SAS、業界別の特定業務に特化したAIテンプレート「SAS Answers Cloud」を発表AIモデリングの手間を大幅削減、「実質7合目から作業開始」

ビジネスを加速させるために、組織でのAI(人工知能)活用が進む。一方で理想と現実には乖離(かいり)があるのも事実だ。AIプロジェクトのあるべき姿を実現するという「SAS Answers Cloud」の性能は果たして。

» 2022年10月21日 08時00分 公開
[鈴木恭子ITmedia]

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 SAS Institute Japanは2022年10月6日、特定業種の業務に特化した分析ソリューション「SAS Answers Cloud」を発表した。これは、同社のクラウド型データ分析/人工知能(AI)プラットフォームである「SAS Viya」を介し、AIアプリケーション開発とその運用を支援する。業界や業種に特化したソースデータのリストや変数作成プログラムをビジネステンプレートとして提供する。

羽根俊宏氏

 説明に登壇したSAS Institute Japanの羽根 俊宏氏(ソリューション統括本部 金融デジタルソリューション統括部 部長)は、「SAS Answers Cloudは企業のAI活用で必要不可欠な業務特性に応じたノウハウをテンプレートとして提供する。これにより、AI導入プロジェクト期間の短縮や業務課題の早期解決を実現できる」と強調した。

「SAS Answers Cloud」はAI活用の「理想」と「現実」のギャップを埋める

 SAS Answers Cloudは、AI導入に必要なデータの変換や加工、編集といった準備(データプレップ)やオートモデリングをはじめ、SASが擁する特定のビジネスドメインに特化したテーマ別のナレッジをクラウド上で提供する。利用するクラウド基盤はMicrosoft AzureやAWS(Amazon Web Services)、GCP(Google Cloud Platform)などを選択できる。

 羽根氏は、現在のAI活用の課題に、「データを活用してどのように業務課題を解決するのかが曖昧であること」と、「AIモデル構築前のデータ準備が困難であること」を挙げた。

 既存のクラウドAIは各種アルゴリズムを提供するが、ユーザー企業は保有データの準備やモデル構築を自社で実施する必要がある。しかし、多くの企業は業務の課題を正確に認識しておらず、課題解決に向けたデータ活用アプローチを明確化できていない。また、データプレップやモデル構築を自社で実施できる企業は少数で、データ活用アプローチが描けなかったり、AIモデル構築前のデータ準備が困難だったりというケースは多い。

 羽根氏は「一般的なモデリングプロセスで必須となる元データ準備や分析用テーブル作成、追加変数作成といった作業は分析作業工数の約80%を占める。こうしたプロセスは目的に応じて業務知識を持つ専門家と分析者の知見が必要だ。しかし、現実にはAIが(このプロセスを)実行するといった誤解がある」と指摘する。

図1 SASはAIプロジェクトの課題として「業務課題をデータでどう解決するのかが曖昧」「AIモデル構築前のデータ準備が困難」を挙げる(出典:SAS Institute Japan)

 こうした課題に対し、SAS Answers Cloudは業務課題ごとのデータ活用アプローチメニューを提供する。

 AIモデル構築前のデータ準備では、SASのコンサルティングプロジェクトを通じて作り上げたデータモデルを提供する。必要となるソースデータのリストや変数作成プログラムはビジネステンプレートとして提供する。

 具体的には「データモデルとETL(Extract/Transform/Load)テンプレート」と、各ビジネステーマに応じたAIモデリングの標準プロセスである「AIモデルプロセステンプレート」、業務別ビジネスレポートサンプルを網羅した「ビジネスレポートテンプレート」などだ。

 羽根氏は「AI活用には業務に踏み込んだ着想が必要だ。こうしたテンプレートを活用することで、ゼロから作り上げるAIモデリングから脱却できる」と語る。既に同AIモデルプロセステンプレートを導入した国内金融機関では、他社のAIモデリングツール利用時と比較し、予測精度が5%改善したという。

 現在、SAS Answers Cloudは金融業界を中心に、製造業、ライフサイエンス・ヘルスケア(製薬を含む)、流通・小売業のテンプレートをそろえる。例えば金融業では「リテール顧客のライフスタイルの可視化」や「リテール顧客の資金/資産形成ニーズの予測」「継続的顧客管理における顧客プロファイリング」といったビジネステーマに対し、指定されたファイルをアップロードすれば答えが導き出される仕組みだ。

 「今後も顧客ニーズに合わせてビジネステーマは追加していく」(羽根氏)

図2 SAS Answers Cloudが対応する特定業種・業務のテンプレート一覧(出典:SAS Institute Japan)

ユーザー企業の経験を水平展開して業界の分析力を底上げ

 SASは同日、スモールスタート向けデータ解析コンサルティングサービス「DXスターターパック」も発表した。これは顧客の利用規模に応じたパターンメイド環境でSAS Cloudサービスを利用できるサービスで、最短1カ月以内でSAS Cloud環境の構築が可能だ。ITリテラシーを問わず、SASのアナリティクス・ライフサイクル全てが利用できる。

図3 SASのクラウドアナリティクスにおける「DXスターターパック」の位置付け(出典:SAS Institute Japan)

 ライフサイエンス&ヘルスケア分野では、塩野義製薬との協業で開発業務受託機関向け「DXスターターパック」を提供する。同スターターパックは医薬品開発のためのデータ解析コンサルティングサービスで、SAS Viyaに塩野義製薬やSASコンサルティングサービス、SASのパートナー企業が培ったノウハウを組み込んで提供する。実証済みのデータ解析環境と解析アセットを提供することで、ユーザー企業は初期投資コストと時間を大幅に低減できるという。

 SASは同分野のスターターパックで想定する課題解決支援領域として、「臨床解析業務のトランスフォーメーションの支援」や「リアルワールドエビデンスの活用によるトランスフォーメーション支援」「データ解析結果を実現場に組み込むPDCAサイクル実践の支援」を挙げている。

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