成約率UPに貢献、ミサワホームの“心をつかむ営業”

厳しい局面を迎える国内の一戸建て住宅市場にあって、顧客と営業担当者が求めていたシステムを導入し、成約率UPを目指している。そこには、顧客と営業担当者が求めていたシステムの導入があった。

» 2008年06月19日 06時16分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 少子高齢化に伴う需要の減少と業界内の競争激化などにより、国内の一戸建て住宅市場は現在、厳しい局面を迎えている。

JR総武線船橋駅からすぐの船橋総合住宅展示場にあるミサワホームの住宅展示場。この中に秘密が隠されている

 こうした中、業界大手のミサワホームが気勢を上げている。劣悪な環境である南極の昭和基地の多くを手掛けられた背景にある高剛性や他社を圧倒する耐震性、さらには2007年まで18年連続でグッドデザイン賞を受賞してきたことなど、もともと住宅業界では特徴的な存在感を示す同社。中でも有名なのが、大収納空間「蔵」だろう。天井高を1.4メートル以下とし、設置階の2分の1未満の広さで設計することで、建築基準法で定められている容積率の1.5倍近い生活空間を確保できるというこの商品は昨今の住宅事情などから人気を集め、現在同社の主力商品となっている。

西郷泰信氏 今回お話を伺った西郷泰信氏

 とはいえ、上述したような厳しい局面にある住宅市場の影響を受けているのは同社も例外ではないはずである。しかし、ミサワホーム販売企画本部商品企画部Web企画グループのマネジャーを務める西郷泰信氏は、2006年4月から順次営業拠点に導入している施策によって「導入拠点で、導入前と後と比較して成約率が10%程度向上している」と述べている。住宅という高額な商品での成約率の向上は容易に達成できるものではない。一方、ユーザー視点で見れば、ミサワホームが取った施策が“一生の買い物”とも評されることもある住宅の購入に踏み切らせたということができる。顧客の心をつかむ営業、その秘密はどこにあるのだろうか。

2つの大きな課題を解決したミサワホームの販売支援システム

 一戸建て/マンションを問わず、住宅販売において基本となるのは、住宅展示場やショールームの来場者への販売活動である。パンフレットやカタログ、ビデオなどを活用しながら説明する営業担当者の姿は、住宅展示場などに足を運んだ経験のある方であれば容易に想像できるかもしれない。

 ここで問題なのは、営業担当者の接客能力には差があるという単純ではあるが意外に見落としがちな事実である。「“蔵”の説明にしても、『収納空間が広くなります』といった説明で終わってしまう営業担当者もいれば、一歩踏み込んで『リビングや玄関等の天井の高さを最大3.5メートルにでき、採光性も高くできます』と説明できる営業担当者もいるわけです」と西郷氏は話す。

 一方、コンテンツの活用も問題として挙げられる。メーカーであれば、新商品が出る度にカタログを作ったりと、コンテンツ自体は豊富に持っている。しかし、顧客の時間が有限であることから、短時間で効率よく情報を提供しなければならない。営業担当者の経験のばらつきも手伝って、いくらいいコンテンツがあっても十分ではなかったと西郷氏は振り返る。

 「Webのコンテンツは言わずもがなデジタルですが、カタログなどの紙のコンテンツであっても、その製作過程はデジタルなわけです。しかし、残念ながらそれらをうまく結びつけるようなものがないため、多くは死蔵してしまうケースが多かったのです」。100の力を注いで作ったのに、実際には40の力しか発揮できずに死蔵していくコンテンツを最大限に活用し、かつ営業担当者の経験にかかわらず高いレベルでの接客を可能にする方法はないか。この回答としてミサワホームがたどり着いたのは、日本SGIの対話型リッチコンテンツ統合プレゼンテーションソリューション「VizImpress」を基盤とした販売支援システム「デジタルガイドブック」だった。

 日本SGIが2005年2月に提供を開始したVizImpressは、静的なコンテンツだけでなく、動画なども含めてさまざまな情報を一元的に提供できるのが特徴で、朝日放送などでの採用実績も豊富だ。ミサワホームのデジタルガイドブックは、設置場所に合わせて導入された20インチから37インチまでの4種類のディスプレイに対応可能で、操作もマウスとタッチパネル方式から選択できるようになっている。訴求したいポイントをうまくまとめたコンテンツを複数用意しておき、来場者の反応をみながらそれらを見せていくことで、営業担当者の経験を補うツールとなる。一見単純ではあるが、その効果は成約率の向上という目に見える形で現れており、ミサワホームでも130以上の展示場に展開を図っている。

ショールームに来場者を案内する際の導線の要所でデジタルガイドブックが配置され、来場者の疑問などに素早くかつ的確に回答できるようにしている。蔵の内部にも配置されていた

地域に密着したコンテンツも同じプラットフォームで

 デジタルガイドブックにより、自社の技術や実績などを包括的かつ効率的に紹介できるようになったと西郷氏は話す。こうしたデジタル資源の再価値化が第1フェーズだとすれば、第2フェーズまでは青写真が描かれつつあるという。

 「第2フェーズは、お客様や営業担当者とのインタラクションを持たせたシステム――例えば、現場の営業担当者はこのシステムで提供するコンテンツのどれを説明に用いることが多いのか、あるいは、お客様の前に幾つかのインテリアを示し、タッチパネルから選んでもらうなどして、それらをログとして収集/分析――できるようにすることです」

 しかし同氏は、第2フェーズの前に、やらなければならないことがあるとも明かす。住宅という地域に密着する商材だけに、その部分もコンテンツとして加える必要があるというのだ。

 「例えば土地です。いくら住宅のコンテンツを紹介しても、お客様からすると『その住宅を建てる土地はどこかにあるのか』という話になるわけです。さらにいえば、営業担当者が提案する住宅や商品が展示場近くで実際に建てられたかどうか、目の前の営業担当者はどんな実績を持っているのかといった地域に密着したコンテンツをこのプラットフォームの上で一元的に提供していく必要があると考えています」

 もちろん、第1フェーズで実現できた成約率の向上は、それ以降のフェーズでは見込めないかもしれない。しかし、これらを実現しなければ、物珍しいシステムというだけで終わってしまいかねない、それを見据えた上での青写真が必要であると話す。

 「デジタルガイドブックの顧客は、来場していただくお客様だけではなく、現場の営業担当者も含まれるのです。両者にとってメリットのあるシステムにしていきたい」

 最後に、西郷氏はユーザー視点から次のように語る。

 「便利な技術というのはたくさん存在し、さまざまなベンダーが製品や技術を売り込みにやってくるわけですが、技術の優位性だけを切々と説かれてもこちらとの会話が成立しないのです。わたしたちが欲しているのは、それが自分のところでどうなのか、ITでできることを現場にどうマッチングさせていけるのか。そういった部分をうまく“翻訳”して会話ができないベンダーでは、おそらく導入したとしても一過性のもので終わってしまうでしょう。こちらの抱える悩みを宿題として伝え、それに対してどのように返してくるか、そこで宿題の答えが間違っていてもそれは構わないのです。相手に合わせた会話ができているかどうか、それが一緒にやっていけるかを図る上でのポイントなのです」

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