フォルクスワーゲンが目指す、IT分野での量子コンピュータ利用Computer Weekly

Volkswagenが量子コンピュータで交通流を最適化するテストプロジェクトを行った。だが、同社CIOが目指しているのは、さらにその先。量子コンピュータをITの主要分野全てに適用することだ。

» 2017年06月21日 10時00分 公開
[Cliff SaranComputer Weekly]
Computer Weekly

 ドイツのハノーバーで開催された「CeBIT 2017」(2017年3月)で、Volkswagenグループ(以下「Volkswagen」)は、量子コンピューティングがITの未来になるという予測を語った。Volkswagenは量子コンピュータを採用し、同社の「デジタル競争力向上」プログラムに注力。従来のプログラミング技法では実現できなかった革新的なアプリケーションの作成を目指すという。

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 この施策は、Volkswagenと量子コンピュータ企業D-Wave Systemsが米サンフランシスコとドイツのミュンヘンにあるVolkswagenのラボで進めているもの。Volkswagenで量子コンピューティングの専門家を育成するとともに、量子コンピューティングの使用法を確立することを目指している。

 「量子コンピューティング技術は、ITの主要分野全てと将来のデジタル化社会で、当社が飛躍的に進歩する鍵となる可能性がある。応用できそうな分野は実に幅広い。特に自動運転、AI(人工知能)支援によるプロセス制御、スマートファクトリー、機械学習、インテリジェントモビリティーなどの分野は有望だ」と、VolkswagenのCIO(最高情報責任者)、マーティン・ホフマン氏は話す。

 スマートモビリティーも、量子コンピューティングを適用できるとホフマン氏が考えている分野の1つだ。同氏は次のように語る。「大都市の交通量シミュレーションを行うとしよう。交通の流れを最適化するには、個々の車両がある瞬間にどの地点を走行しているのか、どこで渋滞が発生するのかをコンピュータで計算する必要がある。この予測に基づいて、個々の車がどう走れば本格的な渋滞にならずに混雑を解消できるかを計算しなければならない。これは、使用するデータ項目が数十億個にも及ぶ、非常に複雑な計算だ」

 こうしたタスクの多くは、従来のコンピュータでも処理できる。ホフマン氏は、ここでスーパーコンピュータを投入すると、劇的に進歩する可能性が大きいのではないかと考えている。

 ただし、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)ですら、計算時に非常に複雑な問題が発生するという課題に直面する。量子コンピュータは、従来のスーパーコンピュータよりも何倍も速くその問題を解決する可能性を秘めている。

 これまで量子コンピューティング技術は、主に科学機関、政府機関、航空宇宙産業で使用されてきた。Volkswagenはこの技術を一般の産業分野に応用する体制の構築を望んでいる。

D-Waveの量子コンピュータをテスト中

 量子コンピューティングを道路交通流最適化に応用する最初の研究プロジェクトとして、中国の大都市、北京が選ばれた。「サンフランシスコとミュンヘンのラボから派遣したデータサイエンティストとビッグデータの専門家が、D-Waveの量子コンピュータでアプリケーションとアルゴリズムのプログラミングをテストしている」とホフマン氏は説明する。

 「当社の専門家たちは既に、交通流の最適化アルゴリズムを開発し、テストしている。D-Waveとの戦略的な協業は、当社にとって非常に有益だ。当社は現在、専門家たちに専門知識を身に付けてもらうことと、起業家にとって有意義なアプリケーションの開発に重点を置いているからだ」と同氏は付け加える。「D-Waveとの協業の一環として、このプロジェクトの完了後もさらなるプロジェクトを開始する予定だ」

 最適化の問題を簡単に言うなら、特定のシナリオにおいて時間、金銭、エネルギーなどの特定のリソースを可能な限り最良の方法で使用するにはどうすればいいのか、ということになる。このタスクは複雑なので、演算能力を指数関数的に向上させなければならない。膨大な数の変数が存在するタスクで最適化アルゴリズムを実行すると、従来のコンピュータでは処理能力の限界を瞬く間に超えてしまうことがある。

 複雑な演算が必要な問題を解決する際に、従来のHPCを使用する場合がある。ただしホフマン氏によると、HPCでは演算処理に30〜45分かかるが、量子コンピュータなら3秒で結果が出るという。

 「HPCでは遅過ぎて間に合わない。計算に30分もかかっていたら、その間に渋滞ができてしまう」と同氏は指摘する。

量子コンピュータで交通渋滞を解消

 量子コンピュータは、そもそも交通流などの最適化問題を解決するのに向いており、その演算原理はこのプロジェクトに非常に適している。

 VolkswagenのITエキスパートたちは、交通流の最適化をD-Waveの量子コンピュータで実行することができた。この実績はスマートシティー最適化への道を開くものだ。

 「この目的のために、北京を走る約1万台のタクシーから収集したデータを使用した」とホフマン氏は語る。「またわれわれは、どのようなデータが必要なのか、都市環境の中で移動体を最終的に管理し最適化するには、アルゴリズムをどのように構造化すればいいのかについても学んだ。現在開発中の自動運転車では、こうした部分は車両自体に関する技術と同じくらい重要になるとわれわれは考えている」

 さらに、「D-Waveの量子コンピュータは一般的な量子コンピュータではない」と同氏は指摘する。「このマシンの適用範囲は狭い」。D-Waveのマシンは最適化アルゴリズムに特化したものだ。

より高速な最適化のために2つのコンセプトを結合

 AIは、パターンと規則の認識に適用されることがしばしばある一方、階層型ニューラルネットワークに基づいた機械学習とディープラーニングは、パターン認識と予測により適している。

 「この2つのコンピューティングコンセプトを組み合わせることで、両方の強みを活用できる。パターン認識と予測は従来のHPCで実行し、演算結果を量子コンピュータに転送する。その結果を再びHPCに戻せば、より高速に最適化できる」とホフマン氏は主張する。

 「量子コンピューティングを使用すると、この分野をかなり進化させられるだろう。可能になる演算性能は、最適化自体の問題など、特定の問題を解決するのに非常に適している」と同氏は話す。

 Volkswagenで量子コンピューティングを商業利用する可能性について話すのは時期尚早だとしながらも、ホフマン氏は次のように語る。「目下のところわれわれは、専門知識の取得に注力している。その目的は、量子コンピュータの強みを有効に生かすことだ」

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