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» 2018年09月17日 07時00分 公開

長谷川秀樹のIT酒場放浪記:20年後のIT業界は隆盛か衰退か? 身に付けるべき力とは?――楽天 執行役員 楽天技術研究所 代表 森正弥氏 (2/4)

[伊藤真美,ITmedia]

20年後のIT業界は隆盛か衰退か? 身に付けるべき力とは?

長谷川: 先進的な研究を数多くご覧になられている森さんから見て、IT業界は今後どうなっていくと思われますか?

 というのも、ある東大出身の3兄弟が昭和40年代に官公庁、造船業、自動車産業にそれぞれ就職した話を聞きまして。結果はご想像通り、当時羽振りがよかった造船業は業界として衰退し、「なぜそんなところに」といわれた自動車産業は急成長。3兄弟の生活は全く異なるものになったそうです。

森: 確かに「企業の8%しか10年後に残っていない」といいますからね。エクセレントカンパニーの研究でも、トップランキングのほとんどが変わっちゃいますし。

長谷川: そうそう、つまり僕たちの子ども世代の就業先として、IT業界はどうなんだろうと。20年後もまだまだ伸びしろがあるのか、もしくはもう衰退しているのか。

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森: 僕は「“ブルーオーシャン”(競争相手のいない未開拓の市場)という考え方が業界を復活させる」というのを信じているんですよ。

 例えば、1770年ぐらいから始まったサーカスは、1900年代の真ん中に「終わった」といわれ、長く斜陽産業と分類されていました。ところが、1984年に設立された「シルクドソレイユ」は、伝統的サーカスを覆す試みを行ってすごい人気を博し、新しいマーケットを作り出してしまった。

 そう考えると、現在または将来に「誰かが実現してくれる成功」にぶら下がるんじゃなくて、「成長させたいと考える業界」に行くのが一番いいんじゃないかと思いますね。

長谷川: なるほど。その考え方は前向きでいいなあ。となると、ITはいろんなものを改革する力を持っていますから、強いですよね。

 かつてはITというと通信業や演算系だったけど、いまやどんな分野にも関係するし、例えば農業や林業だって、ITがイノベーションを起こせるかもしれないわけで。

森: 間違いなくそうなるでしょうね。AIもIoTも、いまはもう具体的な課題が見えているので、あとは粛々と解決策を見いだしていくことで、世界がどんどん変わると思いますよ。それこそ「なろう」と思っていた職業が消えている可能性だってありますから。

長谷川: 確かにそうですよね。僕が就職した'94年は、まだベンチャーといえば零細企業を指しました。でも、今やそれが急成長したり、反対に大企業が倒産したりしている。だから、自分が持つ仕事観は子ども世代には全く役に立たなくなる。

 ただ、どうしても親の呪縛というか、親が勤め人だと、子どもも「就社が普通」と思いがち。でも、他にもたくさん道があって、どんな形でも自分の力で生きていければいい。それを伝えられたら、と思っているんです。となれば、身に付けるべきスキルとして、ITはどうなのかなと。

森: うーん、「子どもにITを教えるかどうか」ですか、難しいですねえ。

 確かに僕の原点を考えれば、子どもの頃のマイコン体験かなあと。ファミコンを買ってもらえなくて、いろいろ触っているうちに体系的に知識を覚えたから、大人になってからオブジェクト指向などもすんなり理解できた。

長谷川: おおっ、僕もです(笑)。兄が読んでた雑誌の付録だった別冊にはじまり、「マイコンBASICマガジン」を愛読してました。

Photo 多くのITキーパーソンが原点と語る『マイコンBASICマガジン』。2015年秋に12年ぶりに開催されたイベントも大盛況だった(画像出展:http://basicmagazine.wix.com/aabm

森: 『ベーマガ』ね! あれ、12年ぶりのイベントも大盛況だったらしいですよ。確かにあそこで勉強したから今があるといえるわけですが、ポイントは、「親に勉強させられたから」じゃなくって、とにかく「自分がやりたくて熱中したから」ですよね。だから、親は、「やりたいことが見つかる環境を提供して、やりたいことを止めないことくらいしかできない」と思うんですよ。

