定型業務をソフトウェアロボットに任せる「RPA」が注目を集めている。手軽に開発ができる一方で、業務部門とIT部門がうまく協力できずに失敗してしまうケースも後を絶たない。そんな中、両者がうまく連携し、グループウェアとRPAを組み合わせて大きな成果を挙げた企業がある。
ITのコモディティ化により、情報システム部門に求められる役割が、ビジネスへの貢献や社員の業務改善といった方向へとシフトしています。このシリーズでは、情シスと現場、特に全社とのつながりを持つ総務とがタッグを組むことで、会社を変えるだけの力が生まれる――そんな事例を紹介していきます。
必要なデータを収集し、人間の代わりに業務を代替してくれる「RPA(Robotic Process Automation)」。人手不足や長時間労働の解消が、企業の大きな課題になりつつある今、ソフトウェアロボットによる業務自動化ツールを導入するケースは増えてきている。
BPOやコールセンターのアウトソーシングを手掛ける「ビーウィズ」もそんな企業の1つだ。同社は業務やビジネスのデジタル化を推進する「デジタル/AI機能開発部」を2018年6月に設立。社内の各部署を横断する形でメンバーを集めたという。同部の担当部長である甲田さんは、部署設立の由来を次のように話す。
「いろいろなシステムはあれど、会社の業務には、人間がやらないといけない領域があります。コールセンターに代表されるように、ビーウィズはその領域のノウハウを蓄積してきました。しかし、世の中がデジタル化されていく中で、力業で業務を進めるだけでは勝ち残れません。だからこそ、お客さまよりも早く先端技術を取り入れ、それを基に今のアウトソーシング事業をもっと価値あるサービスにする。そういう方針の下にこの部署は生まれました」(甲田さん)
デジタル/AI機能開発部では現在、本業として受託しているコンタクトセンターやBPOセンターに対して、RPAとAI-OCRを中心にデジタルソリューションの導入を進めている。特にRPAについては、サービス開始時に社員にとってイメージが湧きづらいところも多かったため、機能説明やどのような業務での導入が向いているのかということを全国の拠点で勉強会を開催するなど、社員のリテラシー向上にも注力してきた。
部署設立とほぼ同じタイミングで動き始めた甲田さんのチームは、受託中のコールセンターやBPOセンターにRPA導入をする前に、事例づくりの観点もあり、社内間接部門での導入を決めた。初めにRPAを試す部署を「総務」に定め、マネジャーの小暮さんに声を掛けた。「繰り返しの作業が多く、RPAが活躍する可能性が高い」と予想して業務のヒアリングを行った甲田さんだったが、相談を受けた小暮さんも、RPAで業務が削減できるイメージがついていたという。
「総務の仕事は全社に関わるものではありますが、デジタル化を念頭に置いて業務を進めてきたわけではありません。どうしても手作業や“力業”で進める業務はいくつか残っていました。RPAの活用で本当に業務効率化が実現できるのか、ちゃんと話を聞かなければ分からないと思う一方で、絶対に人手で行う業務は削減できると考えていました」(小暮さん)
小暮さんたちが目を付けた業務は「ワークフローの処理」だった。作業としては必ず行わなければいけない一方で、決裁の内容を把握できる立場になるため、誰にでも任せられるものではない。結果として、求められるスキルはさほど高くはないものの、社員のリソースを使わざるを得ない状況に陥っていた。
「監査にも対応できるよう、以前は承認ルートに入っている総務担当者が、紙で出力して保管するという形で運用していました。1件あたり5分くらい、地味に負荷がかかる仕事で、総務部として課題に感じていたところがあります」(小暮さん)
RPA導入を検討した業務は他にもあったとのことだが、RPAツールとの連携の面で開発の難度が高かったり、人が判断する部分が多くを占めており、ルール化がしにくかったりしたという。
同社のワークフローはサイボウズのグループウェア「Garoon(ガルーン)」を利用している。2003年から15年以上使ってきた“古参”ユーザーで、Garoon内に業務に必要な書類やデータが集積しているそうだ。ワークフロー関連の業務に目を付けたのも、Garoonのカスタマイズがしやすく、RPAツールと連携しやすかったのが大きな理由だ。
「ツールはUiPathを使うことに決めていましたが、Garoonとの連携がしやすくて助かりました。開発に際して画面の解析なども行いましたが、全社で使っているため、一度仕組みが分かれば、横展開が簡単にできる状況だったことも大きな魅力でした」(甲田さん)
業務を決めてからは、甲田さんのチームが総務のメンバーにデスクや会議室でPCの操作を実演してもらい、最低限の要件を決めて開発を始めた。業務をロボット化するにあたり、「そもそも印刷をする必要があるのか」など業務自体の見直しも行い、印刷をやめてGaroonの画面キャプチャーをファイルサーバに保管するという運用に切り替えた。
開発スピードを上げるため、まずは主な機能だけを作り、残りはテストで出てきたフィードバックを基に機能を追加していく、アジャイル的なアプローチを採用した。最初のプロトタイプは開発を始めてから約1カ月で完成。テストを行った小暮さんは、ロボットの動作を確認しながらさまざまなフィードバックを行ったという。
