さきの事例からは、施策を実施して組織がどのように変わったかを確認するのに、名札型ウェアラブルセンサーで取得した行動データが非常に役に立っていることが分かります。それがなければ、社員にアンケートを取るなどして効果の有無を測ることになるでしょうが、どうしても感覚的な判断になってしまいます。
組織活性化支援サービスでは、1グループあたり10人以上の組織で最低4週間に渡って計測を行うことが有用な施策を導き出す条件となっています。勤務時間中ずっと、身体の動きと対面情報を記録しているので、1カ月に渡って得られるデータは膨大な量になります。その分析に欠かせないのがAIです。
得られた行動データをAIで分析すると、例えばこんな具体的な提案が出てくるのだそうです。
AIを使うことの利点について松永さんは、分析の速さと、バイアスのなさにあると言います。
「人が分析するよりも速いのでPDCAを回しやすいですし、人が分析するにはどうしても仮説が必要なので意外な結果は出にくいですが、AIは膨大なデータの中から相関を見つけるので、今まで気付かなかった施策が出てくる可能性があるんです」(松永さん)
例えば日立社内で行った実証実験では、いわゆる「飲みニケーション」は一見すると組織の活性化に効果がありそうで、実はそうでもないことが分かったそうです。
「若手にとっては、飲みに誘われることがむしろストレスになり、組織活性度が下がってしまったようです(笑)」(田島さん)
松永さんによると、世間で働き方改革の機運が高まる中、この組織活性化支援サービスで何かできないか、と考える企業も増えているといいます。しかし、このサービスは、「導入すれば一挙に改革が進む、という類のものではない」点には注意が必要です。
「これはわれわれからお客さまに一方的にご提供するサービスではありません。お客さまの組織にどういう課題があって、どういう方向に進みたいかということを一緒に考え、二人三脚で進めていくような形でご支援できればと考えています」(松永さん)
「もし『組織のここにコミュニケーションの課題があるのでは?』という認識があれば、それが正しいのかどうかを行動データを使って検証できるかもしれません。そういう場合は、われわれがお手伝いできればと思います」(田島さん)
抱える課題と進みたい方向は企業によって異なります。さまざまな顧客と二人三脚を繰り返していくことで、同サービスにも知見、データがたまり、今後の顧客課題の解決に生かされていくのでしょう。
日立では、行動データをリアルタイムに収集、分析し、社員のスマートフォンアプリを通じて組織活性度向上に有効なアドバイスを提供する実験も行っているそうです。まだ顧客向けに提供するには課題が残っているものの、近い将来はより高速にPDCAを回しながら組織の生産性を上げていくことが可能になるとみています。
左: 日立製作所 田島裕史さん(サービスプラットフォーム事業本部 IoT・クラウドサービス事業部 アプリケーションサービス第2本部 次世代AI開発部 主任技師 / 右: 日立製作所 松永翔悟さん(システム&サービスビジネス統括本部 プラットフォームソリューション営業統括本部 パートナービジネス第二営業本部 特定パートナー推進プロジェクト)
【取材・執筆:やつづかえり】
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