不真面目DXのススメ「不真面目」DXのすすめ

そもそもなぜDXに取り組むのでしょうか。いつの間にか本来の目的を忘れてDX自体が目的化し、指南書通りに進めなければいけないつまらない業務の一つになっていませんか。ITRの甲元宏明氏が勧めるのが、堅苦しいDXから脱却する「不真面目」DXです。

» 2022年05月25日 08時00分 公開
[甲元宏明株式会社アイ・ティ・アール]

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この連載について

 この連載では、ITRの甲元宏明氏(プリンシパル・アナリスト)が企業経営者やITリーダー、IT部門の皆さんに向けて「不真面目」DXをお勧めします。

 「不真面目なんてけしからん」と、「戻る」ボタンを押さないでください。

 これまでの思考を疑い、必要であればひっくり返したり、これまでの実績や定説よりも時には直感を信じて新しいテクノロジーを導入したり――。独自性のある新しいサービスやイノベーションを生み出してきたのは、日本社会では推奨されてこなかったこうした「不真面目さ」ではないでしょうか。

 変革(トランスフォーメーション)に日々真面目に取り組む皆さんも、このコラムを読む時間は「不真面目」にDXをとらえなおしてみませんか。今よりさらに柔軟な思考にトランスフォーメーションするための一つの助けになるかもしれません。

筆者紹介:甲元 宏明(アイ・ティ・アール プリンシパル・アナリスト)

三菱マテリアルでモデリング/アジャイル開発によるサプライチェーン改革やCRM・eコマースなどのシステム開発、ネットワーク再構築、グループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業ではグローバルIT責任者として欧州や北米、アジアのITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施。2007年より現職。クラウド・コンピューティング、ネットワーク、ITアーキテクチャ、アジャイル開発/DevOps、開発言語/フレームワーク、OSSなどを担当し、ソリューション選定、再構築、導入などのプロジェクトを手がける。ユーザー企業のITアーキテクチャ設計や、ITベンダーの事業戦略などのコンサルティングの実績も豊富。

空前のDXブーム

 国内でDX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組む企業が非常に増えています。空前のDXブームと言って良いでしょう。IT系メディアやビジネス系メディアだけでなく、一般誌、TV、ラジオといったマスメディアでも毎日のように「DX」ということばが使われています。

 筆者が所属しているアイ・ティ・アール(以降、ITRと略します)は、ITコンサルティングや市場調査を主な業務としています。ITRが2021年9月に実施した調査では、DXを重要だと考えている企業はなんと全体の約9割に上っています。しかし、多くの企業が「複数テーマでDXプロジェクトを進めているが成果はまだ出ていない」状況にあることが分かっています。私も数多くの日本企業とお付き合いがありますが、DXがうまく進んでいる企業は多くないのが実情です。

堅苦しいDXの氾濫

 では、どうしてDXはうまく進まないのでしょうか? 企業によって状況はさまざまなので、いろんな要因があるのだと思いますが、筆者は真面目すぎる日本人故にこのような状況に陥っていると考えています。とにかく、日本のDXは堅苦しすぎます。DXを語るときに、「経済産業省によるDX定義」とか「Digital Transformationということばを最初に使ったとされるストルターマン教授の定義」などが紹介されることが多いですが、その定義にどれほどの意味があるのでしょうか?

 「DX」とは端的にいえば「デジタルテクノロジーで何かを変えること」です。デジタルテクノロジーで新しいビジネスを作ったり、イノベーションを起こしたり、他社との差別化を行ったりすることです。DXということばがまだなかった時代から「ITを活用したビジネス創生やイノベーションや差別化が重要」と言われてきましたが、それと今のDXは本質的に大きな違いはないといえます。

 さらに単純にいえば、DXとは独自性のあることをすることです。しかし、独自性のある活動であるはずのDXに「定義」「ガイドライン」「認証制度」などの堅苦しいことばがつきまとっているのが今の日本のDXの現実だと思います。

 経済産業省のDX推進ガイドラインに沿って活動すれば独自性のあることができるのでしょうか? DX銘柄のようなお墨付きがあればイノベーションできるのでしょうか? 本来なら、独自性のある活動を推進して革新的な成果を挙げた数多くの企業の事例を分析してDX推進ガイドラインやDX銘柄を決定するべきです。しかし、今の日本企業の多くは誰も考えつかないような独自性のある成果を官公庁が決めた進め方に期待しているのです。根本的に間違っていると感じるのは私だけでしょうか?

 また「DX人材」ということばも大流行しています。DX人材にはいろんな役割とそれらの定義があるようですが、DX人材を多くそろえればDXが成功するということは考えにくいです。Apple、Googleといった企業が革新的な製品やテクノロジーを産み出したのはDX人材をそろえたからでしょうか? そんなことはありません。人材教育は重要ですが、人材がそろっていないとDXは進められない、と考えるべきではありません。

 DXには経営トップのコミットメントと推進体制確立が必須、という意見も多いですが、それを期待していたら何も始まりません。経営者が変わってもビジネスに変化がない日本企業が多いですが、現場のキーパーソンが変わった後で大きな品質トラブルが発生するのが日本企業です。大企業でDX推進体制を整備するのにどれだけ時間がかかるのか、誰もが想像できるはずです。

教科書に従ってもDXは失敗する

 最近、DXの失敗事例が多く紹介されています。

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