情シスもベンダーも“井の中の蛙”になるな、大海に出でよ!――ローソン システム基盤部の進藤広輔氏長谷川秀樹のIT酒場放浪記(1/4 ページ)

ローソンでのAWS構築の経験を踏まえて、AWSに転職するという進藤広輔氏。ユーザー企業の視点を持った“AWSの伝道師”を目指すという藤広氏が浮き彫りにする、情シスとベンダーに必要な意識改革や、社会に求められる人材流動性の高度化とは?

» 2018年08月31日 07時00分 公開
[須田ユキヒロITmedia]
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この記事は、「HANDS LAB BLOG(ハンズラボブログ)」の「長谷川秀樹のIT酒場放浪記」に2018年6月29日に掲載された記事を転載、編集しています。


 ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。

 今回のゲストは、ローソンからAWSへ衝撃の転職をされる、ローソン 業務システム統括本部 システム基盤部の進藤広輔氏です。ユーザー企業からベンダー企業へと移り、新たなスタートを切る進藤さんに、AWSとのこれまでとこれからのお話を伺いました。

※社名、所属は取材時のものです。

ローソンでAWSと出会って

進藤: 講演は以前から見ていたんですけど、僕が長谷川さんの前で初めてしゃべったのは、2015年あたりの「E-JAWS(Enterprise JAWS-UG)」でしたね。ベンダーに関するテーマでパネルディスカッションしてて、「ベンダーが全然使い物にならないから、自分たちでやるしかないんだよ!」みたいな話をしてたら、最前列に座っていた長谷川さんが大爆笑されていて。それが多分最初ですね。

Photo ローソン 業務システム統括本部 システム基盤部の進藤広輔氏(※取材時)

長谷川: 進藤さんってローソンは中途ですよね。何年入社?

進藤: 2013年。今年で丸5年です。

長谷川: あ、案外短いんだ。10年くらいやってるのかと思ってました。「AWS(Amazon Web Services)」に関わるきっかけは?

進藤: 前職までは、AT&Tとかでネットワークやセキュリティまわりのプリセールスをやってたんですね。ローソンはたまたま転職エージェントの方に教えてもらって「これは面白そう!」と転職を決めたんですけど、最初はネットワーク担当の予定でした。それが3カ月ほどたったころに「AWSって誰か分かる?」という話になって、誰も手を挙げなかったので、「じゃ、俺やろうかな」という感じで。

長谷川: ということは、ローソンで公式にAWSを使い始めたのは2013年で、進藤さんが最初っていうことですか?

進藤: そうですね。で、2015年にはだいぶガッツリと、大きな仕組みで使い始めていて、業務の肝となる発注の仕組みの一部もAWSで稼働させました。

長谷川: 移行スピードが速いんですね。そもそもローソンさんはなぜAWSに移行しようと思ったんですか? 例えば、大企業でクラウドに移行するとなると理屈が必要じゃないですか。既存ベンダーも食い止めようとするだろうし。そこはなんでサクサク進んでいったの?

進藤: まあ、社内にも資産を持ちたくないという考えは間違いなくあったと思いますね。当時、業務の肝となるシステムの構築を検討していたんですけど、それを全てオンプレでやると膨大な金額がかかる、と。さらに、その頃クラウドといえばAWS一択だった。それならAWSでできないかという話が始まっていたんです。

長谷川: なるほど。普通は肝となるシステムは最後にして、まずは軽いシステムからやろうということになると思うんですけど、そういう感じでもなかった?

進藤: いや、実際の構築はそれこそ軽いものからでした。規模が大きくて割と重要なシステムが本稼働したのは2015年秋ぐらいでしたが、それまでに実験的な仕組みをぶわーっとリリースしていくやり方でしたね。それこそ10個近くは一気に構築したかな。

長谷川: AWSによる開発・構築は外注?

進藤: アプリケーションは外注でしたけど、インフラ回りはローソン側でしっかり握ろうということで、内製でしたね。といってもローソンの社員だけでは足りないので、業務支援という形でベンダーから出向してもらいました。でも、実は社員は僕1人だったんですよ。

長谷川: なにー!? それは回らないですね。

進藤: そうですね(笑)。最初は本当に1人で全部やってました。設計・デザインから、コンセプト資料を作って、社内でプレゼンし、GOサインが出たらアプリベンダーと打ち合わせして。

長谷川: すごいな。ちょっと変態ですね(笑)

進藤: コンビニって24時間365日営業じゃないですか。だから、ローソンに入ると決めたときに、僕も24時間365日稼働だなって思ったんですよ。プライベートと仕事のオンオフを一切なしにしようと決めて。

長谷川: とにかくやったろうと。

進藤: ええ。ただ、これいうと「えっ!?」って言われるんですけど、ベンダー時代に僕はサーバって一度も触ったことがなかったんですよ。ずっとネットワーク屋だったので、「Linux」なんていじったこともなくて。でも、自分で一からやると面白いじゃないですか。アカウント作って、コマンド勉強して、するとだんだん理解も深まって、素人でも作れるじゃん、って楽しくなっていく。それじゃあ、全部やっちゃおうって感じでしたね。

 で、15年に本格稼働した「肝となるシステム」というのが、1日数時間・数回のバッチ処理を行う、発注の半自動化の仕組みだったんです。いろいろなデータを入れて機械学習させて、お弁当とかの発注推奨値を各店舗に提示する。オーナーさんがOKならそのまま発注できて、だめなら調整できるっていう。

長谷川: リテールからすると、心臓部ですよね。それがばらつくと、欠品して機会損失となったり、多すぎて廃棄が増えたり。

進藤: そうですね。当時はベンダーも含めものすごく忙しかった。2015年当時にAWSをガッツリ使うということ自体が試行錯誤でしたね。

長谷川: 僕も2012年10月にAWSをやると決めて、ベンダーにいろいろ相談したんですけど、「やったことありません」ってところばかりで。どこも「経験ないよ〜うんぬんかんぬん」と。僕は「よかったねえ。お金もらいながら経験できて」なんて嫌み言いながら(笑)

進藤: その頃はまだ「AWSに基幹システム移すとかあり得んわ」みたいなノリでしたからね。

長谷川: ベンダーも「うちらのサーバ守らんと!」ってな感じで。

進藤: まさに。ローソンでもベンダーには「クラウドなんかでわれわれのサービスは保証できません」とかずっと言われてましたね。そことの戦いが最初のミッションでした。

 数年たって当時と比べると、クラウドもデファクトになった感がありますよね。転職でも「AWSの経験ありますか」とエージェントに訊かれたりするそうですよ。で、ないと答えると「書類で落ちるからやめましょう」と。

長谷川: へぇ。じゃあ、AWSができる人は引っ張りだこなんですね。

進藤: わはは(笑)

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