米IBMが「Notes」「Domino」を含むエンタープライズ向けソフトを印HCL Technologiesに売却すると発表しました。Notesの歴史を探ってみると、クラウドの普及と現場ニーズの変化に一因がありそうですが、これからのグループウェアはどうなっていくのでしょうか?
この記事は大越章司氏のブログ「Mostly Harmless」より転載、編集しています。
米IBMは2018年12月6日(現地時間)に、「Notes」「Domino」を含む複数のソフトウェアを、18億ドルで印HCL Technologiesに売却するということです。TechCrunchには、以下の記事を掲載しています。
NotesとDomino以外に売却される製品は、「AppScan」「BigFix」「Unica」「Commerce」「Portal」「Connections」ということですが、以下の記事によると、Unica、Commerce、Portalはオンプレミス版ということです。
IBMといえば、10月末にLinuxディストリビューターのRed Hatを340億ドルで買収すると発表したばかりです。TechCrunchは、Red Hatの買収でお金を使ったから「キャッシュが欲しいのだろう」と書いています。
まあ、それもあるのでしょうが、Red Hatを買収して「これからはクラウド企業になる」と言ったわけですから、オンプレミスのソフトを整理するのは自然な流れともいえます。
Notesはもともとはオンプレミスのソフトですし、まだオンプレミスで使っているところも多いのではないでしょうか。TechCrunchの記事では、NotesのユーザーはEMEA(Europe、Middle East and Africa)/APAC(Asia Pacific)に多いと書いていますが、裏を返すと、IBMのお膝元である米国では少なくなっているということなのでしょう。
とはいえ調べてみると、既に2017年にNotesの開発についてHCLと提携していました。
つまり、今回の発表で完全にIBMの手を離れたということになります。それどころか、Tivoli、Rationalは、Notesより前にHCLと共同開発の提携を行っているということなので、ずいぶん前から製品ラインアップの整理が進んでいたようです。
「Lotus Notes」が登場したのは1989年ですから、まだインターネットの利用が本格化していない頃です。IIJが国内でインターネット接続サービスを開始したのは1993年です。
インターネット以前の電子メールは、電話回線を使った「バケツリレー方式」で配信されていました。当然、リアルタイムで送受信できるわけではなく、夜中の電話料金の安い時間帯にサーバ同士が電話をかけ合い、メールやファイルを送受信するのが一般的でした。
そのような時代に、電子メールとファイル共有を統合し、低速な回線でも夜中にさまざまな情報を同期してくれるグループウェアの存在はありがたかったわけで、お金のある大企業を中心に導入が進み、今も多くの企業が使い続けているということでしょう。
その後、インターネット時代になると、グループウェアのメリットは薄れていったはずです。Notesと同じことがもっと速く、もっと便利にできるはずだからです。
それでも、NotesがいまだにEMEA/APACで使われているというのは、現在でも通信回線が低速で不安定な地域が多いということなのかもしれません。その意味では、Notesのようなグループウェアが必要とされる地域がある一方で、通信環境がよく、クラウドへの移行が進んでいる米国などでは、Notesを新規に導入する顧客は少なくなっているのでしょう。それがIBMの決断を後押ししたのかもしれません。
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