
ネットワーク保守部隊で導入したWatson アラームが出てから作業開始までの時間が10分の1に
ネットワーク保守部隊で導入したWatson 追加動員が約半分になり、社員の満足度も向上

 また、年間で8000万件にも上るという、利用者からの問い合わせを受け付ける窓口(コールセンター)業務にも、Watsonを導入。顧客の問い合わせ内容をWatsonで認識し、最適な回答候補や関連情報を瞬時に画面に表示するようにした。現在の回答の精度は94.3%で、ここからさらに精度を上げていくため、AI学習の専任チームが、実務の中で正しい回答を作成し、月4500件の追加学習をさせている。顧客対応には1件あたり平均10分かかるが、今後はこの時間を50%削減するのが目標だという。

コールセンターで導入したWatson コールセンターで導入しているWatsonの回答精度は現在94.3%まで向上している
コールセンターで導入したWatson これまで1件あたり約10分だった平均対応時間が15%削減された。今後の機能追加で50%削減を目指す

 現在、コールセンターには6000のブースがあるが、最終的には2000ブースくらいにまで減らす計画だ。4000ブース分をWatsonが肩代わりする。

 さらに、ショップやWebサイトにも同じAIを適用することで、「Watsonのナレッジを多重活用できるようになる」と宮内氏。日本全国にあるソフトバンクショップの基幹システム「GENIE(ジニー)」をWatsonと接続し、コールセンターで蓄積したナレッジを元に、顧客により最適な料金やサービスをピックアップして提示ができれば、まだ現場経験が浅いショップ店員でも、顧客に最適なプランなどを提示しやすくなる。将来的にはWebサイトからの問い合わせなどにも、ある程度Watsonで回答できる仕組みを構築したい考えだ。

 「現場が感じている課題をシステムで改善していくことが、大きな業務の効率化につながる。AIを現場にどう導入していくかが重要で、現場に精通した社員がアイデアを出すからこそ、本当に役立つAIが作れる。当たり前の発想では、生産性の向上はせいぜい10%とか20%とかにとどまる。思い切ってやるから、半分になったり、10分の1になったりする。既存の概念は1回変えた方がいい。ソフトバンクの中でも、びっくりするような事例が登場している」(宮内氏)

 Watsonを活用し、法人営業の業務をサポートする業務アドバイザーも現在開発中で、詳細は7月に開催するSoftbank Worldで公表できるだろうと話した。

 「Watsonを導入してから1年半、ソフトバンクではさまざまなWatsonの事例を作ってきた。その中で言えることは、『AIは早くやったやつが勝つ』ということ。ノウハウの蓄積やAIの学習の積み重ねには時間がかかる。先にやって、学習を重ねていくことで、AIの知識レベルがどんどん上がり、従業員の仕事の効率が上がり、クリエイティビティが上がる。今年はiPhoneが登場して10年。スマートフォンの次の10年はAIだと思っている。傍観するのか、一歩踏み出すのか」(宮内氏)

 手軽に導入できるAIソリューションも続続と登場しており、100以上の企業がWatsonエコシステムパートナーに名を連ねる。業務アプリケーションが続続と生まれ、それをクラウドで利用できる環境ができつつある。人とAIが共に働く社会は、すでに始まっているのだと宮内氏は強調した。

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