選択式対話のメリットは大きく分けて3つあると馬場氏。まずはユーザーの発言を「カテゴリー化」しやすいことだ。自由記述で長文だった場合、1つの文章にさまざまな要素が含まれるが、選択肢であれば「同意」「否定」といった1つの“意味合い”に絞ることができる。そのため、対話のシナリオが作りやすいのだ。
意味合いを絞ると同時に、言い回しなどの“揺らぎ”も防げるのも選択式会話のメリットだ。例えば「明日の午後3時の来店でいいでしょうか」という質問に対して、「OK」「大丈夫」「了解」など、肯定の意味合いを示す言葉は無数にある。選択式であれば、そういった可能性に対処する必要がない。
ユーザーの自由度を奪うようにも見える手法ではあるが、馬場氏によると「選択の余地があるため、会話の主導権を握っていると感じやすい」そうだ。そして、選択肢を限定することで、ユーザーの心理を誘導できる可能性もあるという。
「仮にYESとNOという2つの選択肢ではなく、YESとはい、という選択肢だったとします。そうすると『どうしてもそうさせたい理由があるのではないか』などと、ユーザーが想像してくれることがあります。また、ユーザーが選択をしたという事実があるため、一貫性の心理が働き、自らが選択した方向へと行動が伴っていく。例えば、一度『いいね』という選択肢を選んだ商品への好感度が上がりやすくなるといった効果もあります」(馬場氏)
こうした知見を基に、AI Labでは、同社が提供するチャットbotサービス「AIメッセンジャー」を使い、ジュエリーブランド「4℃」を展開するFDCプロダクツと2018年4月から「プレゼント相談ボット」の実験を行った。プレゼント選びに迷うユーザーをサポートするチャットbotで、探しているアイテムの種類やプレゼントの目的、予算、プレゼント相手の印象(クール、かわいいなど)といったヒアリングを行い、候補を複数出す。
候補の中から好印象なものを選んだ後に、その理由を聞き、また複数の候補を出すという流れを3回繰り返し、これまで選んできた候補の中から1つを決めてもらうというシナリオだ。
ユーザーが回答した後に、対話エージェントの言葉を表示するまで3〜5秒の間を作ったり、エージェントが選んだジュエリーに対する感想を答えたりするなど、ユーザーが「自分のために考えてくれている」という感覚が得られるように工夫した。
「プライベートなことまで含め、さまざまな情報を聞いているが、選択肢だと会話が先に進みやすい。ここは人間の店員よりも有利なポイントかもしれません」(馬場氏)
馬場氏によると、現在、実証実験の結果をまとめているとのことだが、チャットを行ったユーザーの方が、チャットを行わなかったユーザーよりも購買率が高いという結果が出ているそうだ。
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