IT系のプロジェクトでは、キックオフミーティングでの参加者の顔ぶれでそのプロジェクトの狙いや思いが分かることがあります。皆さんの職場ではどのようなメンバーが集まり、その主管部門はどこでしょうか?
DXのプロジェクトでお客さまを訪問すると、さまざまな部門の方が出てこられます。これまでの一般的なITのプロジェクトであればIT部門の方々との面談がメインであり、まれにエンドユーザー側の事業部の方たちが参加していました。しかしDXプロジェクトは少し様子が異なります。IT部門に加え、事業部門や新設のDX推進部門、経営企画部門、総務部門、新しい技術を評価するためにR&D部門の方などが参加されます。まさにDXは社を挙げてのプロジェクトであると言えるでしょう。これは私のIT業界での長い経験でもめったにないことであり、DXは産業革命4.0と呼ばれるほど重要であることが実感できます。
一昔前のeビジネスなどのIT革命や、SIS(Strategic Information System)と呼ばれた戦略的情報システム革命など、全社に渡るプロジェクトの場合には現在のDXと同じように参加者の所属部門が多岐にわたることがありました。社長やIT部門の担当ではない重役が旗振り役の時もありましたが、推進部門の中心は当時情報システム部門と呼ばれたIT部門です。ほとんどの場合、ITベンダーがコンタクトする先はIT部門でした。しかし、DXのプロジェクトはIT部門以外の部門がカウンターパートになることも少なくありません。これは、IT業界ではとても珍しいことです。
そこでDX進捗が進む企業においてはDXプロジェクトの推進部門との因果関係が見いだせるのではないかと考え、今回の「DX動向調査」(注1)の項目に追加いたしました。
デル株式会社 執行役員 戦略担当
早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。
横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。2015年、デルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネス統括し、グローバルナンバーワン部門として表彰される。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。産学連携活動としてリカレント教育を実施し、近畿大学とCIO養成講座、関西学院とミニMBAコースを主宰する。
著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)がある。Amazonの「IT・情報社会」カテゴリーでベストセラー。この他、ZDNet Japanで「ひとり情シスの本当のところ」を連載。ハフポストでブログ連載中。
・Twitter: 清水 博(情報産業)@Hiroshi_Dell
・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス
※注1:「DX動向調査」(調査期間:2019年12月1〜31日、調査対象:従業員数1000人以上の企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:479件)。
調査では「DXの推進部署はどちらですか」という質問に対し、「DX専門推進部門」「IT部門」「経営企画部門」「事業部門」「情報系子会社」「臨時プロジェクトチーム」「その他」の中より回答を選んでもらいました。そして、「デジタルリーダー」「デジタル導入企業」といったDX進捗企業(注2)の主幹部門を調べたのです。
その結果、現在のDX推進部門で先頭を走っているのが経営企画部門であり、実に37.5%ということが判明しました。次いで、DX専門推進部門が31.3%、IT部門が25.0%と続きます。
※注2:「デジタルリーダー」「デジタル導入企業」の定義は本連載第1回「44.1%の企業がDXのPoCフェーズ、日本企業は「DX夜明け前」なのか?」で解説しています。
今回の調査では事前の予想を覆すことがいくつかありましたが、この結果もその一つです。今までも大規模なITプロジェクトでは経営企画部の方が参加されることはありました。しかし、プロジェクト開始の最初の段階で会社の上位方針とのアラインメントを確認した後は、経営企画部の方はミーティングにほとんど出てこなくなります。経営企画部の方と仕事で常時連携することはありませんでした。そのため、IT系のプロジェクトで経営企画部門の方がリーダーシップ取るのは想定外であり、非常に驚いたのです。
私の中での経営企画部のイメージは、年に1〜2回の中期経営計画の見直しや立案の時に登場し、テキパキ指示して計画立案しているというものです。経営層の知恵袋として経営戦略を担当する部門といえるでしょう。優れた経営企画部員のナレッジやスキルは、経営学全般や財務、オペレーション、企業法務など幅広い企業マネジメント全般に及びます。やはり、経営企画部はビジネスエリートが集う部門であることを実感する次第です。時として「経営企画部は業務自体が形骸化しており、会社をネガティブな方向に持っていく」などと警鐘を鳴らす本もありますが、それだけ、注目を集める会社の花形部門ということなのでしょう。
直近の経営企画部門の大規模な実態調査に、2016年4月に日本総研が実施したものがあります。その中に、今回のDX動向調査の結果を予想するような興味深いデータがありました。それは「経営企画部はどのような分野で役割を果たしているか」という自己評価です。
役割についての自己評価は、減益傾向の企業と増益傾向の企業で全く異なっていました。まず減益傾向の企業では中長期要員計画やコーポレートガバナンスなど、どちらかというとカッチリした従来型の経営企画部門の仕事といえる内容が多かったのです。他方、増益傾向の企業では新規事業推進やICTの利用推進、将来を担う経営人材の育成という回答でした。まさに、DX実現のキーコンポーネントといえる「新規ビジネスモデル」「IT」「人材」の三種の神器のようなポイントが経営企画部の役割であると、明確に回答されていたのです。
また、DXプロジェクトの成功の可否はIT部門と事業部門との連携体制にあると言えます。しかし、過去から見てもこの両者の関係は必ずしもうまくいくことばかりではありません。それぞれの仕事の仕方や固有の言葉など、基本的な関係性を築くことですら苦労することがあります。事業部門はIT部門に「理解できる日本語で話してほしい」、IT部門は事業部門に「実現したいことは何かをはっきりしてほしい」など、初歩的なコミュニケーションすら成立していないことなどもあります。
DXプロジェクトでは上位方針との擦り合わせが重要です。経営企画部門が中心的な存在となり全社経営戦略としてDXが展開できるように、IT部門と事業部門を調整して推進する企業が現時点ではデジタル化を推進している結果となりました。
多くの経営企画部門の方と本件の結果について話をしました。「重要な位置付けのプロジェクトのため経営層直下の組織として参加している」「確かに、現時点ではさまざまな部門のブリッジングとしての役割を体現している」と位置付けについて説明されました。しかし、「未来永劫にDXプロジェクトを担当するわけではなく、軌道に乗ればやはりIT部門が担当すべきだ」とも発言もれています。経営企画部門の一部をIT部門と同じ組織にして、ビジネス感覚をより高めたIT部門、ITの知識を持った企画部門に組織変更にしていきたいという考えがその方にはあるようでした。
「戦略が組織に従う」か「組織が戦略に従う」かという経営学の古典的「命題」があります。「DXを実現するための組織」か「強い組織がDXを実現する」のかを考えると、次の一手が見えてくるのかもしれません。
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