メイとつたえが話している。
「私、軽薄な知識で潤をあおってしまいました……」
メイはなぐさめるように言う。
「そう、確かに軽卒だったわね、生半可な知識で対応しようとすると失敗するの。相手のやり方もどんどん巧妙になってくるから、その情報をインテリジェンスとして捉えておく必要もあるわよ。あと、行動の前に、事実確認。これをする前に動いてはダメ。何のためのチームなの? 頼れる人がたくさんいるでしょう? 自分ができることを全力でやって、他の人を信じることも必要だわ」
メイの最後の言葉は、自分にも言い聞かせていたようだった。
「善さんのことだけど、バックアップからデータが復旧するまで待ってくれる方向で部門をちゃんと納得させたみたい。それと最初の1台が感染したいきさつは、見極さんの想定通り。会議場所に移動するために、ノートPCの回線を一時的に切断したそうよ。他の11台は、アイコンが白くなったことで皆が驚いて、自発的にネットワークケーブルを抜いたみたい。この辺りは、わが社で決まっている異常発生時の手順を守っているわね。そのおかげで、ネットワークでつながっている共有ファイルにまで被害が及ばなかった」
メイは続けた。
「このウイルスは、まず自分がいるPCを暗号化した後、共有ファイルを暗号化するわ。ケーブルを抜くのが遅れた端末から、ウイルスが少しだけ共有ファイルに到達して暗号化を行った、というのが実態のよう。それにしても、ウイルス付きのメールとは巧妙だわね。もちろん、既に異常に気付いていた人もいるけど、まだメールを見ないうちに総務部からの掲示板通達で知った人も多いと思うわ。これも早期の情報共有のおかげね」
――つたえは神妙に聞いていた。
「あら、イケメン。なにしょぼくれてるの?」
山賀ママが話しかけてきた。
潤はママの方を向いて言葉を発する前に思った。
――普通、バーテンダーは黒っぽい服を着て、静かに語り掛けるものだろう? なぜこの人はピンクの服を着て、通りの良い声で話すのだろう。相談の内容がまる聞こえだ。
「失敗しちゃったんです。志路さんに早く追い付こうと思って。ちょっと焦って確認もせずに独断で行動してしまった。俺なんか、まだ何も分かってないのに」
山賀ママが言う。
「せっかちねえ。うまくいっていればそれでもいいけど、昔の志路みたいに単独で突っ走るとやけどするわよ」
「え? 志路さんもそんなことがあったのですか?」
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