サステナビリティから“価値”を得た企業はわずか「6%」 収益性との両立は本当に困難なのか?

SAPジャパンが発表した調査レポートで、日本企業がサスティナビリティ戦略の価値を認識するためには課題があることが明らかになった。ほとんどの日本企業が認識していない「サスティナビリティ戦略の価値」とは何か。サスティナビリティの追求と収益性を両立させるためには何が必要なのか。

» 2022年11月09日 07時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

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 SAPジャパンは2022年11月7日、日本企業におけるサステナビリティ(持続可能性)の取り組みに関する実態調査の結果を発表した。日本企業がサステナビリティから価値を得るためには、課題があることが明らかになった。

サステナビリティと収益性を両立させるポイントは?

 同調査によると、日本企業の70%は「持続可能性と収益性を同時に実現することは難しい」と考えている。「現在、サステナビリティ戦略から大きな価値を得ている」と回答した企業はわずか6%にとどまった。

 SAPは、この理由について「サステナビリティ戦略と実際の活動に乖離(かいり)がある組織が多いため」と分析している。

 調査に回答した日本企業の68%は「サステナビリティに関する戦略を明確に発信している」。一方で、「戦略が成功した場合、リーダーにインセンティブを与えている」のはわずか21%、「サステナビリティの取り組みに積極的に参加している従業員」は48%にとどまった。

 この結果について、SAPのスコット・ラッセル氏(カスタマーサクセス部門を統括するエグゼクティブボードメンバー)は、「日本企業が『利益と地球環境を同時に改善できる』と考えていることは心強い傾向だが、戦略を超えて目に見える結果を出すためには時間を無駄にできない」と指摘する。

 同氏によると、適切に取り組めば「3年後には、ほぼ3分の1の企業がサステナビリティ戦略から大きな価値を得られる」と推測する。「適切な分野に注力することによって、この数字はさらに高くなると考えられる」という。

コンプライアンス順守の課題

 現在、日本におけるサステナビリティ戦略はコンプライアンスの影響を受けている。同調査では、コンプライアンス順守はサステナビリティの主な推進要因である一方、課題でもあることが分かった。

 調査回答者が、事業におけるサスティナビリティの主要な推進力は「コンプライアンスリスク」(60%)であり、「生産性」(58%)および「市場の評判」(57%)であると考えていることが分かった。

 この傾向は、サステナビリティから得られる主な利益として、「CO2(二酸化炭素)排出量の削減」(57%)に次いで「コンプライアンス順守」(49%)が挙がったことと合致する。

 企業がサステナビリティからより大きな価値を得るためには「サステナビリティ戦略を再構築する必要がある」とSAPジャパンは指摘する。日本企業のサステナビリティの成功に向けた課題として回答数が最も多かったのは、「事業戦略の再構築がなされていない」だった。次いで「コンプライアンスを重視しすぎている」が挙がった。

サステナビリティの成果向上の鍵は「データへの投資」

 サステナビリティの成果を向上させるには、組織内のデータを効果的に活用し、より多くのデータに基づいた意思決定を行うことが重要だ。正確なデータは「日本企業において持続可能な調達」に次いで、CO2削減目標の達成に役立つ最も重要な活動の一つとして位置付けられている。

 同調査によると、78%の日本企業は「意思決定のためのデータの有効性が低い」ことを「中程度の課題」として捉えていることが分かった。組織全体のCO2排出量を計算している企業は18%にとどまっている。

 一方で、63%の企業がいくつかの分野でCO2排出量の計算を開始している。CO2排出量の算定を開始した企業の70%は、算定結果を基に「プロセスの変更」を行っている。

 自社ビジネスにおけるサステナビリティを測定するために「データ分析に投資している」と回答した日本企業は45%にとどまった。「サステナビリティデータの取得方法を従業員に教育している」との回答も36%だった。

サステナビリティにおけるリーダーシップ

 サステナビリティへの取り組みは急務といえる。環境だけでなく、ビジネスへの影響も大きい。

 今回の調査で「サステナビリティの目標が達成されないと、顧客が競合他社に流れてしまうリスクを従業員が認識していない」と回答した日本企業はわずか19%だった。

 SAPジャパンは「サステナビリティから価値を得ている企業は、戦略レベルで明確な目標を設定している。テクノロジーとデータマネジメントの変革力を活用し、従業員、サプライチェーンパートナー、政府関係者などの重要なステークホルダーと連携しているなどの特徴がある」としている。

 SAPと共同で同調査を実施したオックスフォード・エコノミクスのエドワード・コーン氏(編集ディレクター)は「サステナビリティのリーダーは、ビジョンを示すだけでなく、サステナビリティの取り組みを確実に実行している」と解説する。「そうした企業は社内外の重要なステークホルダーとコミュニケーションをとり、統合されたテクノロジーを使って、説明責任を果たすためにパフォーマンスを測定・追跡している」(コーン氏)

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