「ニアリアルタイム」データを全従業員で回すためにデータ基盤エンジニアは何をすべきかITmedia DX Summit Vol.11(1/2 ページ)

11年連続2桁成長を維持する間接材通販大手のモノタロウ。事業成長を継続できる秘密は、繰り返し改善と改良続けてきたデータ基盤の強さと、それを使いこなす体制整備の優秀さにあったようだ。同社のデータ基盤が今まで何をしてきたかを「中の人」に解説してもらった。

» 2022年06月16日 08時00分 公開
[加山恵美ITmedia]

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モノタロウ IT部門データ基盤グループマネージャーの香川和哉氏

 モノタロウは事業者向けに間接資材のオンライン販売を事業の軸とする企業だ。2000年10月に設立された同社は、現在、取り扱い商品数1800万点(在庫50万点)を扱う中で、11年連続で年率20%以上の成長を続ける。

 同社の高い成長率を支えるのが独自のデータ活用基盤だ。データ活用およびデータ活用基盤構築をテーマに開催したITmedia主催のオンラインイベント「ITmedia DX Summit Vol.11」は、モノタロウのIT部門データ基盤グループマネージャーである香川和哉氏を招き「モノタロウの全社データ活用を支えるデータ基盤とデータマネジメントにおける戦略と展望」をテーマに講演いただいた。本稿はその内容をダイジェストで紹介する。

バッチデータのExcel処理がスタート地点だった〜ニアリアルタイムのデータ分析基盤を実現するまでの10年

 モノタロウは組織で見ると、管理部門、サプライチェーンマネジメント部門、ECシステムエンジニアリング部門、IT部門など全部で12部門あり、社員数は約600人(2022年1月現在)。そのうちエンジニアやデザイナー、データサイエンティストが30%を占める。今回テーマとするデータ基盤はIT部門に係属し、全社で使うシステムのデータを集約するデータプラットフォームとなる。

資料9 モノタロウのシステム全体のイメージ(出典:香川氏の講演資料)

 いまでこそデータ基盤開発の高度なエンジニアが集まり最先端の取り組みを各所で披露する同社だが、最初から環境が整っていたわけではない。2010年以前はデータ活用の方法に悩む多くの企業と同様、いわゆる「Excel仕事」が中心だった。基幹システムから抽出したデータを各業務の担当者がExcelシートを使って手作業で操作していたのだという。

 この作業をデータウェアハウスを使ったデータ基盤で置き換えたのが2010年のことだ。同社基幹システムに販促基盤を構築した。この基幹システムから日次でECサイトのデータをデータウェアハウスに同期できるようになったことで、マーケティング活動にデータを反映する流れが生まれた。

 さらに2016年にはGoogle Cloudのデータ基盤「BigQuery」を採用し、クラウドでのデータ基盤構築に挑み、段階的な導入を経て2018年には全社に展開した。この取り組みによって、日々のバッチ処理と出力待ちだった業務を、日常的に「ニア」リアルタイムのデータを利用できるようになったのだ。この取り組みが、データ分析からオペレーション改善への最適化を回すサイクルを速めるきっかけとなった。2000年頃からは、社内にデータ管理の専門チームを結成し、「次世代BI」ツールと呼ばれるサービス「Looker」とデータウェアハウスの導入および社内展開を進めた。

 現在は多様なデータソースからのデータをBigQueryに集約し、Google Cloudが提供するデータポータル(BI)やスプレッドシートなどを通じて、各部門がレポーティングや分析などに活用できる環境が整っている。

 データ基盤に集約されるのは基幹システムやECサイトシステムの受発注情報など約30スキーマ、1200超のテーブルだ。これにサーバやCDNのログデータ、ECサイト顧客の行動履歴、ウェアハウスマネジメントシステムの管理データ、顧客からの問い合わせ、各種サブシステムのシステム情報なども含まれる。データ基盤は全従業員の3分の2に当たる約400人が日常的に利用しており、クエリ実行数は月間300万以上にもなる。実に毎日10万回はクエリが実行されている計算になる。

 データ基盤にあるデータからは各種KPIレポート、ECサイトのレコメンデーション、検索エンジン向けデータの作成、販促対象顧客選定、需要予測や在庫最適化などに役立てている。

データ活用できるものの難易度が高くて限界が……

 モノタロウではデータ基盤を進化させるにつれて、従業員がより自由に使えるような環境を整えてきた。2020年からはデータ管理を導入し、従業員はデータを自由に使えるようになったものの簡単ではないことが課題に浮上した。

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