「いつ倒産してもおかしくなかった」  地方の中小企業をV字回復させたデジタル変革Salesforce LIVE Japan レポート 2(2/2 ページ)

» 2023年01月06日 08時00分 公開
[指田昌夫ITmedia]
前のページへ 1|2       

「SDGsは中小企業のビジネスチャンス」 識者がカーボンニュートラル対応を本音トーク

 続くセッションでは、旭鉄工の木村哲也社長、ゼロボードの渡慶次 道隆代表取締役、タレントの優木まおみ氏の3名が登場し、気候変動対策を中心としたこれからの中小企業の在り方について語った。

 木村哲哉氏はトヨタ自動車の車両開発エンジニア出身だ。社内でトヨタ生産方式を学んだ後、自動車部品メーカーの旭鉄工に入社した。以来、IoT(モノのインターネット)を使った生産現場の「カイゼン」に取り組んでいる。

 同氏は、工場に設置されている全ての機械に独自のセンサーとネットワークを接続してリアルタイムの見える化に成功し、労務費を年間で4億円削減するなどの成果を挙げた。このカイゼンの副産物として電力消費量を年間で22%削減し、二酸化炭素(CO2)排出量も減少した。これによって1億2千万円の削減を達成した。

 なぜカイゼンでCO2が削減ができるのか。産業機械は家庭用に比べて桁違いの待機電力がかかるため、稼働していないときも大量の電力を消費している。木村氏はここに目を付けた。

 全社の使用電力量を計測したところ、稼働時の電力量は全体のおよそ半分にとどまり、残りは待機時や停止時に消費していることが分かった。特に複数台ある大型コンプレッサーは、消費電力が大きい機器の代表格であるため、夜間は小型機器1台のみを動かすようにした。それだけで年間150万円分の電力消費量が削減された。

 こうした見える化をきめ細かく積み重ねた結果、旭鉄工は製造部品1個当たりのCO2削減量を算出することに成功した。「トヨタ自動車からは部品1個当たりのCO2排出量を報告することが求められている。われわれは30ライン60品番の部品に関して、1個当たりのCO2排出量を自動的に算出し、報告している」(木村氏)

 優木まおみ氏は「家庭でも、『エアコンは小まめに切るべき』『いや、付けっぱなしがいい』など、さまざまな情報があってどちらが正しいのか分からない。旭鉄工は全てを計測して見える化しているため、すべきことが分かる。そこが大事だ」と語った。

 旭鉄工では自社の工場で蓄積したノウハウを他社にも展開するため、別会社の Smart Technologiesを立ち上げ、IoTを使いこなすためのシステムとコンサルティングを企業に提供している。3カ月間でカーボンニュートラルに向けた課題を見える化し、CO2排出低減に取り組めるプログラムも開発した。

CO2排出の計測と開示は中小企業も必須になる

 ゼロボードの渡慶次氏は、投資銀行や大手商社での勤務を経て、温室効果ガス(GHG)(注1)の算定、可視化を実現するクラウドサービスを企業向けに提供するゼロボードを設立した。

 ゼロボードは1800社以上の企業に導入され、「この分野のデファクトスタンダードとなっている」と渡慶次氏は胸を張った。導入企業である岩谷産業はカセットガス1本を製造する際にCO2を何グラム排出しているかをゼロボードによって算定し、開示している。

 渡慶次氏は、株式市場では、気候変動対策を実施している企業の株しか買わないというコンセンサスができあがりつつあると語る。

 「GHG情報開示の基準では、自社内の直接排出(Scope1)、他社から共有された電力や熱などを自社で使用する際の間接排出(Scope2)に加えて、自社の活動の上流、下流など事業全体で発生する他社の排出(Scope3)を定めている。企業はこの全てを開示しなければいけない」(渡慶次氏)

図 サプライチェーン排出量の概要(出典:環境省のWebサイト)(注2) 図 サプライチェーン排出量の概要(出典:環境省のWebサイト)(注2)

 特に問題となるのが、取引先のGHG排出量も加算しなければならず、物流から従業員の出張まで幅広い活動に関するGHG排出量の計測が求められるScope3だ。

 現在、GHG排出量開示は上場企業を中心に対応が進んでいる段階だ。ただし、前述の通りScope3では取引先の情報も必要になるため、サプライチェーンを構成する中小企業もGHG排出量を算定して開示を求められる状況になりつつある。

 「大手企業は取引先に対して取引開始、あるいは継続の条件としてGHG算定と開示を求めるようになるだろう。2020年代後半には、全ての企業を対象としていわゆる『炭素税』が課せられると見る向きもある。中小企業は一刻も早くGHG算定に取り組み始めれば、ビジネスチャンスは拡大するだろう」(渡慶次氏)

 優木氏も「GHG排出量の削減に積極的な企業はあるが、消費者には排出量開示の取り組みが見えていない。義務化されてからではなく、今から始めてほしいと思う。私たち消費者にとっては、取り組みに積極的な企業の商品を購入することがカーボンニュートラルに貢献する一歩になる」と話す。

 現在、GHG排出量の開示ルールは欧米主導で整備が進んでいるが、日本企業にもチャンスはあると渡慶次氏は語る。「日本企業が培ってきた、ものづくりに関するノウハウの価値は高い。対策の実行段階では、これが世界をリードする武器になる」

 中小企業には気候変動問題に対応する余裕がないという声もよく聞かれる。木村氏は「カイゼンは人を楽にするもので、決してつらくなるものではない。早く仕事が終わって早く帰宅できるから、現場も協力してくれる。結果、企業はコスト削減効果が得られ、ノウハウもたまる。早く始めるべきだ」と語る。

 優木氏は、「企業はSDGsで苦労しているのではないかと感じていたが、今日の話を聞くと、むしろ企業の成長のためにはいち早く取り組むべきだと分かり、希望が見えた」と感想を述べた。

(注1)GHGにはCO2の他にメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロンガスなどが含まれる。

(注2)サプライチェーン排出量とは(環境省)

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