DX推進の担当部門に変化のきざしも、実情は推進とはほど遠いIT革命 2.0〜DX動向調査からのインサイトを探る

2020年の調査によると、DX推進の主幹部門はIT部門以外の組織が担う傾向が顕著になりました。しかし、その実情を調べてみると、情報システム担当者が経験してきたIT施策の「苦い経験」に似た状況が見えてきました。

» 2021年04月19日 10時00分 公開
[清水 博ITmedia]

DX推進の責任部門からIT部門が担当から外れ始める

 「成功率わずか1桁、「デジタル敗戦」濃厚の日本企業のDX その行方は?」でも紹介した通り、さまざまな調査から、企業の約9割がデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に苦しんでいることが判明しました。記事では「DX元年」とも言われた2020年は、コロナ禍に見舞われ、ただならない混乱が生じていたことも確認しました。

 こうした中、DX推進の状況にも変化が見られました。デル・テクノロジーズが2020年1月に発表した「第2回 DX動向調査*1」の結果を見ると、DXプロジェクトの推進責任部門は2019年から2020年の間で大きく変化していることが分かったのです。

DX推進担当部門の変化(出典:デル・テクノロジーズによる2019年12月実施「第1回 DX動向調査」と2020年12月実施「第2回 DX動向調査」の結果を比較)

*1 デル・テクノロジーズ「第2回 デジタルトランスフォーメーション(DX)動向調査」(調査期間:2020年12月15〜31日、調査対象:従業員1000人以上の国内企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:661件)


筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河・ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)入社後、横浜支社でセールスエンジニアからITキャリアをスタートさせ、その後、HPタイランドオフィス立ち上げメンバーとして米国本社出向の形で参画。その後、シンガポールにある米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のマーケティングダイレクター歴任。日本ヒューレット・パッカードに戻り、ビジネスPC事業本部長、マーケティング統括本部長など、約20年間、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わる。全世界の法人から200人選抜される幹部養成コースに参加。

 2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ、世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。

 2020年定年退職後、独立。現在は、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。著書『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の他、経済紙、ニュースサイト、IT系メディアで、デジタルトランスフォーメーション、ひとり情シス関連記事の連載多数。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Shimizu1manITDX

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

 調査によると、2019年は、調査対象の企業の半数弱に当たる44.1%で、「IT部門」がDX推進の責任部門でした。この頃、DX推進は「IT部門の業務の延長」としての意味合いが強かったので、この結果は不思議なものではありませんでした。

 しかし、2020年の調査結果を見てみると、DX推進の責任を担うIT部門の割合は44.1%から29.4%へと大幅に下がり、その代わりに「DX専門の推進部門」の割合が11.9%から22.0%に倍増しています。

 この変化の理由は、IT部門でそれまでに満足いく結果を出せていなかったことにあるかもしれません。IT部門は従来のシステムの運用管理業務に手いっぱいで、リソース的に割り振りが不可能だったというのが実際のところでしょう。そこで、DX専門の組織を新設することで責任を明確にしたいという企業の意向が現れたのがこの結果だったと考えられます。

 また、「事業部門」がDX推進の責任を担う割合は、2019年の6.8%から2020年は9.0%に増加しています。事業部門に責任を持たせることで意思決定を早め、市場に素早くに対応する姿勢を強化したと見受けられます。

 一方、2019年は企業の10.2%で「経営企画部門」がDX担当部門として重要な役割を担っていましたが、2020年にはこの割合は7.3%に減少していました。

 経営企画部門は、経営層直轄の部門として、新しいスキームを構築するときの主管部署になるケースが多いようですが、取り組みが軌道に乗るとその責任から外れるのが一般的です。2020年の結果は、DX推進でも同じことが起きていることを示すのかもしれません。

 また、大手企業などのIT部門の補完的な役割を担うことが多い「情報システム系の子会社」がDX推進の責任を担う割合は、2019年の1.1%から2020年は2.3%へと増加していますが、全体としての割合は依然として低く、DXでは蚊帳の外になっていることからも時代の流れを感じます。

DX推進部門の苦しい実情 経営の理解、予算、権限の状況は

 「DX推進部門」といった話を聞くと、IT業界で働く人はそれぞれ、今までの苦い経験からさまざまな思いを持つのではないでしょうか。

 今までも、なかなか難しい現実を見てきた方は少なくないはずです。例えば、DX推進部門とはいうものの、リード役としての適切な権限が与えられていないかったり、社内外から必要な人材を集めたりする上での人事制度の変更を克服できていなかったり、必要な予算を確保できなかったりするなど、どう考えてもDXプロジェクトを成功に導くのは難しい状況で苦労することになるケースは少なくありません。逆に権限や予算が与えられ過ぎても、現場や従来のIT部門と乖離(かいり)し過ぎて、寄り戻しが起こり、結局はうまくいかなくなってしまうということもあったでしょう。

 今や会社のデジタル化や新しいビジネスモデル開発に携われる部門ともなれば、今後の会社の命運を握る可能性のある花形部門であるようにも思えます。しかし、過去のIT施策の担当部署の境遇を知る人からは「また大変な部門が立ち上がってしまった」という感想を伺うこともあります。

DX推進部門の実情(出典:デル・テクノロジーズによる2020年1月発表の「第2回 DX動向調査」のより)

 今回は、DX実践に伴って新設されたDX推進部門の実情を見ていますが、調査結果からは、やはり「推進部門」と呼べるような状態にはなっていないことが判明しました。

 調査結果では、DX推進部門の存在について「経営層との合意」が取れている企業は43.6%と、半数に及びませんでした。

 また、「予算をこれから確保する必要がある」企業は46.2%、DX推進に直接影響する「DXビジョンが不明確」な企業は66.7%、DX推進の実務を担う「人的リソースの確保が必要」部門が76.9%に達するなど、課題を抱える企業が多いことが分かりました。

 ここまでの調査から、多くの企業はDXの「推進部門」という「箱」ができつつあるものの、その目的であるDX推進活動の「魂」はこれから入れ込んでいく状況にあることが分かりました。「まず『箱』を作った方がやりやすい」という方も多いですが、「箱」より前に必要な要件を打ち合わせられない組織ではDX実践は厳しいのではないかと筆者は感じます。

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