優れた研究者の上司は優れた“ディスカッションパートナー”たるべし

森: 「本当にやりたいことに取り組める環境を提供すること」は、今の僕にとって、子育てだけでなく、仕事での切実な課題でもあります。

 例えば、特に若い研究者は「何となく」だったり、先輩や上司の言いなりだったり、真意が見えないことも少なくありません。そこで、事例などの情報を提供して、それに対する反応を見ながら見定めてようと努力しています。

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長谷川: それって、研究者と先見性などで競っているわけですよね。常に先んじていなくてはならないというのは、プレッシャーではないですか。

森: いやいやいや、そこは断然、彼らの方が優ってますよ。たとえ年齢や経験が上でも、「上から指導」みたいなことは絶対にしないように心掛けています。それぞれの分野での第一人者たらんとする人たちにマウンティングしたところで意味がないじゃないですか。もしかすると、彼らのとっぴな発想が会社を救うかもしれないんですから。

長谷川: でも、上位職は、能力が上でないと人がついてこないことってありませんか? 研究者もそんなところがあるのではないかと。

森: もちろん技術が分かっていない人に評価されるのは嫌でしょうね。でも、常に上位職の人間が上である必要があれば、下がはみ出るのを無意識にけん制する文化になるでしょう。

 一方、僕は、対等または下であるという立場から話を聞くことで、相手の素直な情報が入るし、それを踏まえてこちらから情報を提供できる。つまり、優れた研究者に必要なのは、自分よりも知識のある人ではなくて、優れた“ディスカッションパートナー”なんです。

長谷川: だとしても、100人のとんがった研究者を束ねるって、すごく大変じゃないですか。個性が強そうだし、プライドも高そうだし。文化的背景もそれぞれ違っているわけでしょう。

森: 確かにもっと話す時間がほしいですね。

長谷川: ちなみに、ビジネスと研究をつなぐのも森さんがされるんですか。

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森: 僕がアドバイスすることもありますが、基本、コーディネーターチームが行います。

 でも、一番パフォーマンスが出るのは、研究者自身が自分で宣伝することですね。国内はもちろん、海外のグループ会社に自分の研究を売り込んで、「ということで、スペイン行ってきます」って、海外でのプロジェクトを事後報告でまとめてきたりするんです。

長谷川: 逆に研究者として評価できないパターンってあるんですか?

森: 勝負すべき局面でビジネス側の評価に負けて、どんどん研究対象や内容がずれていく人でしょうか。結果として、研究領域を転々として、いつの間にか自分の不得意なところや、好きではない研究に流されてしまう。となれば、そこでも成果は出しにくい。

 自分の得意なところでいかに壁を突破するか。その意思を持てるかどうかは重要ですね。

長谷川: 人間性はどうですか? ビジネス側を軽んじるタイプの研究者とかはいないですか?

森: そうしたタイプは、パフォーマンスが出ないので、皆でサポートしまくって、それでも成果が出ないとしたら、そのことに気付かせます。それでも変わらなければ、つらいところですが、一緒に作戦を立てて実行させるしかないでしょうね。

 人間性に問題がなくても、研究テーマによってはビジネス成果が得にくいものがどうしてもあるんです。そのときもそうしたカウンセリングを行うことがありますね。

長谷川: それはどんな組織体制で行われるんですか?

森: まず5拠点の地域ごとにロケーションマネジャーがいて、地域のビジネス状況に対して責任を負います。プロジェクトマネジャーの上位、ポートフォリオマネジメントですね。そして、マトリックス構造になるんですが、研究領域ごとにも研究マネジャーがいて、彼らはアカデミックな視点から研究テーマに対するアドバイスを行い、研究結果の価値を評価します。僕自身は、個々の評価には立ち入らないようにしています。

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