「これまでは紙で保管することを前提としており、紙面に全ての情報が記載されている必要があったため、ワークフローと紙で重複した内容を記載しなければいけませんでした。一方、Garoonの画面をキャプチャーする場合、承認の時間やコメントなどもデータとして残せるため、決裁書の方は提案の内容を書くだけで良くなり、申請者の手間も減らすことができました。業務改善の具体的なイメージが湧いたことで、データ保管場所の変更や監査への対応など、新しいアイデアも次々に出てきたのが印象的でした。
フローと決裁書の仕様の簡素化を通じて、今までいかに面倒なことをやらせていたのかと改めて実感しました。『ここまでできるならありがたい』と思うと同時に、もっと早く準備できていれば、皆さんの負担も少なくて済んだかと反省した点もあります」(小暮さん)
最初のプロトタイプができてからは、小暮さんのニーズをベースに改善を重ねていったという。同じフロアで働いていることもあり、毎週のように機能の確認と打ち合わせを行ったそうだ。それから1カ月後には、実データを使ってRPAと人間の両方で業務を進めてクオリティーを比較。微修正を行い、さらに1カ月後の2018年10月には正式に稼働を開始した。
今まで人力で行っていた作業をソフトウェアロボットに行わせることで、人為的なミスを防ぐことができるほか、年間ベースで100時間の工数削減につながったという。貴重な社員のリソースを別の業務に充てられるようになったことで、業務の効率化がさらに進んだという。
RPAの開発には業務への理解が必須といわれているが、デジタル/AI機能開発部のメンバーの多くは、業務部門で活躍していた人だという。業務の知識は十分にあり、現場のニーズを理解もしやすい体制といえるだろう。そのメンバーを束ねる甲田さんは、経営企画部に10年近く所属しており、各部署の業務やニーズを把握できる立場にあった。
「同じ会社の中でも、まったく別の部署になると相手の業務が分からないのは普通でしょう。私自身も細かな部分までを完全に理解しているわけではないのですが、部署をまたがる話の調整などをしてきたため、各部署の大まかな業務は分かります。ロボットと言っても、業務の“パーツ”を組み合わせて作るものなので、パーツを整理できればそんなに複雑なものではありません。そのレベルであれば、しっかりコミュニケーションがとれれば対応できるはずです」(甲田さん)
学生時代からPCを自作するなどITが好きだったという甲田さん。開発と現場の間を取り持つ役目としては適任だろう。現在では、この実績を基に人事部門でもロボットを3台開発し、営業部門への展開も予定している。最初のうちは、自らが各部門に出向いて業務課題を聞くパターンが多かったそうだが、今では業務効率化の相談が増え、順番待ちのような状態になっているという。
「今後は社内の活用でノウハウをためるのと並行して、外販の準備も整えていければと考えてます。全国にいるGaroonのユーザーも同じような悩みを抱えているんじゃないかと思います。実例として見せられるものが多いので、そのような人たちに対して何か提案していけたらいいなと。そのためには、ワークフロー以外にも、スケジュールなどRPAを活用できるシーンを探す必要があるでしょう。
委託元であるクライアント側から言えば、最終的にロボットかどうかというのはどうでもよくて、早く正確に、そして安くやってくれればいいんですよね。結局人力でやるのは限界があるので、そこで僕らが技術を使って、他社よりも価値ある提案ができればいいのではないかと思います。ビーウィズはRPAだけではなく、人間が行う業務の工程も含めた整理や提案ができるので、それは強みとして持ち続けたいですね」(甲田さん)
甲田さんたちの引き合いが増す一方で、RPAを導入した総務部にも変化が起き始めている。これまでは業務改善のアイデアがあっても、相談する相手がおらず「後回しになっていた」という小暮さんだったが、デジタル/AI機能開発部とプロジェクトを進めたことで、他の業務も効率化できないかと動き始めているという。
「システム連携で難しい部分がありそうですが、例えば、派遣社員や施設の管理といった業務についても、ITを使って改善していきたいと考えています。甲田さんのチームを通すことで、他部署との連携も取りやすいですし、新しい技術も提案してくれる。心強いですね」(小暮さん)
小暮さん自身も、かつてはIT部門に所属していた時期があった。他社から転職し、セキュリティ系の企画を行う部署に入ったが、ITの視点を得るためにIT部門に異動。その後、総務に移ったという珍しいキャリアを持つ。そのため、RPAの理解や業務フローの作成でつまずくことはなかったという。
「総務はITの視点を持っていないと、今後どんどん苦しくなるでしょう。ITの視点がないと、業務改善の相談があっても“力業”の方向でしか解決策が考えられなくなります。最近は社内でITの勉強会を開きはじめました。『ITパスポート試験』の内容をベースに、工数管理の考え方やIT戦略の部分も含めて振り返りたいなと。今後の会社の方向性を考えれば、デジタル化に対応しないと総務だけが取り残されると危惧しています」(小暮さん)
小暮さんのこの考えは、上司も含めて周りの理解を得られているそうだ。自らの仕事をITの視点で見直す――RPAに限らず、業務やビジネスのデジタル化を進める上でITのリテラシーは不可欠だろう。それは、IT部門だけではなく業務部門も同じこと。これからの時代、どの部門であろうが積極的にITを学ぶ必要があることを、ビーウィズの事例は教えてくれる。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2019年7月30日