AWSが提供するVDI、Amazon WorkSpacesを導入した協和発酵キリン。導入して分かったメリットとデメリットとは。
協和発酵キリンは、医薬品を核としてバイオケミカルやバイオシミラーなどの事業を手掛ける総合バイオ企業だ。かつてシンクライアント環境を利用していた同社だが、2016年に新VDIの導入を検討。Amazon WorkSpacesの導入を決定し、2017年3月には全ての移行を完了させた。
最先端のバイオテクノロジーを扱う同社はなぜ、AWSのクラウド仮想デスクトップサービスを導入したのか。AWS Summitに登壇した協和発酵キリン ICTソリューション部 部長、山岡靖志氏の講演から、導入の経緯や移行作業を通じて明らかになった課題に迫る。
協和発酵キリンは、国内に100拠点、海外に40の現地法人を束ねるバイオケミカルグループだ。中期計画として海外の売上比率を50%まで高めることを掲げており、IT部門も海外のガバナンスレベルを国内と同等まで高めることを目標に活動している。
山岡氏は、同部署のミッションについて、「経営目標を実現するため、経営ニーズに合ったITソリューションを事業環境とITトレンドの変化に応じて、迅速、安全かつ適正コストで提供すること」と語る。クラウドの活用は、このミッションを実現するための戦略の1つだ。
以前はシンクライアントの業務環境を整えていた同社がクラウドの利用を検討し始めたのには、幾つかの要因がある。コストの削減やダウンタイムの短縮、運用の簡便化ももちろんだが、それにも増して重視したのはセキュリティの確保だ。
協和発酵キリンICTソリューション部で部長補佐を務める楠本貴幸氏は、VDI導入の背景としてセキュリティを筆頭に挙げる。「PCの紛失や盗難、外部ディスクを使った情報漏えいが起こらないような対策を講じたかった」(楠本氏)
他にも、e-Discovery(電子証拠開示制度)対応の簡便化やグレートファイアウォール対策といった、海外でビジネスを展開する企業ならではの背景もあるようだ。加えて、近い将来のBYOD導入を目指して、既に具体的な計画を進めている。
これらの計画は、最終的にセキュリティが確保されたクラウド上で完結する。その計画の核となるのが、Amazon WorkSpacesというわけだ。
協和発酵キリンでは、2008年から特定部門でシンクライアントを導入し、自社設備で運用してきた。これをAmazon WorkSpacesへ移行したのは、運用の拡大がきっかけだった。
限られたメンバーでスタートしたシンクライアントの利用は、端末数が100未満の規模で稼働していたが、2011年に社外でPCを利用する部門に展開すると、リソース不足と運用負荷の増加が起こったという。
対応策として同社は2015年に新VDIサービスの導入を検討したが、コストとニーズが折り合わず、導入を断念したという経緯があった。
Amazon WorkSpacesの利用は、シンクライアントのリプレース計画とは別に、2015年に特殊なアプリケーションを利用するユーザーを対象に暫定的に導入したのが始まりだった。
この後、2016年にVDIの導入が再度検討され、機能やコストがこなれてきたAmazon WorkSpacesを採用することとなった。現在、同社では先行利用者と既存利用者を合わせて、数百台のAmazon WorkSpacesが稼働している。
VDIとしてAmazon WorkSpacesが選定された理由として、楠本氏は機能、コスト、契約の柔軟さ、環境、運用の5つを挙げている。特にコスト面のメリットが大きく、他VDIサービスや自社システムと比較すると、1.5倍以上のコスト削減効果があるという。
また“契約の柔軟さ”では、最低利用期間の制限がないこと、“環境”と“運用”では、それぞれグローバルで統一サービスが展開できることや、マネージドサービスによる運用負担の軽減を挙げている。
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