連載
» 2020年03月17日 08時00分 公開

IT革命 2.0〜DX動向調査からインサイトを探る:約30年の蔵書から発掘する「デジタル」と「トランスフォーメーション」の本質

常に新しいテクノロジーを追いかけているIT業界にも「昔の事をたずね求めて、そこから新しい知識・見解を導くこと」、すなわち温故知新が当てはまりそうです。デジタルトランスフォーメーション(DX)のキーワードは、古くて新しいものかもしれません。

[清水 博,デル株式会社]

 本連載では筆者らが実施した日本企業(特に従業員数1000人以上の企業)におけるDXの動向調査(注1)の結果から得られたインサイトを読者の皆さんに紹介しています。

 第1回は調査資料から日本企業のDX推進状況を客観的に評価し、第2回でさらに踏み込んで組織の中でDXを誰が推進しているのかを深堀りして考察しました。その結果、IT部門だけではなく幅広い部門がDXの推進に関心を持つ状況が確認できました。しかしそれを受けた第3回は、DX推進の先行企業が「PoC貧乏」を脱出できず身動きが取れない状況も確認。第4回では「なぜ進まないか」を20年前の経験から考察してきました。

 5回目に当たる前回は日本企業におけるDXの効果や財務的貢献、競争優位の実現がどのような状況にあるかを確認しました。今回は筆者が持つ約30年間の蔵書から、今目の前にある「デジタル」や「トランスフォーメーション」が意味するものを複数の視点、複数の時代から考察していきます。言葉が先行しがちなDXですが、過去語られた言葉から多角的に見ていくとその本質を理解しやすいでしょう。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)

デル株式会社 執行役員 戦略担当


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。

 横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。2015年、デルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネス統括し、グローバルナンバーワン部門として表彰される。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。産学連携活動としてリカレント教育を実施し、近畿大学とCIO養成講座、関西学院とミニMBAコースを主宰する。

 著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)がある。Amazonの「IT・情報社会」カテゴリーでベストセラー。この他、ZDNet Japanで「ひとり情シスの本当のところ」を連載。ハフポストでブログ連載中。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Hiroshi_Dell

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

注1:「DX動向調査」(調査期間:2019年12月1〜31日、調査対象:従業員数1000人以上の企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:479件)。


「『デジタル』+『トランスフォーメーション』の言葉」ギル・アメリオ氏の言葉から

 「デジタルトランスフォーメーション(DX)で重要なことは、『デジタル』ではなく『トランスフォーメーション』である」と指摘する知識層の方は多くいます。筆者がトランスフォーメーションという言葉と出会ったのは、1995年前後にさかのぼります。もう早いもので四半世紀も前のことです。このころは、AppleやIBM、Hewlett Packard(当時)などの大手コンピュータ会社が大きなビジネスの転換期を迎えており、どの会社も苦しんでいました。筆者はこの時代に海外で働いていたので、多くの企業のリストラクチャリングを目の当たりにしたものです。

 IBMは自社の強みを生かせない「ノンコア事業」の売却を行い、「選択と集中」を進めていました。1991年にはタイプライター事業、1998年にはネットワーク事業を売却しました。一方、当時のヒューレット・パッカードは、1999年に創業時のビジネスである計測事業を分割し、別会社にするなど、大きな変化がありました。

 中でも、AppleのCEOになったギル・アメリオ氏は、半導体業界の「再建屋」として名高く、ヒーローのような存在でした。アメリオ氏本人が著した『トランスフォーメーションマネジメント―企業救世主ギル・アメリオの実践』(東洋経済新報社、1996年10月)は、ナショナルセミコンダクターが倒産寸前から3年間で超優良会社へと至るまでに実行した企業変革、徹底した戦略と強いリーダーシップ、企業文化の醸成などがまとめられており、「ここまでやるのか!?」と驚くばかりの内容でした。

 そのため今でも「トランスフォーメーション」という言葉を聞くたびに、私の中では戦慄(せんりつ)が走るほどの緊張感が沸き上がります。四半世紀前の本ですが、色あせることないメッセージが豊富に含まれています。

左と中央がアメリオ氏の著書(中央が『トランスフォーメーションマネジメント―企業救世主ギル・アメリオの実践』)。右は同年に発行されたフランシス・J. グイヤールら著『ビジネス・トランスフォーメーション―大競争時代の企業成長と組織再生』(ダイヤモンド社、1996年)《クリックで拡大》

