RPA失敗の構図――あなたの会社にも潜む引き継ぎという名の魔物(2/2 ページ)

» 2019年07月01日 08時00分 公開
[池邉竜一キューアンドエーワークス]
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“指示待ち族デジタルレイバー”の真実―RPAが失敗する理由―

 デジタルレイバーとは、これまで人のみが対応可能と想定されていた作業をルールエンジンやAI、機械学習等を含む認知技術やRPAに代行・代替させる取り組みの総称です。これらデジタル技術の組み合わせは、業務の効率化と省人化を可能とする新たな労働力として期待を集めています。

 ところが、デジタルレイバーは自分に指示を下してくれる人がいなければ、何の役にも立ちません。新たな労働力は、人と協働することではじめて活躍できる存在となり得ます。それでは、どのような業務をデジタルレイバーに任せれば良いのでしょうか?

 その問いに対する答え――それは、生産性向上や効率化が期待できる業務、ルール化された定型業務、無駄の多い業務、明らかに人間よりコンピュータの方が得意な業務など、さまざまな業務が対象となるのです。

業務効率化で「人」が得る“あるもの”

 しかし、これらの業務を客観的にあぶり出していくためには、高度なマネジメント技術が成立していることが前提となります。この高度なマネジメント技術とは、人が行う業務のムリ・ムダ・ムラがいかなるものかを理解し、把握できる状態を意味します。つまり、業務のムリ・ムダ・ムラを把握し、それを排除して、はじめてデジタルレイバーに任せて効果を得られる業務をあぶり出せるのです。

 その要件を満たすために業務を理解・把握すること、すなわち「業務の可視化」をすることは、デジタルレイバーを活用する上で決して外すことのできない重要な前工程となります。

 裏を返せば、「業務の可視化」が成功した暁には、デジタルレイバーの有効活用が約束されたと言っても過言ではありません。つまり、付加価値の高い仕事を考えるのであれば、「まずは、急がば回れ!」。現状の業務を棚卸し、客観的に業務の可視化ができる状態を整えることで、ムリ・ムダ・ムラがはっきりと浮かび上がってきます。そのことによって、デジタルレイバーの活用シーンが可視化できるわけです。そこで生まれた時間を通じて、「付加価値の高い仕事とはいったい何か」について考える余力を人は得るのです。

DXに欠かせない、業務のお片付け

 一方で、業務の可視化をすることを「面倒くさい」と思う方がいるのも理解できます。業務の把握もほどほどに、デジタルレイバーの導入が目的になってしまう企業があるのも事実です。しかし、現場の中に潜む「引き継ぎの魔物」を除去せずに、ことを急いてしまうと、とんでもない代償を払うことになりかねません。

 ある例では、20年前に起きたクレームの原因がチーム内における情報連携の不足であったことから、その対処策としてクレームが入った時には備忘録ノートに記載し、それを上司が確認して承認する業務フローが完成しました。それから、約3年に一度、担当者の引き継ぎが繰り返された後、しばらくして、社内のナレッジ共有を高めるために、クレームをExcelシートに記載するという作業が追加されました。メールによるスムーズな共有を実現するためです。その後、セキュリティポリシーの変更によって、クレーム情報をクラウドに乗せて、さらに多くの人に共有できる体制が必須であると、社長の肝要りでクラウドでの情報共有を開始。フローには、一度Excelシートに記載した情報をさらにクラウドに転記するという工程が追加されました。さらに、各自がIDを渡されて、誰が熱心に情報を更新したかが「人事評価」の一項目に追加されたのです。

 度重なる業務の追加を背景に、従業員は多忙を極め、やがて職場で「Excelシートからクラウドへの転記」を対象業務にRPA化の構想が持ち上がりました。確かにExcelシートに記載する情報を、クラウドの必須項目に合わせてRPAが切り取れば、十分転記が可能になると予見。その見立ては当り、プロジェクトは晴れて一件落着となりました。しかし、その後、「備忘録に記載を忘れなければ私は完璧に仕事をこなせるわ…」と、現在の担当者が備忘録への記載をきっちりと運用し続けたのです。

 そもそも、この備忘録への記載情報は、「進化」してクラウド上で共有されているにもかかわらず――。

 これは、先輩からの引き継ぎが繰り返されることによって、業務がレジェンドとなり、業務にムダがあったとしても、それに対して誰も何も言えず、忖度してしまい、気が付けば、無意識にその業務を継続してしまう典型例です。「引き継ぎの魔物」は、どこの職場にも潜んでいるのです。

 それでは、いかにして、業務の可視化を通じて、引き継ぎの魔物を片付けていくのかを次回以降でじっくり説明します。

企業紹介:キューアンドエーワークス

RPA(Robotic Process Automation)導入支援事業ならびに、人材派遣・技術者派遣、BPO・アウトソーシング、さらにRPAの諸スキルを持ちえたヒューマンリソースとAI・ロボットを組み合わせたデータインテリジェンスコンサルティングなど、企業ニーズに合わせた幅広いサービスを展開する。2015年4月に第1期「優良派遣事業者」に認定される。

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