ブロックチェーンがヘルスケア業界に与える変化 クラウド活用の最新事例(2/2 ページ)

» 2022年11月09日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]
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医療ITのサスメドがAmazon Managed Blockchainを採用した理由

 サスメドは2015年に設立され、これまで「デジタル医療」「臨床試験を効率化するシステム」「機械学習システム」の研究開発などに取り組んできた。

サスメドの上野太郎氏

 サスメドの上野太郎氏(代表取締役社長)は「新薬開発は中国が台頭している。日本は韓国に追い抜かれるのも時間の問題だ。また欧米承認済新薬の国内未承認品目の割合は2016年の56%から2020年には72%に増加した」と話す。

 図5の左のグラフでは、日本が2016年を境に下落しているのに対し、中国が大きく上昇しているのが分かる。また右のグラフでは、国内未承認薬の割合も年々増加している。

図5 新薬開発の国際動向とドラッグラグ、ドラッグロス(出典:サスメド提供資料)

 上野氏は、こうしたドラッグラグやドラッグロスが日本で起きる原因として「臨床試験のハードルの高さ」を挙げる。現在の臨床試験の流れは、まず製薬会社が医薬品開発業務の受託企業に依頼し、そこが臨床データの信用性や規制対策をする。この規制は主にデータの真正性を問うものであり、上野氏は「真正性はブロックチェーンで担保できるのではないかと考えた」と話す。

 サスメドは2019年に内閣府の「規制のサンドボックス制度」を利用し、国立がん研究センターで、ブロックチェーンによる臨床試験効率化の実証実験を実施した。この実証実験を受け、政府は2020年に規制緩和に向けた通知を発表している。

 規制のサンドボックス制度とは、新たなビジネスモデルの実施が、現行規制との関係で困難である場合に、規制官庁の認定を受けた実証を行い、実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しにつなげる制度だ。

 上野氏は実証実験を「AWSの機能を十分に活用することで耐障害性も確保できた。クラウドサーバも障害が起きる可能性はゼロではない。AWSの耐障害性の技術とブロックチェーンを組み合わせることで障害が出ることなく実証実験を終えられた」と振り返った。

ブロックチェーン技術の実装

 上野氏によれば、臨床試験で工数を要する業務はモニタリングだ。モニタリング業務を省力化しながら、セキュリティとデータ改ざん耐性を実現したものが以下の図6だ。

図6 ブロックチェーン技術の実装(出典:サスメド提供資料)

 現行の業務フローでは、医師が電子カルテに入力したデータをコーディネーターと呼ばれる人がデータに転記し、症例報告書が完成する。この症例報告書は最終的に規制当局に提出され、このデータの信頼性を確保するためにモニターと呼ばれる人たちが電子カルテと症例報告書の照合作業を行っているのが現行の臨床試験業務だ。

 上野氏はこれに対し「これらの業務はコストと時間がかかる。これでは新薬開発が進まない」と指摘する。

 図6の下部はブロックチェーンによる業務フローを表した図だ。この場合、医療機関のデータをブロックチェーン技術を用いて症例報告書に連携させられるため、データの転記に工数をかける必要がない。また、ブロックチェーンの特徴の一つである「改ざん耐性」を利用し、照合作業がなくともデータの信頼性を確保することに成功した。

 サスメドは2022年6月29日、ナルコレプシーという病気に使われる薬を国内でも利用可能にするために、創薬スタートアップのアキュリスファーマとブロックチェーンを用いた国内治験の実施に関する契約締結を発表した。

 上野氏は最後に「私自身、ナルコレプシーの患者を診ている。欧米諸国では薬が承認されながら、日本では使えないという問題を解消できるのではないかと期待している。ブロックチェーン技術を生かして、この国内の臨床試験に取り組んでいく」と語った。

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