「トランスフォーメーション」の意味

 この大きな動きがトランスフォーメーションであり、各社で盛んに使われた戦略の中心的なメッセージは「ビジネストランスフォーメーション」でした。しかしその当時、トランスフォーメーションという英単語はなじみがないもので、意味や語感などは全く知りませんでした。

 トランスフォーメーションでよくイメージされてきたのは、「変容」「変質」などの質的転換です。上記大手コンピュータ会社のように、多角化されていた企業のコア・コンピタンスにフォーカスして異なる体質にすることと感じていました。コア・コンピタンスとは、「競合他社を圧倒的に上回るレベルの能力」「競合他社にまねできない核となる能力」のことを表しますが、まさにディスラプターを撃退しているものです。

 またトランスフォーメーションには、医学の分野でがん細胞に関する意味があることも知りました。「ある種のウイルスは、ウイルス感染細胞が細胞変性効果(CPE)を示さずに非常に増殖する。 細胞が無限の増殖を獲得するので不死化ともいう。トランスフォーメーションを起こした細胞は、一般に腫瘍(がん)細胞の性質を示すことが多く、形態が変化し、接触阻止せずに無秩序に増殖して、不規則に配列する傾向がある」 (藤本秀士, 目野郁子『わかる!身につく!病原体・感染・免疫』南山堂、2008年2月)――。あくまでも医学の分野での表現ではありますが、その示す内容は企業業績の悪化が止まらない状況を想起させる恐ろしいものです。

 他にも、米国で推進された防衛改革にもトランスフォーメーションの意味があることを知りました。この文脈でのトランスフォーメーションは、「運用構想、作業手順、組織、テクノロジーを進化させる終わりのない継続したプロセスである」(東 義孝「米国の防衛改革の構造と展望」『防衛研究所紀要』第11巻第3号,防衛省防衛研究所)とされています。グローバル環境でのパワーバランスに適応するための持続的に改革プロセスを繰り返すことは、まさに企業の競争力と同じことかもしれません。

 いずれの意味からも、トランスフォーメーションとは緊張感があり、不退転の決意で変革し続ける「Dead or Alive」の状況下での言葉であるように筆者は感じます。指揮者らが「デジタル」ではなく「トランスフォーメーション」が重要だとする真意はここにあるのではないでしょうか。現在のDXもそのようなマインドで取り組むべきものかもしれません。

デジタル革命は30年前から始まっていた

 それでは「デジタル革命」の言葉についても考えてみます。こちらの方がもっと古くからある言葉です。本棚から「デジタル革命」がタイトルやサブタイトルとなっている本を取り出すと、かなりの数が出てきました。もう30年ほど前、インターネット普及期よりも前のものもあります。IT分野ではどんなにアイデアがよくても時期尚早で実現しないことがあります。その多くが、その時代のコンピュータパワーが足りなくて現実的でないというものです。

 これらの本を読むと、動画サイトや電子書籍、AI(人工知能)、IoT、ロボット、サブスクリプションビジネスなどが予言されていました。他のアイデアも、現代のテクノロジーである5G通信や高性能CPUによる高速な演算処理、クラウドやエッジデバイスなどを使えば実現できるようなものもあります。もう一度、じっくり読みたくなりました。まだ実現されていないアイデアが、過去のデジタル革命の中にあるような気がするのです。

筆者の蔵書から「デジタル革命」に関する書籍をピックアップした《クリックで拡大》

20年以上前の「デジタル」+「トランスフォーメーション」の本質とは

 「デジタル」、そして「トランスフォーメーション」の両方の本を同じ本棚に入れてみました。両方とも全て20年以上前のものですが、今でもインスパイアされる言葉が多くあることが分かります。この本棚にメッセージがあるとしたら、デジタルを用いたさまざまな夢のようなアイデア、そして不退転の決意で継続的に変革していく「トランスフォーメーション」で実現するということだと思います。これこそまさに、現在のDXのテーマに限りなく近いものだと感じました。「昔の事をたずね求めて、そこから新しい知識・見解を導くこと」の温故知新がITの分野でも適用できると言えます。

「デジタル」「トランスフォーメーション」に関連する書籍を同じ本棚に並べる《クリックで拡大》

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