IBMが長い期間をかけてProject Debaterを開発した背景には、単なる「ディベートのうまいAI」を超えて、同AIを未来のあらゆる産業分野やサービスを支える技術的な基盤として育てる意図がある。なぜなら、このAIがディベートを通して鍛えているのは、論理的な理解力や文章構成能力、情報収集能力に、人間の持つ自然な感情表現を統合した非常に高度なコミュニケーション能力だからだ。
「現状のところ、Project Debaterは集めた情報を使って特定の事実や傾向をピンポイントで指摘するのは得意ですが、『難しい質問をいきなり振られて答える』『一つの議論において、あえて同じ意見を支持し続ける』といった行動は苦手です。偏見なしにあらゆる情報を収集する機械にとっては不自然ですから。こうした課題に挑みつつ、これからは、自然な言葉でストーリーを伝える表現力をより伸ばしていけたら良いと考えています。
AIが人の仕事を奪うという懸念を抱く人もいますが、Project Debaterが目指すAIの姿はむしろ逆で、コミュニケーション能力や知見を使って、人間がより優れた判断を下すのをあらゆる場面でサポートするものなのです」(IBM Research ディレクター Dario Gill氏)
同社は今後、実験的な取り組みを続けていくという。IBM think 2019の会場でも、Project Debaterが特定のトピックに関して「賛成」「反対」それぞれの意見を参加者から集めるブースを設けていた。Aharonov氏はこの実験について「討論するだけでなく、1つのトピックについて、さまざまな人から意見を集めて理解し、集約することで、『賛成』『反対』双方の文脈や主張をまとめようとしています」と語る。
「今後さまざまな技術に応用することを考えているため、Project Debaterには、今のところあえて開発のゴールを設けていませんし、何らかの形で販売することもありません。より高度なコミュニケーションや洞察が可能になれば、おのずと応用先も広がっていくと考えています」(Aharonov氏)
(取材協力:IBM)
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