CSIRT小説「側線」 第5話:時限装置(後編)CSIRT小説「側線」(2/5 ページ)

» 2018年08月10日 07時00分 公開
[笹木野ミドリITmedia]
Photo 本師都明:先代のCSIRT全体統括に鍛え上げられた女性指揮官。鍛え上げられた上司のすばらしさと比較すると、他のメンバーには不満を持っている。リーガルアドバイザーを煙たく思い、単語や会話が成立しないリサーチャー、キュレーターを苦手としている

 「え? “時限装置付き”って?」

 メイが疑問を口に出した間に、潤とつたえが入って来た。

 「遅いで! どこをほっつき歩いとったんや!」

 虎舞の叱責が潤に飛ぶ。

 「いや、一斉通報を見てランサムウェアだと思ったので、一刻も早く通信先をブロックしようと思って、作業していました」

 「……何をした?」

 志路が低い声で聞く。

 「初報でもらった3つの通信先を、ファイアウォールでブロックしました」

 「ばか野郎! 何を根拠に行動した? 『コールがかかったら、真っ先にここに集合』って言っているだろう! 勝手なことするな!」

 志路が声を荒げた。

 潤の後ろでつたえが青い顔をして震えている。

 「すみません。俺の独断で行いました。すみません」

 潤が深々と頭を下げている。

 志路が応える。

 「謝っているヒマはない。今の潤の話で全体の概要がおおよそ分かった。おい、深淵、感染源は推測できたか?」

 テレビ会議越しに深淵が答える。

 「分かりました。メールです。被害に遭った12台が、同じメールを受信しています。メールのタイトルは、『一時金の支給額割合の変更について』。本文中に『資格別の変更表』というPDFファイルが添付されていました」

 志路が宣託に言う。

 「社内一斉通報と掲示板で、同様のメールに注意を促すメッセージを出すよう、総務に言ってくれ。これからも同じファイルを開くやつがいるかもしれない」

 宣託は総務部へと走った。

Photo 志路大河:元システム運用統括。システム運用というブラックな世界をITIL導入によってシステマチックに変革した実績を持つ。CSIRTに異動となった時に、部下のインシデントハンドラーを引き連れて来た。修羅場を幾つも経験した肝が据わった苦労人。CSIRT全体統括を補佐し、陰ながら支える。相棒のキュレーターを信頼している。インシデント対応の虎と呼ばれる

 メイが指示する。

 「潤、暫定策として、メールシステム経由でこのメールを排除し、再発防止のメールブロックができるかどうか、システム運用部門に行って確認して。(深淵)大武、被害端末の数はさっきの12台から増えてる?」

 「増えてない。共有ファイルサーバへの影響も一部のフォルダだけだ。共有ファイルサーバ内にウイルスはない」

 深淵はぶっきらぼうに答える。

 「見極さん、他に考えられることはある?」

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