成功事例だけ見てて大丈夫? 「RPAしくじり先生」が教えてくれる失敗への落とし穴優秀な企業ほど見落としがちな「盲点」教えます

RPA導入を検討する企業向けに、成功事例ではなく“なぜ失敗してしまうのか”を教えている人物がいる。実際の導入経験をもとに「RPAしくじり先生」としてセミナーを開くディップの進藤氏は、そもそもなぜそんなことを始めたのか?

» 2018年07月25日 07時00分 公開
[高木理紗ITmedia]
photo 「RPA DIGITAL WORLD 2018」で登壇したディップの進藤圭氏

 社内の業務に良かれと思って導入したはずのシステムがなかなか浸透せず、社員に使ってもらえない。よくある話ではあるものの、一度そうした「失敗」を経験してしまうと、その苦い記憶にふたをしたくなる人は多いのではないだろうか。

 しかし、ソフトウェアなどを使って業務を自動化する「RPA(Robotics Process Automation)」について“失敗から分かった導入のコツ”を、講演などを通じて「布教」し続ける人がいる。アルバイト情報を扱うアプリ「バイトル」などを運営するディップで次世代事業準備室の室長を務める「RPAしくじり先生」こと進藤圭氏だ。

 RPAソリューションを扱うベンダーが導入について解説する例は少なくないが、同氏はなぜ、あえて導入企業の視点から、過去の“しくじり”を他社と共有するのか。RPA関連イベントに登壇した同氏から話を聞いた。

なぜ企業はRPA導入に“しくじってしまう”のか

 2018年7月に東京で行われたイベント「RPA DIGITAL WORLD 2018」(主催:RPA BANK)。その一角にある会場で「RPAしくじり先生が語る『ウチでも明日から始められる!』RPA」と題して行われたセミナーの内容は、実際に進藤氏がディップでRPA製品を導入した際に起こった失敗を克服した経験をもとにしたものだ。

 「社員に導入のコンセプトが伝わらない」「成功事例を教わったはいいけれど、自社で同じように導入しようとしたらうまく進まない」「いざ業務にテスト導入してみたら、工数を減らすどころか余計に忙しくなってしまった」――こうした“RPA導入企業あるある”ともいえるような事態はなぜ起こるのか。

 進藤氏によれば、優秀な現場ほどこうした失敗に陥りがちだという。「できるだけ早く成果を出したい」といった自分たちの目標や、必ずしも自社に当てはまるとは限らない“他社の成功事例”などを研究し過ぎた結果、自社の状況に合うかどうか十分な検証を重ねないまま導入を進め、行き詰まってしまうそうだ。

photo 企業のニーズや状況に合ったRPAツールの選定が重要になる

 「例えば、社内でRPA導入の提案書や稟議(りんぎ)を通したいなら、成功事例の話は必須だろう。ただし、導入する企業にとって、そうした事例はあくまで自社とは異なる環境に身を置く他社のもの。業務の内容や予算、現場のITリテラシーなどを見極めた上で、あくまで自社に合ったツールを選ぶべき」(進藤氏)

 また、実際に現場の社員が喜んで受け入れるような導入の進め方や、自動化する業務の選び方も、導入の成否を分けるという。

 「RPA導入における“しくじり”のほとんどは、技術というより人の問題で起こる。そもそも、自分たちの業務が本当に便利になる確証がなければ、現場は受け入れたがらない。こうした“業務”や“人”の問題をあらかじめ解決するプロセスは、(見落とされがちだが)実は非常に大切だ」(進藤氏)

失敗を克服したからこそ得た「知見」とは

 「労働力を扱う会社として、労働力の減少や少子化が進む日本の将来に役立つという意味で、もともとAIやRPAに注目していた」という進藤氏。自社では情シスや現場の力で何とかRPA導入を成功させた一方で、「Webや書籍で学べる内容は、ベンダーによる成功事例やコンサルティング的な視点に偏っている」と感じたことが、セミナーを始めたきっかけだったという。

photo 「RPA DIGITAL WORLD 2018」で行われたセミナーの様子

 「成功事例が出てくること自体は喜ばしい。自社製品や成功事例を紹介するのはベンダーの仕事なので、そうした話題が多いのはある意味仕方ないと考えている。ただ、(必ずしも最初から成功するわけではなく)山あり谷ありである導入の実態や、RPAを試したい企業が実際にどこから手を付ければいいのかといった点を、少しでもセミナーで感じてもらいたかった」(進藤氏)

 7月のセミナーが終了した直後には、実際に自社でRPA導入に取り組んでいるという参加者が、会場で同氏に話し掛けていた。「セミナーでは、RPAに対する関心の高さが見える一方で、実際のRPA活用に至る道のりが見えにくい状況が続いているのを感じている。今後の成長戦略のためにも、より多くの日本企業にRPAを広めたい」と、進藤氏は語る。

photo 「RPA DIGITAL WORLD 2018」基調講演とパネルディスカッションに登壇した米国AI・RPA協会会長のフランク・J・カザーレ(Frank J. Casale)氏

 同氏は今後、RPA導入に関心を持つ参加者が集まるイベントでセミナーを続け、参加者同士で情報交換ができる機会のセッティングや書籍の出版も計画しているという。

 RPAへの関心が高まる一方、進藤氏が指摘した「多くの企業で、技術ではなく人がRPA導入を阻む壁になる」という点は、同じく「RPA DIGITAL WORLD 2018」に参加した米国AI・RPA協会会長のフランク・J・カザーレ(Frank J. Casale)氏が基調講演で語っていた内容とも一致する。現場の視点でRPA導入の“難しさ”や“疑問”を解消できる機会は、今後RPAを導入する企業や情シスにとって、重要になるだろう。

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