シスコ「旧態依然のインフラ」からの脱却を提案 “やわらかいインフラ”とは何かWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2022年10月24日 14時15分 公開
[松岡功ITmedia]
前のページへ 1|2       

ITサービス業界のDX支援ビジネスを充足し促進へ

 では、これからはどのようなITインフラが求められるのか。

 シスコシステムズは、「仕事をする場所」「仕事に使うデバイス」「データの保管場所」「アプリケーション開発のサイクル」「セキュリティの考え方」について、これまでとこれからの違いを整理した(図3)。

図3 ITインフラにおけるこれまでとこれからの違い(出典:シスコシステムズの会見資料)

 やわらかいインフラは、図3に示された変化に対応したITインフラともいえる。望月氏は、やわらかいインフラの全体像(図1)に新たな説明を加えた図4を掲げながら、次のように述べた。

図4 旧来のインフラから「やわらかいインフラ」へ(出典:シスコシステムズの会見資料)

 「左下の赤い丸で示した旧来のインフラからステップアップしたネットワーク(Connect)は単に回線接続だけでなく、BYOD(Bring Your Own Device)やIoT(モノのインターネット)デバイス、5G、エッジなどあらゆる接続ニーズに対応しなければならない。セキュリティ(Secure)では、複雑化するITインフラの安全を確保する必要がある」

 さらに、こう続けた。

 「最適化(Optimize)では、アプリケーションやクラウドの利用形態が変化する中で常にベストのチューニングをしなければならない。自動化(Automate)は、運用を自動化することでオペレーションミスを減らすのが最大の狙いだ。最後に監視(Observe)によって、可視化し自律運転することでビジネス変革のスピードに対応していく」

 そして、「こうしたステップアップによって、やわらかいインフラが実現する」と述べた上で、「シスコはこのやわらかいインフラに基づいて製品やサービスを用意している。お客さまにこのインフラの必要性をしっかりと訴求していきたい」と強調した。

 あらためてやわらかいインフラの内容を見ると、それぞれの機能要素は目新しいものではない。ただ、旧来のインフラからステップアップする形で、ITインフラというよりもDXに必要な要素、さらにいえば、DXプラットフォームを拡張する機能として捉える必要があるだろう。

 注目すべきは、やわらかいインフラを構成する要素が旧来のインフラからネットワークを起点にステップアップしていく形になっていることだ。考えてみると、機能要素であるセキュリティや最適化、自動化、監視に適用されるツールは、ネットワークでつながっていてこそ効果を発揮するものばかりである。つまり、ネットワークソリューションを長年にわたって手掛けてきたシスコが得意とするビジネスフィールドであるわけだ。

 やわらかいインフラは、すなわち「あらゆる変化に臨機応変に対応できるITインフラ」と解釈することができるだろう。「拡張版DXプラットフォーム」とも見て取れる。

 ただ、気になるのは、今回のやわらかいインフラの提案は旧来のITインフラを変革することを掲げているので、これまでビジネスパートナーとしてシスコと緊密に連携してきたシステムインテグレーターをはじめとしたITサービス企業と競合する関係にならないかということだ。なぜならば、ITインフラ事業はこれまでITサービス企業が主体的に手掛けてきたからだ。見方によっては、シスコがITインフラ分野に真っ向から切り込んだようにも映る。こうした見方について、会見の質疑応答で聞いてみた。すると、中川氏は次のように答えた。

 「ITインフラが旧態依然で、このままではDXに対応していけなくなるという危機感は、私たちだけでなく、パートナーであるITサービス企業の皆さんも強く抱いておられ、お客さまへの対応に追われている。そうした中で、私たちの提案はDXに向けた的確なソリューションとして受け入れられていただけると確信している」

 やわらかいインフラは今後、むしろITサービス業界のDX支援ビジネスを充足し、促進するというのが、シスコの考え方のようだ。そうした俯瞰図によってこの先を見れば、中川氏が指摘したように「旧態依然としたITインフラがDXに対応できるようになっていくかどうか」を捉えることができるかもしれない。やわらかいインフラの普及度合いが、そのバロメーターになるのではないか。そう感じたシスコの会見だった。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