肝心の勝敗は、観客がその場でスマートフォンから専用のWebサイトにアクセスして行う「幼児教育を行政予算で補助すべきだと思いますか。『賛成』『反対』『どちらでもない』の3つから選んでください」という投票の結果が、ディベートの前と後でどれだけ変化したかで決定。
ディベート前に会場の79%を占めていた「賛成」票がディベート後に17%減り、一方で「反対」票は17%増えたことから、「反対」側であるNatarajan氏が勝利を収めた。ただし、この投票と同時に行われた「どちらがトピックに関する知識量で勝っていたか」というアンケートでは、ほぼ7対3の割合で、AIが人を圧倒した。
試合後、Natarajan氏は、後に「Project Debaterによる巧みな情報の使い方や、明快な言葉遣いに驚かされた」と語った。
「自分の主張に合った情報を分かりやすい文脈に収める能力にも感心しましたし、人間に対する共感能力には非常に大きな可能性を感じました。こうした能力をうまく活用できれば、人間のさまざまなスキルにも貢献するのではないでしょうか」(Natarajan氏)
とはいえ、イスラエルにあるIBM ResearchのラボでProject Debaterの開発チームのマネジャーを務めるRanit Aharonov氏は、別会場で行われたインタビューで「Project Debaterは6年ほどかけて開発し、複数の異なるAIエンジンを組み合わせて使っています。しかし、相手の主張を理解し、的確に反論するような能力を伸ばすまでには、さまざまな困難がありました」と明かした。
「2016年にProject Debaterを人とディベートさせ始めたときの結果は、見るも無残でした。例えば、『運動教育は必須か否か』というトピックを与えたのに、AIが学校における性教育について熱く語り出すなど、議論に求められる情報の集め方や焦点の当て方がちぐはぐだったんです。人間が与えたトピックに応じて自然な議論を構成できるまで、さまざまな学習を繰り返しました」(Aharonov氏)
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