「新しいエンドポイント形態導入は売上増につながっていない」 ノークリサーチ調査

ノークリサーチの調査によると、中堅・中小企業が抱えるDXの課題にサーバやエンドポイント形態の違いが影響していることが分かった。ノークリサーチはこれらに注目することで、ITベンダーがユーザー企業にどのようなアプローチが有効かが見えてくるとしている。

» 2022年10月07日 07時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

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 ノークリサーチは2022年10月4日、「DX(デジタルトランスフォーメーション)における課題と導入済みのサーバ/エンドポイントの形態との関連性」についての調査結果を発表した。

 DXに向けたITソリューション導入は、「クラウドファースト」「クラウドネイティブ」といったキーワードとともに論じられることも少なくない。「サーバ環境でIaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)を利用している」や「エンドポイント環境でVDI(仮想デスクトップ)を導入している」といったインフラの状況によってDXソリューションの導入状況や抱える課題が変わるかどうかを探るため、ノークリサーチは、DXとITインフラに関する調査レポート2点「2022年版 中堅・中小企業のDXソリューション導入実態と展望レポート」と「2022年版 サーバ&エンドポイントにおけるITインフラ導入/運用の実態と展望レポート」のデータを統合分析した。いずれも調査対象は年商500億円未満の企業だ。

サーバ、エンドポイント形態とDXの取り組み状況との関連性

 左下のグラフは「DXに取り組む際の課題と導入済みのサーバ形態との関連」の分析結果の一部だ。

左:DXに取り組む際の課題と導入済みのサーバ形態との関連、右:DXに取り組む際の課題と導入済みのエンドポイント環境との関連(出典:ノークリサーチのプレスリリース)

 IaaS/PaaSなどを利用している場合(赤帯)はクラウド移行が目的化しないよう注意する必要があることが読み取れる。ただし、オンプレミス、クラウドの取捨選択を経ているため「どの業務からDXに着手すべきか判断できない」に関する課題はオフィス内設置の場合(青帯)と比べて少ないことが分かる。

 「導入済みのエンドポイント環境」に関する分析が右下のグラフだ。VDIなどの新しい形態を導入しているユーザー企業(紫帯)は、コスト削減にはつながるものの、売上増には直結しないという課題がある。従来型の環境(緑帯)と比べると端末内のデータを統合、管理しやすいためデータ活用に関する課題を抱える割合が低くなっている。

 ユーザー企業にソリューションを提案するITベンダーは「サーバ、エンドポイント形態とDXに向けた取り組み状況の関連性に着目しておくべきだ」とノークリサーチは指摘する。

導入済みITインフラ形態はDXの取り組み割合やDXソリューション種別には影響しない

 ただし、導入済みのサーバ、エンドポイント形態はDXの取り組み割合や利用しているソリューション種別には直接影響しないことが調査結果から明らかになった。

 下記のグラフのうち、左側はDXソリューションの導入状況を、右側は導入済みのサーバ形態(右上)および導入済みのエンドポイント形態(右下)を示している。

左:DXソリューションの導入状況、右:導入済みのサーバ形態(右上)と導入済みのエンドポイント形態(右下)(出典:ノークリサーチのプレスリリース)

 左右のデータを照合すると「DXの取り組み状況」や「DXカテゴリ別の導入済み割合」と、導入済みのサーバ形態およびエンドポイント形態との間に明確な相関は確認できなかった。「IaaSやPaaSを利用しているユーザー企業はセンサーとAI(人工知能)によるデータ分析が多い」「VDIを導入済みのユーザー企業ではペーパレス化が進んでいる」などの際立った傾向はみられない。

業務整理への支援があれば、オンプレミスのサーバ環境でもDX推進は可能

 導入済みのサーバ、エンドポイント形態と、「DXに取り組む際に抱えている課題」との関連性については留意すべき点があることも判明した。

 「DXに取り組む際の課題」を尋ねた結果を、導入済みのサーバ形態別(前頁の選択肢を抜粋したもの)に集計した結果を見てみよう。

DXに取り組む際の課題と導入済みのサーバ形態との関連(出典:ノークリサーチのプレスリリース)

 クラウドサービスを利用している場合(赤帯)は、オフィス内設置の場合(青帯)と比べると「必要な費用を捻出することができない」の値が低く、DXに取り組む原資を確保するためのインフラ費用抑制といった点でも有効であることが分かる。ただし、「DXの検討をするために費用が発生する」の値はクラウドの方が高い。

 「ITベンダーは、クラウドで柔軟なサーバ環境を構築している場合も『DXをビジネスにどう生かすか』などの検討のために相応の費用が必要になることをユーザー企業に伝えておくことが重要だ」とノークリサーチは指摘する。

 「クラウドサービスへの移行が目的化している」状態に陥らないことも大切だ。

 オフィス内設置では「どの業務から着手すれば良いか判断できない」の値が高い。クラウド導入済みの企業は、クラウドを適用するシステムを取捨選択する際に業務を整理するため、こうした課題の値が低くなっていると考えられる。

 逆にオフィス内設置のサーバ環境でも、ITベンダーが業務の整理を支援することでDXが推進できる。「クラウドか否か」の前に、まずユーザー企業の業務に着目することが重要だ。

エンドポイント形態はデータ活用と絡めた提案を

 同様に、「DXに取り組む際の課題」と導入済みのエンドポイント形態との関連性を分析した結果の一部を抜粋したものが以下のグラフだ。「費用に見合う効果を得られる確証がない」や「DXに対する理解の内容がさまざまである」という課題の値は、端末を個別管理する場合や、LCM(Life Cycle Management)やVDIなどの新しい形態を利用しない場合よりも、端末を一括管理する場合や新しい形態を利用している場合の方が高い。ノークリサーチは「後者の方が前者と比べて投資対効果やIT活用方針に関する意識が高いためだ」と分析する。

 新しいエンドポイント形態が売上増の手段になっていないことが「コストは削減できるが、売上は向上しない」の値から確認できる。一方で「データの収集、分析だけでは業務は改善しない」の値は新しい形態を導入している場合が最も低い。

 つまり、データ活用という点では新しいエンドポイント形態が役に立つ可能性があるということになる。実際に、LCMやVDIにはコスト削減効果だけでなく、端末内データを統合、管理しやすいという利点がある。これをデータ活用に生かすことができれば、売上増に寄与するLCMやVDIの提案も可能となってくる。

DXに取り組む際の課題と導入済みのエンドポイント形態との関連(出典:ノークリサーチ)

 ノークリサーチは「DXに取り組む課題と導入済みのサーバ、エンドポイント形態の関連に着目すると、DX提案とITインフラ提案の両方で有効なアプローチ方法が見えてくる。ITベンダーはDX(上層)とITインフラ(下層)の関連性を踏まえつつ、双方向からのアプローチを試みることが今後は必要になる」と指摘する。

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