「Microsoft Power Platform」は何ができる? 花王の事例から読み解く(1/2 ページ)

Microsoftのローコード開発ツールである「Microsoft Power Platform」の利用が、業界や業種、企業規模を問わず拡大している。トヨタ自動車はPower Platformを利用することで、約2年間で7600人以上のアプリ開発者を育成した。これによりボトムアップ型のDX推進が実現できるという。本稿では花王での取り組みと変化を紹介する。

» 2022年10月25日 08時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

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 日本マイクロソフトは2022年10月20日、同社が提供するローコード開発ツールである「Microsoft Power Platform」(以下、Power Platform)について説明会を実施した。

 説明会の冒頭で日本マイクロソフトの野村圭太氏(ビジネスアプリケーション事業本部長)は「トヨタ自動車のアクティブな市民開発者は約3000人となり、全社員の3%を占める。Microsoftのデータから見ると、世界で最も市民開発者の比率が高い企業となっている」と同サービスの利用例を紹介した。

なぜPower Platformが広がっているのか 背景にある企業の課題

野村圭太氏

 野村氏は「Power Platformの利用拡大の背景にあるのは、『デジタル需要の急増と市民開発者不足のギャップ』にある」と指摘する。

 「今後5年間に作成されるアプリの数は、過去40年間の総数を超える7億5000万件になるとの予測がある。その一方で、85%以上の組織は非構造化データの分析に苦労しており、現在のテクノロジーで自動化できる業務は50%にも達するといわれている」

 デジタル化の需要はこれまで以上に旺盛になる可能性が高いが、大きな課題は市民開発者不足だ。

 同氏は「2025年までに全世界で400万人の市民開発者が不足するといわれ、日本でも2025年には43万人の市民開発者が不足するとの予測がある。デジタル需要の急増と、市民開発者不足のギャップを埋めることが重要であり、そこにMicrosoftの役割がある」と述べ、「Microsoftは人的リソースとコストを最適化し、あらゆる業務をデジタル化する支援をする。特に、従来の手法ではリソースをかけられなかった開発案件やROI(Return On Investment)が見込めないといった領域に対して、ローコードツールでデジタル化を支援し、市民開発者を増やすことに力を注ぐ」と続けた。

 野村氏は、ローコードツールがプロ開発者にとっても効率的なアプローチとして活用できるとしており、「プロ開発者やIT担当者、市民開発者が、適材適所で『Microsoft Azure』やPower Platformを使い分けて開発を行うことが、あらゆる業務をデジタル化することにつながる」と述べる。

Power Platformの特徴

 Power Platformは、Webアプリやモバイルアプリの開発を行う「Power Apps」、プロセスやワークフローの自動化を行う「Power Automate」、チャットbotや会話型エージェントを提供する「Power Virtual Agents」、データを活用して安全なビジネス用のWebサイトを構築できる「Power Pages」、データの探索や分析、レポート作成を行う「Power BI」の5つのローコードツールを持つ。

 さらに、Power Platformの能力をフルに生かす機能も準備されている。Microsoft製品や他社製品とのデータ連携を行うための「データコネクタ」、あらかじめ学習したAI(人工知能)モデルを簡単に活用できる「AI Builder」、ビジネスデータを安全に保存、管理する「Microsoft Dataverse」、Excelの数式のような簡単な言語で開発ができる「Power Fx」、ローコードでアプリを大規模に展開する組織をサポートする「マネージド環境」だ。

 2022年10月に開催された年次テクニカルカンファレンス「Microsoft Ignite」では、Power Platformに関して幾つもの発表が行われた。

 一般公開が発表されたPower Pagesは、先にも触れたように、ビジネスにフォーカスしたWebサイトを迅速かつ容易に構築できることが特徴で、技術的なバックグラウンドに関係なくデータを活用した安全なWebサイトを作成できる。また、業務プロセスとの連携でプロセスの合理化やワークフローの自動化、エンドツーエンドのビジネスソリューションを実現できる。

 同じくMicrosoft Igniteで公開されたマネージド環境は、ガバナンスを強化できる機能を標準搭載しているのが特徴だ。Power Platformを組織の中で大規模展開する際に必要となるガバナンスを自動的に実現する。

 「ローコードツールを導入するとガバナンスポリシーやユーザー権限の設定、使用状況の分析などに人的リソースを割く必要があったが、マネージド環境を活用すれば可視性と制御性を向上でき、IT管理者の負担を大幅に軽減できる」と野村氏は話す。

 Microsoft IgniteではAI Builderの機能強化も発表された。これまでの構造化データの活用に加えて契約書や手紙などの非構造化ドキュメントの処理も可能となり、さらに日本語を含む164言語の手書きテキストの認識や複数行や複数ページにまたがる情報の抽出もできる。

 「Power Platformは、世界で最も包括的な統合型ローコード開発ツールだ。Microsoftが考えるローコードは、単にアプリの開発や自動化だけでなく、システム全体に関わるものだといえ、デジタル変革を支援するため、エンドツーエンドのポートフォリオを提供している。例えば、開発したアプリを業務プロセスと連動させてワークフローを自動化できる。また、Webサイトを構築してバックエンドのプロセスと連携し、ユーザーからの問い合わせに対応するためにチャットbotを活用できる。さらに、データをPower BIであらゆる角度から分析してレポートを作成することも可能だ。これらの機能がネイティブに連携し、一つのプラットフォームとして提供するものがPower Platformだ」(野村氏)

日本国内での普及戦略

 日本マイクロソフトは国内におけるPower Platformの普及に力を入れている。

 同社はパートナーエコシステムを利用しており、国内のパートナー18社がPower Platformの導入支援サービスや内製化支援サービス、技術トレーニング、ヘルプデスクサービスなどを提供している。同社は今後もパートナーエコシステムを拡大していく予定だ。

 また、Power Platformの活用支援策として、「Envisioning Workshop」を提供しており、これは顧客が目指す姿を共有してその実現に向けた支援をデザインシンキングの手法などを用いてサポートするものだ。

 さらに、市民開発者の育成支援として「Power Apps」や「Power Automate」などの利用方法を1日で習得できるトレーニングプログラム「App in a Day」や、Power Platformの基礎を無料で学べる「Power Platform Virtual Training Days」を提供している。これまでに2万人以上がトレーニングを完了したという。

 新たに公開された「Power Platform Onboarding Center」では、1カ月間の学習およびトレーニングでPower Platformの基礎から応用までを習得できる実践プログラムを提供する。また、「Power Up Skilling Program」では3カ月間のトレーニングを通してスキルアップや認証取得を目指す。

 MicrosoftはPower Platformに関して「何から始めてよいか分からない」場合や、個別の導入支援が必要である場合などのために、困りごとを相談できる相談センターを開設することも発表した。

 「市民開発者の育成支援をさらに強化するために無料のトレーニングサービスを拡充する。Power Up Skilling Programは年次イベントのIgniteで発表されたものであり、まだ英語版だけの提供だが、認証を取得することで市民開発者のキャリア支援につながる」(野村氏)

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