数年後、“世界の主流”に躍り出るサービスは? IDCが「IT業界10大予測」を発表

IDCの予測によると、テクノロジー中心型の企業がFortune Global 500に占める割合は今後5年間で2倍になるという。混乱が予想される世界でIT業界にどのような変化が訪れるのか。IDCが挙げた「10大予測」を見てみよう。

» 2022年11月14日 07時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

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 IDC Japan(以下、IDC)は2022年11月10日、2023年以降の全世界のIT業界に関する予測を発表した。この予測は「IDC FutureScape 2023」レポ―トの中で公開されたものだ。

 IDCが今後数年間のIT業界で重要だと考えている10の変化を見ていこう。

今後数年で起こる変化は? 世界のIT業界10大予測

 IDCは今後数年間にわたって経済や政治、社会の混乱に世界中の企業が翻弄されると予測している。事業計画は思い通りに進まず、企業の適応能力と生存能力が問われる中で、「業界リーダー企業は急速に進化する革新的なテクノロジーに基づいて価値を創出する。回復力に優れた(レジリエントな)デジタルビジネスへの組織変革によって切り抜けていく」とIDCは予測する。

 IDCの調査機関であるIDC Worldwide Researchのリック・ヴィラース氏(グループバイスプレジデント)は、「企業を成功に導くために、ITリーダーとビジネスリーダーはDX(デジタルトランスフォーメーション)の実施だけではなく、テクノロジーがビジネス成果に直結する『デジタルファースト組織の運営へと移行』する必要がある」と説明する。

 同氏は、中でも大きな変革を遂げる業界として「IT業界と通信業界」を挙げた。「この2つの業界はas a Serviceのデリバリーモデルと業務オペレーションモデルを採用し、エコシステムとバリューチェーンの抜本的な変化に対処する。データの共有や利用、統制を通じてデータの価値を高められるようCIO(最高情報責任者)とその企業を支援することが、自分たちの最大の任務だと認識するからだ」(ヴィラース氏)

 同レポートは10大予測として、今後1〜2年間で世界的なビジネスエコシステムを変化させる外部要因と、デジタルファーストな世界で勝者になるために必要なテクノロジーを定義、構築、統制する際にIT部門が直面する問題に焦点を当てている。10大予測の概要は次の通りだ。

1. as a Serviceプロセスとスマートプロダクトの台頭

 米経済誌『Fortune』が発表する収益性が高い世界の企業ランキング「Fortune Global 500」に入るテクノロジー中心型の企業の数が、今後5年間で2倍に拡大する。

 デジタルで強化されたバーチャル製品も含む製品に、拡張された顧客エクスペリエンスや、インテリジェントなプロセス自動化などのas a Service要素を追加することが重視されるようになる。今後のIT予算の主流になる。

2. as a ServiceビジネスモデルによるTech by Wireの成長促進

 今後数年にわたってIT業界で最も顕著な進展の一つはTech by Wireによるテクノロジーデリバリーの拡大だ。Tech by Wireテクノロジーには「Self-contained System」(自己完結型システム)、「Software-Defined」(SDx:ソフトウェア定義機能)、「AI(人工知能)支援によるクラウドベース制御システム」「データ駆動型の意思決定」などが含まれる。

 Tech by Wireの採用を促す最大の要因はコストメリットだが、その他にもデジタルレジリエンシーの向上、革新的なテクノロジーの大規模な早期利用、システムの簡素化および技術的負債の減少といったメリットがある。

3. IT投資効果の最大化を阻む重要スキルの不足

 ほとんどの企業が、適正なスキルを備えた従業員の確保と維持に苦心している。拡大するデジタルビジネスの要件を満たすべく、従業員に重いプレッシャーがかかる。今後はユーザー企業やITプロバイダーはニーズに適した技術、コラボレーション、クリティカルシンキングのスキル開発に投資する必要がある。

 「デジタルビジネスに必要な人材とスキルの確保という現在の難題を解決するためには、ビジネス戦略や学習戦略とテクノロジー戦略を一体化させる必要がある」(ヴィラース氏)

4. デジタル主権によるスタッフや予算、業務プロセスへの影響

 クラウドやas a Serviceを提供する企業は、「デジタル主権」をめぐる展開の中心になる。デジタル主権とは、国や地域が海外のプラットフォーマーなどに依存せずにデジタル技術やデータ基盤を整え、それらを活用する上で主導権を握ることを指す。

 データ保護の保証や技術基盤やデータの所在地をめぐる主張によって、いくつかのIaaSやPaaSのワークロードがローカルクラウドプロバイダーに集まる。一方で、サステナブルな事業運営への要請から、グローバルクラウドプロバイダーの間で、ローカルパートナーとの協業による「デジタル主権を確保するサービス」への関心が喚起される。

5. as a Service支出の急増に伴う評価の厳格化

 ほとんどの企業にとってコストは最大の懸念事項だ。as a Serviceの利用から生じる「業務負担の大幅かつ持続的な軽減」「イノベーションへのアクセスの迅速化」といったメリットが、コストによって見えにくくなる。

 支出を抑えるための努力は、「業務とイノベーションに期待通りの価値をもたらすのはどのサービス」かという評価に焦点を合わせる必要がある。

6. サービスプロバイダーの専門知識の提供能力が向上

 より標準化されたコントロールプレーンベースのas a Serviceの提供が進む。それに伴ってAIと自動化の利用が活発化する。セキュリティやデータ、業界固有の知識やプロセスを提供するプロバイダーは、価値の高い専門家の知識基盤をより多くの顧客が利用しやすいコストで提供するようになる。

7. テクノロジーサプライチェーンは依然として重要な懸念事項

 2025年には、世界的、あるいは地域的な半導体チップの供給問題とソフトウェアのサプライチェーンの問題によって、多数のデジタル製品が発売延期になる。遅延を回避するため、意思決定者はクラウドプロバイダーに定量化が可能な成果を求めたり、サプライチェーンインテリジェンスに投資したり、マルチソーシング戦略を採用したりする。

 「テクノロジーサプライチェーンの信頼性確保は、もはやCIOだけの問題ではない。デジタルビジネスの経営幹部全員が、テクノロジーを主要な関心事項とする必要がある」(ヴィラース氏)

8. 簡単には進まないコントロールプレーンベースシステムへの移行

 今後数年間、IT部門にとって最も難しい課題の一つは、コントロールプレーンに関する設計の成熟度を高めつつ、基本的な制御システムを少数の標準的なプラットフォームに段階的に統合していくことだ。Tech by Wireソリューションを利用しようと試みる企業の半数以上が、サイロ化した多数の制御システムに苦慮することになる。

9. 自動化への信頼確立が成功の重要条件

 自動化への信頼を確立するには、自動化が重要な役割を果たす取り組みにおいて、人間や組織の行動の力学を重視する必要がある。信頼の低さに起因して重大リスクが生じる可能性は低いように思えても、企業ブランドへの影響や、信頼を構築し直す必要が生じた場合の影響は極めて大きいことに留意すべきだ。

10. マシンビジョン(注1)によって実現される、物理的な場所におけるエクスペリエンスの改善

 デジタルによって最適化された仕事や遊び、健康に関わる場所に、ビジョンシステムを導入することでリーダー的な地位を確立する企業は、データのインテリジェントな利用に基づいて、顧客ロイヤルティーの獲得と維持だけでなく、ビジネス成果の向上という点でも長期的な優位性を築く。

(注1)デジタルセンサで取り込んだ情報をAIによって分析する技術。製品の識別や検査、測定などに利用されている。生産工程の自動化を支える技術の一つ。

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