AWS製VDIの実力は? 協和発酵キリンの導入で分かったメリットと課題(2/2 ページ)

» 2017年06月22日 07時00分 公開
[タンクフルITmedia]
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 AWSという企業に対する期待も、大きな選定理由となった。「数年先の環境は想像できないといつも思っている。AWSは最新の環境を作る会社と思っていたので、最新のデバイス/OSに対応してくれるだろうと期待してAmazon WorkSpacesを選んだ」(楠本氏)

Professional Serviceを巻き込んだ移行態勢

 シンクライアント環境をAmazon WorkSpacesへ移行するにあたり、協和発酵キリンでは、AWSのプレミアムパートナーをSIerに選び、さらにAWSプロフェッショナルサービスの人員を加えたプロジェクト体制で臨んだ。

 また、社内に4つのチーム(AWS、PC、Network、展開)を設置。複数チームに同じスタッフをアサインし、各チームを横断的に運用する手法で移行プロジェクトを効率的に進行させたという。

 このプロジェクトにより、2016年10月のキックオフ後、2017年3月末には全ユーザーのAmazon WorkSpacesへの移行が完了した。しかし、榎本氏は「もう少し短くできたかな、という気はしている」と感想を漏らす。

 榎本氏は、時間がかかった原因としてマスターイメージの作成を挙げる。

 Amazon WorkSpacesには、BYOL(Bring Your Own License)モデルと、AWSが提供するOSのイメージを使うモデルの2種類がある。協和発酵キリンが採用したのはBYOLモデルだったため、システムの構築フェーズで想定よりも若干時間がかかった。同社の場合、AWS側がマスターイメージを作るのに1カ月以上の時間が必要だった。これは、これからAmazon WorkSpacesの導入を検討している企業や担当者は覚えておくべきだろう。

 ただ、それ以外は、比較的短期間で大きな問題もなく移行が完了したようだ。

Photo Amazon WorkSpacesの移行スケジュール

残る課題とAmazon WorkSpacesへの要望

 おおむね順調にAmazon WorkSpacesの運用を開始した同社だが、マスターイメージの作成以外にも環境の構築や運用には課題があるという。中でも、バックアップの作成はAWS側の対応が待たれるところだ。

 Amazon WorkSpacesには、もちろん自動バックアップの機能があるが、任意のタイミングでバックアップができない仕様になっている。このため、誤って環境を削除した状態でバックアップが実行されると、復元できない状態に陥ってしまう。

 協和発酵キリンでは、こうした状況を回避するために、複数のチェックポイントを設定したAmazon WorkSpaces用の削除ツールを作成し、使用しているという。これに関しては、「任意のバックアップやアーカイブ機能の導入に期待したい」(榎本氏)としている。

 この他、ウイルス感染時にLANケーブルの抜線やWi-Fiのオフで隔離できないVDI環境のため、ウイルスに感染したAmazon WorkSpacesの隔離ツールを独自に作成し、リモートでネットワークを遮断できるようにしているという。

Photo AWSに期待するのは、「継続的なイノベーション」

 同社では、今後、さまざまな業務でAmazon WorkSpacesの活用を検討している。在宅勤務に代表されるワークスタイル改革での用途はもちろん、海外子会社や特殊業務への展開、BYOD環境での利用など、その範囲は広い。

 しかし、米国に比べて高い利用料金の是正やリージョンをまたいだ運用、クライアント証明書による認証やホワイトリスティングの導入などの課題もあり、AWSには継続的なイノベーションを期待しているという。

基幹システムのクラウド移行がスムーズだった理由

 2017年の時点で協和発酵キリンのシステムは、全サーバの63%がAWS、37%がオンプレ環境で稼働している。このAWSの利用には、医薬品製造販売の規制に対応するシステムの他、生産系システム、受発注・物流システムなどの基幹系も含まれる。

 山岡氏は、「AWSへの移行は比較的順調だった」と振り返る。これは、同社がこれまで採用していた、特殊なアーキテクチャによるところが大きい。

 同社のICTアーキテクチャの特徴は、中心に「エンタープライズHUB」と呼ばれる機能を据えている点にある。業務に必要な人事、生産管理、販売・物流などの管理システムは、それぞれが独立している。そして、これらがエンタープライズHUBを介してやりとりを行うようになっている。

 このようなシステムデザインだと、導入に際して各業務エリアに適切なサイズのパッケージを導入できる。また、それぞれの周辺コンポーネントが自由に交換できる。この無駄なく柔軟性が高いシステム構成が、AWSへの段階的な移行を容易にした。

 このエンタープライズHUBは、国内の事業と業務プロセスを前提としたデータモデルとなっている。しかし、今回のグローバル化に伴ってこのモデルを焼き直し、グローバルなエンタープライズHUBを構築するのが次の課題だという。


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