道筋は両手を広げてお手上げのポーズをしながら続けて言う。
「でもな、僕が緻密にチェックしたにもかかわらず、最終工程で明徴にダメ出しされると正直、落ち込むよ。あぁ、僕は、何をチェックしていたのだろうと。正直煙たかったが、これで救われる製品もあるのだから何も言わないけどな」
明徴は頭をかきながら言う。
「すみません。道筋さんを信用しているだけに、逆に穴を見つけてやろうという気持ちがあることは確かです。でもそのおかげでこちらのモチベーションもあがり、スキルアップしていることは確かです。感謝しています」
道筋は言葉を発せずにうなずいている。
2人とも何も言わないまま、時間が経過する。
「まんじゅう食べる?」
道筋は、袋からまんじゅうを取り出して明徴に差し出す。
「いただきます」
明徴は大きな口を開けてまんじゅうをほおばった。
「ねぇねぇ、何があったんでしょうねあの2人。ひょっとしてBL?」
つたえがうれしそうに本師都明(ほんしつ メイ)に聞く。
確かに、来る時のバスと違って、道筋と明徴が楽しそうに話している。
メイが言う。
「さぁ? でもBLではないと思うわよ。何かお互いに通じるところがあって、わだかまりみたいなものがほぐれたのではないかしら」
そばで聞いていた折衷がすかさず言う。
「ほぐれた? 温泉だけにー!」
守社ががっくりと肩を落として言う。
「もう、おやじギャグ! せっかく取れた疲れがぶり返すわ!」
折衷がまんじゅうで膨れ上がった守社の袋を見ていう。
「まんじゅう妖怪には言われたくない」
車中が笑いに包まれた。
メイは思う。
――春先にはぎくしゃくしていたCSIRTだけど、だんだんとほぐれていい感じになってきている。メンバー間のわだかまりも取れ、互いを信頼できるチームが成り立ってきた。ようやくだけど、このチームの個性がはっきりしてきた。
いろいろあったけど、そのたびに結束が強くなってきている。システムも、組織も、人も、たたかれて、苦難を共にして、レジリエンスが高まってきていると感じる。海のイベントといい、今回の温泉といい、こうして互いに顔を突き合わせてじっくり話す機会は大事だわ。環境が変わることによって、普段言えないことも言えるようになるのね。そういえば、遠い学生時代の合宿の時も同じだったような気がする。
人は幾つになっても変わらないし、人で構成される組織は理屈ではまとまらないのね。今回もとても良いイベントだったわ。機会を作ってくれた山賀さんと大河内さんには感謝しなくちゃ。
メイは一人うなずいて、袋の中に入っている大量のお土産用の温泉まんじゅうに目を落とした。
【第12話 完 第13話(前編)に続く】
イラスト:にしかわたく
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