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» 2018年09月17日 07時00分 公開

長谷川秀樹のIT酒場放浪記:20年後のIT業界は隆盛か衰退か? 身に付けるべき力とは?――楽天 執行役員 楽天技術研究所 代表 森正弥氏 (1/4)

最先端の研究とビジネスをマッチングさせ、“半歩先行く”楽天の顧客体験を支える楽天技術研究所を率いる森正弥氏。その個性豊かな研究者たちをまとめるマネジメント術や、インターネットビジネスとITの未来を見据えた価値創出策とは?

[伊藤真美,ITmedia]
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この記事は、「HANDS LAB BLOG(ハンズラボブログ)」の「長谷川秀樹のIT酒場放浪記」に2016年5月17日に掲載された記事を転載、編集しています。


 ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。

 今回は楽天 楽天技術研究所の代表を務められる森正弥氏に登場いただきました。多様な事業を展開する楽天で、同研究所は最先端の研究とビジネスをマッチングさせ、半歩先のビジョンを描くという重要な役割を担っています。その設立から現在の運営について伺うとともに、これからのインターネットおよびITの可能性についてお聞きしました。

アカデミックな研究で楽天のビジネスを革新的に

長谷川: 森さんとはアクセンチュア時代はあまり接点がなかったですよね。それぞれ別の会社に入って、カンファレンスに出るようになってからお互い認識するようになって。

Photo 楽天 執行役員 楽天技術研究所 代表 森正弥氏

森: 初めて声をかけていただいたのは2009年ですから、2006年に楽天に入社して3年目くらいですね。って、もう入社して10年たとうとするんだなあ。

長谷川: でも、知り合ってから7年たつのに、楽天技術研究所についてあまり詳しく知らないんですよね。「研究所」というイメージから、最先端の基礎研究をゴリゴリやっているのかな、それぞれのサービスには別のSEがいるのかなと。実際はもっとビジネスに近い部分もなさっているんですよね。

森: うーん。まず、楽天グループ全体では、約5000人近くのエンジニアが所属する「開発部」がありまして、70近くの事業のサービス開発・運用を担っています。

 一方、楽天技術研究所は、コンピュータサイエンスなどの博士号を持っている人間がアカデミックなテーマと手法で研究行っていて、「楽天というフィールドでアカデミックな研究する」という側面と、「いままさにアカデミックな研究テーマを楽天のビジネスに結び付けていく」という側面を持っています。

長谷川: となると、いわゆる研究所のイメージ通りということでいいんですか。となると、KPI(重要業績評価指標)ってどうやって測定するんですか。

森: そのイメージがいつのものなのか興味あります(笑)。

 そこは僕のモチベーションにも結び付いているところで、少なくても今は、研究の成果とビジネスに生かすことの間にタイムラグがほとんどないんですよ。むしろ「ビジネスの場で研究している」ことの方が多い。だから、研究の成果をどうビジネスに生かすか、それがどのくらい売り上げや利用に結び付いているか。それをKPIにしています。

長谷川: 基礎研究とビジネスって、もうそんなに近いんですね。それは個別評価にも使っているんですか。

森: いえ、研究所の組織評価としてのみで、個人の評価には適用していないです。

 インターネットビジネスって、何か技術が一歩進むと、成果のスケールが大きいんです。それもあって測定はしているんですが、だからといって個人がそれを意識してしまうと、研究としての広がりがなくなってしまいますから。正直、何が“来る”か分からないので、研究の幅が狭まるのはむしろリスクなんです。研究所のKPIとしても、あくまで結果論として見るだけです。

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長谷川: でも、「何でそんなに役に立たないことを?」みたいな研究をする人も出てくるわけでしょう。そんな場合はどうするんですか。

森: いろんなアドバイスはしますが……。まあ、“いまは”役に立たないものであっても、将来のポテンシャルを感じられるものならよしとしています。

 例えば、江木くんという研究者はプログラミング言語「Egison」を開発していて、一見何の役に立つか分からないのですが、技術的な面は高く評価されて、「ソフトウエアジャパンアワード」とか「日本OSS奨励賞」とか、とりまくりました。

 「そもそも何に使えるんだっけ?」「ユーザーを増やすには?」と、いまも議論してますけど、ポテンシャルは強く感じてるので応援してます(笑)。個人的にずっと応援していきたい気持ちもあったり。

長谷川: それは研究者としてはいい環境ですよね。すぐにビジネスにつなげられる環境だけど、一方でアカデミックな好奇心も持ち続けていられるというのは。

森: そう思ってもらえているといいなあ。業界としてもビジネスに生かされる可能性は高いし、何より「速い」ですからね。

 FacebookやGoogleといったリーディングカンパニーも、どんどん新しいことに取り組んでいて、ちょっと何かあるとすぐにニュースになるので、同じことをやっていても二番せんじになってしまう。

 だから、その意味では、ビジネス直結であり、シビアな成果を迫られているといってもいいでしょう。とはいえ、どのくらいのスパンで評価するかは企業によって異なりますし、近視的では将来すぐにシュリンクしてしまいますから。

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世界の研究者が集結! 目指すはオープンイノベーションの仕組みづくり

長谷川: そういう研究所というのは、日本のネットビジネス業界では何社くらいあるんですか?

