マツダでは、数千ノード級のスーパーコンピュータを一括導入することで、コストを大きく抑えている。電気代などのファシリティコストを考慮したとしても、その価格差は10倍以上。もはや「議論にならないレベルだった」という。
もちろん、オンプレミスのスパコンにも課題はあった。依頼を受けてから構築が終わるまでに約6カ月を要し、ビジネスの変化に対応しにくい上、小平さんのような突発的なニーズにはほぼ対応できない。
「スパコンの処理性能については、ムーアの法則を超えるレベルで増強していますが、それでもさまざまな局面で機会損失を生んでいたのは事実です。導入をするしないにかかわらず、検討は続けるべきだと考え、方法を模索していました」(マツダ ITソリューション本部 エンジニアリングシステム部 CAE/CATグループ リーダー 鐡本雄一さん)
そんな鐡本さんがクラウド導入に踏み切るきっかけとなったのが、日本自動車工業会(自工会)での経験だ。鐡本さんはCAEクラウド調査タスクのチーム員として、CAEクラウドのベンチマークや調査などを行っており、チームの代表を務める本田技研工業の多田歩美さんなどとの出会いもあり、利用へ向けた本格的な検討を始めた。
クラウド検討時に鐡本さんが気を付けたポイントは5つある。セキュリティ、ソフトウェアライセンスのコスト、計算速度、内製システムとの連携、ベンダーロックインだ。
セキュリティ面は、漏えいしても実害がないデータモデルにすることで対処し、CAEソフトウェアのライセンスは、クラウド利用をカバーした契約内容に変更することにした。クラウド利用は恒常的なタスクではなく、突発的なタスクに絞ることに決め、内製システムとの連携は行わず、ネットワーク接続や利用ポータルも使わないことにした。
さらに、クラウドへの投資対効果をはっきりさせるため、利用については情シスがコントロール。ユーザー部門が単独でクラウドを使うことは禁止している。
「IT部門は基本的に投資部門なので、ROIの可視化は必須と言えます。今のところ、ユーザー部門単独での利用は禁止していますが、トレンドを考えると、早晩破綻すると思っています。その際はまたルールを考え直す必要があるでしょう。今回決めたルールは、あくまで現時点において、妥当と考えたものにすぎないのです」(鐡本さん)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.