逃げちゃ駄目だ、DXは「何の前触れもなく現れる破壊者」との戦いだlT革命 2.0〜DX動向調査からのインサイトを探る

コロナ禍の9カ月間でDX推進企業は増加傾向だ。だが、そこはゴールではなく「決勝リーグのスタート地点」というサーベイ結果もあるようです。

» 2021年01月07日 08時00分 公開
[清水 博ITmedia]

コロナ禍の中でDXが進展した企業も

 コロナ禍の混乱をきっかけに企業がデジタル化の必要性を感じて具体的な施策を打ったことで、続くデジタルトランスフォーメーション(DX)に進むきっかけ作りが進んだと言われています。その変化は、デル・テクノロジーズのサーバー部門が実施した意識調査でも確認できました。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河・ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)入社後、横浜支社でセールスエンジニアからITキャリアをスタートさせ、その後、HPタイランドオフィス立ち上げメンバーとして米国本社出向の形で参画。その後、シンガポールにある米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のマーケティングダイレクター歴任。日本ヒューレット・パッカードに戻り、ビジネスPC事業本部長、マーケティング統括本部長など、約20年間、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わる。全世界の法人から200人選抜される幹部養成コースに参加。

 2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ、世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。

 2020年定年退職後、独立。現在は、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。著書『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の他、経済紙、ニュースサイト、IT系メディアで、デジタルトランスフォーメーション、ひとり情シス関連記事の連載多数。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Shimizu1manITDX

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

 本稿で触れる調査よりも前にデル・テクノロジーズが実施した「DX動向調査」(2019年12月に実施)では、「44.1%の企業がDXのPoCフェーズ、日本企業は『DX夜明け前』なのか?」でレポ―トした通り、デジタル化への息吹は感じるものの、まだまだPoC(概念実証)段階にいる企業が多いという印象でした。しかし9カ月後に実施した「情シス意識調査」*では変化が見られました。PoC段階の「デジタル評価企業」が44.1%から41.4%に下がり、DX推進企業と言われる「デジタル導入企業」や「デジタルリーダー」へのステップアップが図られたのです。

 DX推進企業の「デジタル導入企業」と「デジタルリーダー」は合計9.0%から17.2%に増加していました。この増加分を考えると、まだまだDXに着手していなかった「デジタルフォロワー」から二階級特進し、一足飛びに「デジタル導入企業」の段階に達している企業もあると考えられます。

 コロナ禍だから進んだことなのかどうか、それははっきりとは分かりません。しかし、DXの取り組みスピードが速くなってきていると自認している企業が増えてきたことを集計結果は示しています。

*デル・テクノロジーズは企業のDX進展度合いを5段階に分類しています。分類の詳細は詳しくは本連載第1回の「44.1%の企業がDXのPoCフェーズ、日本企業は『DX夜明け前』なのか?」をご覧ください。
**「情シス意識調査」:デル・テクノロジーズ データセンターコンピュート&ソリューションズ事業統括部門が2020年9月に情シス部門を対象に実施した調査。調査は全企業を対象にオンラインで実施し、356社からの回答を得ています。回答企業の割合は企業規模3000人以上の企業が26.3%、300人以上3000人未満の企業が46.4%、300人未満の企業が27.3%。


DX企業のポジショニング

DX実現も狭き門、しかしその後も多くの苦難が待つ

 いろいろ苦労しながらも、このまま時間が経てば、多くの企業が自動的に「DX推進企業」に到達するのでしょうか? McKinsey & Companyが2018年に発表した調査レポート「Unlocking success in digital transformations」(デジタルトランスフォーメーションの成功を解き放つ)が、今後の展開を示唆しています。このレポートは「そもそも企業のトランスフォーメーションが難しい上に、デジタルなトランスフォーメーションはより困難だ」というスタンスで語られています。安易にDXを語ることに警鐘を鳴らしているようにも読めます。この調査結果によると、16%の企業のみがDXに成功した半面、7%の企業は一度はDX実現の域に達したものの、その成功状態を持続できていませんでした。

DX成功企業

 この調査ではDXの成功を「業績向上へのトランスフォーメーションを完成させ、改善し続ける組織が構築された状態」と定義しています。とても難易度が高い状態ですが、調査回数を重ねるたびにDXの成功企業の割合が低くなっていることは興味深い点です。

 ビジネスを取り巻く状況は刻々と変化します。また、予測不能の環境変化も毎年のように起きる状況であり、未知のプレイヤーが競合として現れることもあります。

 アナログな世界(デジタルディスラプター登場以前の世界)ならば、競合企業が生産工場を建設して2年後に製品をリリースするとしても、その前に幾つか手を打てる可能性がありました。しかし、デジタルの戦いは何の前触れもなく競合が出現し、市場が混乱する可能性があります。常に改善するどころか、イノベーションし続けないとDX成功の座からいつ転げ落ちるか分からないのです。

 DXを実現するというゴールに到達すること自体は、まだまだ“狭き門”です。しかし本当の難しさは、ゴールに到達した時点から新しい挑戦が始まる点にあります。いま多くの企業が目指している地点は、実はゴールではなく「決勝リーグのスタート地点」なのかもしれません。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