NEC Future Creation Hubの具体的な内容については、特設サイトも設けられているので参照いただくとして、ここからは筆者がかねて気になっていた「共創」について考察してみたい。
その前にエピソードを1つ。榎本氏によると、共創という言葉は、実は10年以上前にNECが商標登録したそうだ。ただ、その意味や理念を踏まえて商標として主張せず、幅広く活用できるようにしている。その姿勢もさることながら、「共創という概念を10年以上前に考えて商標登録しようとした人間がNECにいたのは素晴らしいことだ」と同氏。筆者も同感である。
話を戻して、共創について筆者がかねて気になっていたのは、非常に聞こえのいい言葉だが、共創して追求するのは多くの場合、顧客企業の「競争力の源泉」となるものだ。とすれば、顧客企業はその成果を実践するとともに、競争力を維持するために、成果に至るプロセスや技術の応用などのノウハウも保持しておきたいはずだ。
しかし、一方で共創してきたベンダーからすると、成果に至るプロセスや技術の応用などのノウハウをビジネスとして横展開していきたいところだ。NECが今回新設した施設なども、そうした活動を広げていこうという意図を込めたものだと見て取れる。だが、それが果たして前述したような顧客企業の思惑と合致するものなのだろうか。
新施設を見て歩きながら、以前からの疑問が頭に浮かんできたので、会見の質疑応答で聞いてみた。すると、榎本氏は次のように答えた。
「確かに、そこは共創のポイントの1つになるところで、お客さまと私どもの方で、あらかじめ、しっかりと契約内容を詰めておく必要がある。例えば、共創によって生まれた成果が大きな成功を収めるようになれば、私どもだけでなく、お客さまにおいても、その成果に至るノウハウもビジネスにしたいとお考えになるケースもある。私どもとしては、どこまでを応用展開していけるのかを、個々のお客さまと十分に協議しながら共創ビジネスを推進していきたい」
また、野口氏は自らの体験を交えてこう答えた。
「私が携わっていたかつての共創プロジェクトで、お客さまから『NECとの共創はつまらない』と言われたことがある。なぜか。私どもはそのお客さまのご要望を一生懸命にお聞きしようとしていたが、お客さまが言うには『あなたたちからの提案はないのか』と。共創というからには、まさしく共にアイデアを出していかないといけない。では、私どものアイデアの基となる技術やノウハウはどんなものがあるのか。それを体感していただけるようにしたのが、このHubだ」
野口氏の話を聞いて、こんなことを考えた。“御用聞き”ではなく、提案型ビジネスを、というのは、IT業界がかねて抱えている課題だが、先進のデジタル技術で新たなビジネスを創出する目的で注目されるようになってきた共創という言葉は、もはや御用聞きでは通用しないことをIT業界に突き付けている意味があるのではないか。
逆にいえば、IT業界は共創によって、長年はびこっていた御用聞きの体質から転換する絶好の機会なのかもしれない。共創によるノウハウの生かし方を含めて、IT業界をどう再構築していけばよいか。あらためて、共創という言葉の持つ意味が非常に深いと感じた今回の取材だった。
“自前主義”から脱却し、社会に貢献する技術を――NEC社長が語る「強化分野」とは?
“NEC×日本マイクロソフト”のタッグで「NEC 365」を開始 Microsoft 365の導入、運用、定着化をトータル支援
“2万2000人のMS社員×パートナー”の化学反応でクラウド時代のDXを加速 共創時代のパートナー戦略とは
「勝負は1、2年」――NEC社長、“創業119年目の大改革”に挑む「不退転の覚悟」
DXのリーダー組織は専任組織の「第2のIT部門」 DX人材の確保は共創が鍵――IDC調査
5Gを使った新ビジネスの共創を目指す「KDDI DIGITAL GATE」、東京・虎ノ門にオープンCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.