森: ヤフーさん、サイボウズさん、サイバーエージェントさんなどにもありますね。あと、2015年はAIの研究所がブームだったのようで、ドワンゴさんやリクルートさん……。そしてうちも、AI研究拠点をボストンに立ち上げました。あと2015年にシンガポールにも設立したんですが、そこでは心理学も生かしたマーケティングの研究を行っています。

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長谷川: けっこう積極的に研究に投資されているんですね。経営層の考え方によるものが大きいと思うんですが、楽天さんの場合はどうですか。

森: うちは創業メンバーの6人のうち1人が技術者で、今につながるシステムの基礎を全て彼が作っているんです。それを間近で見ていたわけですから、三木谷さんも技術の重要性については強く感じられていると思いますね。

 実際、研究所を立ち上げてすぐに成果が上がると、「2年で優秀な研究者を100人にしろ」と言われまして。

長谷川: んん? それはご無体な(笑)。

森: でしょう(笑)。ようやく9年目で東京、ニューヨーク、ボストン、パリ、シンガポールの5拠点で100人越えました。7割が外国籍です。

長谷川: えっ、もうそんな比率なんですか。

森: ええ、開発部も4割が外国籍ですしね。アジア系も多いですけど、意外に欧州勢が多いですね。日本のアニメやサブカルが好きで、いつか日本で働きたい、けど日本語ができない。そんなタイプが、まずは社内公用語が英語化されているということで楽天に来ているようです。

長谷川: ああ、それはHDEの小椋さんもおっしゃってました。日本のオタク系コンテンツは“すさまじい吸引力”になっていると。特にアジア系の方は、渋谷や秋葉原に憧れを持っていているというんですね。

森: そうそう。ただ、そういう人も一定数はいるんですが、基本的にはアジアの方も欧州の方も、英語が使えるなら「いっそ西海岸やシンガポールで」と考える人がほとんどなんです。賃金も高いし。例えばシンガポールでは国家政策で研究者を優遇しているので、本当にいろんな国から来ています。

 そこで「楽天というビジネスフィールドであなたの実験を試してみない?」とお誘いするわけです。東京じゃなくてもシンガポールやパリで研究できるよと。

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長谷川: 研究者を誘致するためにいろいろされているんですね(笑)。

森: そりゃあ、もう(笑)。

 ただ、これまでは、企業の研究所としての在り方を模索して大きくしてきたんですが、これからは大学や学会、他企業といった他組織と連携して「オープンイノベーション」の仕組みづくりを考えています。

 例えば、2015年からはシンガポールの公的研究機関であるシンガポール国立インフォコム研究所(I2R)と共同研究を行っていますし、2016年にはシンガポール科学技術研究庁とAI人材育成のプログラムを開始し、NLPのトップ研究者であるスタンフォード大のダン・ジュラフスキ教授との共同研究や、他にも筑波大とAIエージェントのUXまで想定した未来店舗の研究などを始める予定です。さらに他の大学、組織、企業とも連携していきたいですね。

長谷川: ネットの普及で研究環境は一気にオープンになりましたからね。一瞬にして集合知が集まったり、反応を見たりもできる。そんな環境下だと、どんどんビジネスと接している研究が進んで、アカデミックな研究が遅れていきそうな感じがしますが……。

森: いや、そこはそこの強みがあるんですよ。

 例えば、ある企業が圧縮したデータのままで検索できる高速なアルゴリズムを開発したんですが、それは数学の地道な基礎研究があったから。とてもビジネスの発想からは出てこなかった。

 ディープラーニング(深層学習)もそうで、RNN(Recurrent Neural Network)とかは1973年に生まれていて、アカデミア側で追求されていた理論は、技術的な限界から、それ以降'80年代や'90年代に一度捨てられていたんですが、技術の進化で実現可能になった途端に絶大な価値を持つようになった。つまり、立場が違うからこそ、組む価値があるわけなんです。

長谷川: なるほどね。時代が変われば再評価される研究がまだまだ出てきそうですね。

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